建築デザインの力で、震災の記憶を伝える

仙台を拠点に東日本大震災の伝承に貢献する、H.simple Design Studio 合同会社代表で建築家の小山田陽さん。東京で建築を学び、働いていた小山田さんが東北に戻り、建物の設計・建築や空間のデザインに取り組むことへの思いを伺いました。

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建築で復興に携わる

山形県河北町出身です。中学生の時の家庭教師が「(僕には)建築がいいんじゃない?」と一冊の雑誌を買ってくれたことがきっかけで建築の世界を目指し、建築学科のある東京の大学に進学しました。そのまま就職し、当初は東京で建築家として働き続けるだろうと思っていました。

そんな考えを一変させた出来事が、東日本大震災でした。生まれ育った東北が大変なことになっている。何かをしなければという気持ちに駆られました。被災地へのアクションは、ボランティアなどさまざまな形がありますが、僕は自分の建築設計のスキルを活かそうと考え、「仕事を通じて長期的に関わりたい」という思いで仙台での仕事をスタートしました。

震災直後から2年くらいは、被害調査や解体、新築設計など、復旧のための膨大な仕事でめまぐるしく過ぎていきました。その後は、せんだい3.11メモリアル交流館や山元町震災遺構中浜小学校など、震災を後世に伝える施設の会場構成やデザインなどを手がけるようになりました。

同交流館がオープンした翌年の2017年に、個人事業主から法人化し、H.simple Design Studio合同会社を立ち上げました。その後も変わらず震災関連施設の設計に臨んでいます。その頃に、被災した仙台市の荒浜地区で「荒浜のめぐみキッチン」という活動を、農家や建築家、映像・音響・作曲家、料理研究家、演劇家などクリエイティブで多彩なメンバーと共に始めました。食や文化、地域資源などの荒浜の“めぐみ”を楽しみながら学ぶ場として、週一度の「朝活」のほか、イベントも企画・開催しています。

「震災の記憶」を伝える施設とは

震災遺構やメモリアル施設のような、いわゆる展示施設は、「伝えたいことがある」空間です。何を伝えたいかを深く理解することはもちろん、デザインや設計によってその情報やリアリティがもっと伝わりやすくなるように、検討や工夫をしています。

例えば仙台市営地下鉄荒井駅に併設されたせんだい3.11メモリアル交流館では、すべての企画・展示が震災に関連しているという性質を踏まえ、一般的には常設展示と企画展示で部屋を分けるところを、あえてひとつの空間に配置しました。その中で、震災・復興の記録、すなわち不変の情報である常設展示スペースからスロープを降りると、時と共に変化する情報を扱う企画展示スペースに至る、という動線を作りました。

床板やテーブルには、被災した体育館の床材を再利用しています。その床板には、「震災の記憶」がある。震災で壊れてしまったものでも、丁寧に扱い、継続して活用することに、メモリアル施設としての在り方が重なっていると考えています。

設計や内装などのハード面に限らず、運営や企画といったソフト面に関わるのも好きです。2018年には、せんだい3.11メモリアル交流館での「竹で遊ぶ」企画展示の会場構成を担当しました。仙台市沿岸部には昔から「居久根(いぐね)」と呼ばれる防風・防砂のための屋敷林を植える文化があり、津波で樹木が被災した中、地中深く根を張る竹は再び成長し、新たな活用法を考える必要がありました。そんな土地の文化に触れる企画に参加できたことはうれしいですね。

模索していく「伝承」の在り方

震災を伝える施設に求められる役割は、時代と共に移ろうものだと思います。だからこそ人とのコミュニケーションも含め、メンテナンスや新たに必要になった設備のデザインなど、ライフワークとして継続的に関わり続けたいと思っています。

同時に、震災について、比較的ゆるやかな伝え方も模索しています。荒浜のめぐみキッチンは、裏テーマとして災害を身近なものとして感じてもらえたらいいなという試みがあります。

発足から現在(2022年3月)までで、丸い田んぼでの田植えや生葉での藍染などをはじめ、荒浜のめぐみを活用した多種多様な体験型イベントを35回開催しました。楽しい記憶を持ち帰ってもらいたいので、最後には必ず荒浜の食材を使って参加者と一緒に調理してご飯を食べるようにしています。同時に、近くにある荒浜小学校や住宅基礎などの震災遺構の学びの場や、めぐみキッチンの活動敷地内にある震災前の道路跡などから、気付きを得てほしいとも考えています。

規模や数の大きい東京に居た頃と比べると、同じ仕事でも、仙台では自分が社会のどこに貢献しているかが見えやすい。人や仕事のつながりも継続しやすく、縦割りではなく横のつながりが強いので、視野も広がる気がします。

震災から11年が過ぎ、南三陸さんさん商店街に隣接する隈研吾氏設計の建物内に設置される伝承施設「南三陸311メモリアル」の内装デザインをもって、メモリアル施設を作る仕事は一旦区切りを迎えます。これからは、引き続きデザインや設計の力で「伝承」の在り方を模索する方々を支えながら、自分自身でもどんなアプローチができるのか、探り続けていきます。

おすすめの本
R・ヴェンチューリ著、伊藤公文訳「建築の多様性と対立性」(鹿島出版会)

大学時代に買った、自分にとってのバイブルです。建築において相反する二つ以上の条件を満たす必要がある時、白か黒かではなくどのように両立させるか、見せ方の落としどころを見出していくか。設計だけでなく、何事にも通じる「考え方」を元に、具体的な事例を学ぶことのできる書です。建築を志す方には、ぜひ手にとってほしい一冊です。

本の情報:国立国会図書館リサーチ

(写真提供:小山田陽さん)

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この記事を書いた人

仙台、東北を中心に活動する広告制作会社&代理店。2019年創業。インタビューやキャッチコピーなどのコピーライティングをはじめ、パンフレットやウェブサイトなどのデザイン、ブランディング等に携わる。社員全員が食とお酒に対して貪欲であるため、六次産業化等の商品開発、ブランディングが好き。

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