火山防災の研究―火山の人的被害削減を目指して―

防災科学技術研究所(以下「防災科研」)で火山防災の研究をしている宮城洋介さんにお話を伺いました。
宮城さんは火山防災研究部門で日本にたくさんある火山の研究をしています。火山災害による人的被害を減らすため、どのような研究をされているのかお話を聞きました。

目次

日本に数多くある火山の研究

――2014年9月、御嶽山で58名が死亡し、行方不明者5人を数える、日本における戦後最大の火山災害がありました。

日本国内で被害につながる火山噴火は近年ではなかなかありません。1991年~95年の雲仙普賢岳噴火以来の、多くの方が亡くなった災害でしたので、火山研究者としてショッキングな災害でした。あとから見ると地震が増えていて、直前に火山が膨張していたのはわかりましたが、それをきちんと予測して伝えられたかというと難しかったですね。

――日本は活火山が多いんですよね。

多いです。気象庁の定義では「活火山とは概ね1万年以内に噴火した火山、または現在活発な噴気活動がある火山」とされています。

日本には活火山が111個あります、世界には1500個くらいあるのでこの狭い国土で全世界の7%くらいの活火山があるということになります。

次に危ないとはっきり言えるものはありませんが、過去の活動履歴や現在の活動状況などから常に監視が必要だとされている火山(=常時観測火山)が50個あります。主に気象庁がこれらを監視しており、防災科研はこの内の16火山に観測点を設けて監視しています。火口からどれくらいの距離に何人の住民がおり、どれくらい道路や線路があるかなどを踏まえて選定しています。

※噴気活動:火口からガスや水蒸気が比較的緩やかに放出される現象

――御嶽山はそのリストに入っていなかったのでしょうか。

常時観測火山の50個には入っていましたが、防災科研が監視対象とした16火山には含まれていませんでした。御嶽山は1979年に有史以降初めての噴火をしました。それ以降は、小さい噴火を繰り返してきましたが被害が出るような噴火は起こしてこなかったのです。

今まで噴火していなかった火山が噴火するということがありえます。噴火しないと言われていても、例えば100年に1回しか噴火していなかったというレベルだと思います。しかしここ100年で1回噴火した火山は、今すぐではなくてもいつ噴火してもおかしくないと我々は考えています。

――そもそも火山ってなんで噴火するんですか?

いろいろなタイプの火山があります。地下にマグマが溜まっておりそれが上昇して直接外に出ることもあれば、火山の地下にある水が熱せられそれが爆発することもあります。端的に言ってマグマの活動が関与して噴火を起こすと考えられています。

過去何万年ぐらい遡ってみて、噴火を繰り返してきた火山は、やはり同じような噴火を繰り返す可能性があります。一方、今までと違う噴火をする火山もあり、その辺を予測するのはなかなか難しいです。

――宮城さんはどういった研究をされてるんですか?

もともと噴火を現象として捉え、その現象がどうして起きるのかという研究をしていました。もともとJAXAにいまして人工衛星のデータを使って地面の地殻変動を測り、こんな地殻変動を起こすということは火山の地下でマグマ溜りはこんな膨張をしているんじゃないか、こんな動きをしているんじゃないか、といったことを明らかにする研究をしていました。地下を直接見ることはできませんが、そこで起こった現象が地表に何かしらのシグナルを出すんですね。地震であったり地殻変動だったり、そういったものを遠く離れた宇宙空間から捉え、その現象を理解するということを目的に研究していました。

噴火が近いのか?まだないのか、そういった活動評価に繋がる研究もあれば、さらにその先の、噴火したときに登山客や住民はどうしたら良いのか?どう知らせて、どう逃げるのが早くて安全か、そういった火山災害に対しての対策技術の開発を最近はやっています。

例えば、登山者の数や位置を把握する方法とか、情報をいかに共有するかを考えたり、火山周辺の自治体と協力して噴火を想定した訓練も行っています。事前防災というのは非常に重要なのですが、訓練等で活用するツール開発をしています。特にここ2年は先ほどの御嶽山をフィールドにして、登山者の動向を把握する実験や、情報共有のための実証実験をやりました。栃木県、福島県の間の那須岳では自治体と一緒に防災訓練を行ったりしております。

御嶽山で機器を設定する宮城さん

――噴火予測も大事ですが、減災のためにはいざ起きたときのすみやかな避難を想定することも大事ですよね。


パイロットを目指した子供時代

小学校時代、将来の夢は大体飛行機描いてパイロットって書いていました。祖父が医者で伯父が飛行機のパイロットだったのでその影響を受け、小中ぐらいまで何となく、そういうことを言っていました。でも、どっかで気づきます。パイロットってなるためのハードルがすごい高いんですよね。健康でなきゃいけないし頭も良くなきゃいけない。これはハードルが高いぞと。お医者さんも。なるのはすごく難しいなあって、段々と気付いてきます。

高校生になる頃にはパイロットを目指そうという情熱はなくなっていました。

中高生では、もうこれになりたいっていうのはなかったです。その時は漠然と理系の研究者になるのも面白いなと思っていました。私が十歳ぐらいの頃にハレー彗星が話題になり、お年玉貯めて最初に買った高い買い物が天体望遠鏡でした。ハレー彗星は見られませんでしたが。その少し後にスティーブンホーキング博士も話題になりました。何か研究するっていうのは楽しいんじゃないかなって漠然と思っていたのが中高生の時です。

大学受験のときは、理系を選びました。志望は理学部でした。工学部でも農学部でもなく、理学部にしました。

北海道大学に入学したのですが、北大の理学部は一年生の時に物理系とか化学系とか生物系とかに分かれていて、学科分属が二年生からでした。一年生のとき物理系に在籍し、二年生の学科分属時に理学部地球物理学科に進みました。そしてその後の研究室選択で地震や火山を研究する固体地球物理学の研究室に入りました。

研究内容に惹かれて入ったと言いたいところですが、やはり成績も関係します。頭のいい人や、成績のいい人は物理学科に入る中、私は残念ながらあまり成績が良くなかったんです。私のいた研究室は今ではすごい人気があって倍率が高いのですが、当時の私は成績的に入りやすい所に行った感じでした。所属した研究室は北大の地震火山研究観測センターというところで、地殻変動や地面の動きを精密に捉えることでその地震がどうやって発生したか、どうやって噴火が起こったとういう現象の研究を学生の時に始めました。

――その後、大学院、JAXAにて人工衛星で地面の地殻変動を測定する手法を使って地震や火山の研究をされ、現在に至るんですね。

十勝岳での観測風景

本を読み、好きなことを見つけてみる

中高生へのメッセージとしては、好きなことや興味ある事がある人は遠慮しないでどんどんやったらいいんじゃないかと思います。これが将来役に立つのかなとかあまり考えなくていいんじゃないかって思います。

好きなことや興味がある事が見つからない人は、たくさん本を読んだらいいなと思います。私は子供の頃はあんまり本を読んでなかったのですが、大学から社会人になる頃に、いろんなジャンルの本を読んでいろんな知識を得て楽しかったですね。そういったたくさん本を読むことで好きなこと、興味があることを見つけられるかもしれないですし、本を読む習慣を持つこと自体がすごくいいことなんじゃないかな。本を読むことで人生が楽しくなった実感があるので、たくさん本を読んでください。


「ギリシア神話を知っていますか」(阿刀田高)

小学校中学校の頃は漫画ばっかり読んでいたんですけど、たまたまこの「ギリシャ神話を知っていますか」という字ばっかりの本を読んだら面白くて何度も読み返すくらい夢中になりました。難しい小説とかいうものでもなく、すごく軽い文体で、ギリシャ神話のいろんなエピソードを深掘りしていくっていう本なんですけど、これが面白いんです。

ギリシャ神話ってよくプラネタリウムで聞く星座の話とかですね。だから知っている話もいろいろあると思います。神話と自然科学はちょっと親和性があるというか、昔の人ってよくわからない自然現象をだいたい神様のせいにしていたとか、この本を通して知って、なんて面白いんだろう、とギリシャ神話自体も好きになりました。今では一般的とされている自然現象を、当時はその神様の心模様みたいな形で解釈していたんだなとか、そういうのがすごく面白くておすすめです。
(本の情報:国立国会図書館サーチ)


【プロフィール】

宮城洋介さん

国立研究開発法人防災科学技術研究所 火山防災研究部門 主任研究員

北海道大学理学部地球科学科卒業

北海道大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻博士後期課程修了

北海道大学地震火山研究観測センター、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究員を経て、防災科学技術研究所火山防災研究部門に主任研究員として所属。

現在は御嶽山や那須岳をフィールドとして火山防災に関する研究開発に従事。

FM84.2ラヂオつくばにて毎週月曜22時~22時30分放送中様々な研究所の博士や専門家たちにお話を聞いています。

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scienceexpress@gmail.com

写真提供=宮城さん


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この記事を書いた人

総合科学研究機構総合科学研究員
サイエンス・エクスプレスMC サイエンスコミュニケーター
気象予報士の資格を持ち、お天気の実験教室などを開催。第11、12回気象文化大賞を受賞。

実験の楽しさや自然の素晴らしさ、災害の恐ろしさ、人類や科学のすごさをみなさんと共有していきたいです。この世界はたくさんの知識に溢れている。学ぶってワクワク。一緒に科学を楽しみましょう!

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