田舎でもできる。「ダンボルギーニ」がかなえた夢

宮城県石巻市にある「今野梱包」代表取締役社長の今野英樹さん。スーパーカー「ランボルギーニ」を段ボールで作りました。その名は「ダンボルギーニ」。女川町の復興商店街で展示され、大反響を生んだ「ダンボルギーニ」の裏には、今野さんの「田舎でも都会と渡り合えるものをつくる」という情熱がありました。

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夢から生まれた「ダンボルギーニ」

宮城県石巻市の桃生(ものう)という地域で、ものを包んだり、運んだりするときに使う段ボールを取り扱う会社を経営しています。「ダンボルギーニ」は、色んなことがつながって誕生しました。東日本大震災のあと、若い大学生と話した時のことです。その学生が「東京に行くんですよ。東京に行ったら夢が見られると思って」と嬉しそうに話していたんです。私はその姿に違和感を持ち、背筋が寒くなりました。「この石巻や桃生では、夢が描けないのか」と。

 確かに東京は華やかで便利な街。でもなぜ、この地域で若者たちが夢を見られないのか?夢を見させられなかったのは、私たち大人のせいではないか、と考えたのです。復興していく街。再建された建物や道路を作って何になるのか。若い人たちが「やりたいことをやる」文化を作れないかと考えました。

 ただ、自分を振り返ってみても、子どものころに描いていた夢をまだかなえられていませんでした。それは、いつかスーパーカー「ランボルギーニ」を手に入れたいという夢。小学2年生くらいの時、近所の駄菓子屋でスーパーカーのカードや下敷き、消しゴムが並んでいて、ポルシェ、フェラーリといったスーパーカーに憧れを抱いていました。がむしゃらに働いて、仕事は頑張っていたものの自分の個人的な夢や憧れをかなえられないまま、気づいたら40歳になっていました。

 自分の夢をかなえて、そしてみんなが「あっ」と言わせるものを作りたい。それが、私たちが会社で扱っている段ボールでランボルギーニを作ることでした。段ボールでランボルギーニだから、「ダンボルギーニ」。社員と一緒に、ダンボルギーニづくりへの挑戦が始まりました。田舎でも、都会と渡り合えるものを作りたいと考えていました。

石巻から、更なる舞台へ

 実際のランボルギーニは手元になかったため、写真やラジコンなどから設計図を作り、約1年かけて2014年に実際の2分の1サイズのものが完成。そこからさらに1年かけて2015年にダンボルギーニが完成しました。段ボールは基本的に、曲げることはできません。そのため「平面で局面を表現」する必要があります。車体の滑らかな曲線を表現するのは難しく、特にタイヤのデザインには苦労しましたが、細部までこだわって完成をさせました。車体の色はピンク。ここは会社のある石巻市桃生町の「桃色」から取りました。

 そして2015年11月、仙台市であったイベントで初公開したのですが、反響は今一つでした。その時は来場者の方に写真を撮影したものの、1本もメディアの取材がありませんでした。「大したことがないのか」と思ってしまいました。

しかし、これではあきらめきれませんでした。そこで、SNSを使いました。ツイッターに、大学生の息子のすすめで、ダンボルギーニの写真を投稿。投稿には「『ダンボルギーニ』完成しております」とだけ投稿しました。わざと場所も明かさずに、「今野梱包」という会社の名前が入ったトラックと一緒の写真と、宮城で展開している食料品店をバックにした写真を投稿しました。見た方に、このダンボルギーニがどこにあるのか、検索してほしかったからです。

これが、大反響でした。1万回ほどリツイート(引用)されて、これをきっかけに全国紙の新聞に取り上げて頂きました。「ダンボルギーニをどこで見られるのか?」という連絡がどんどん来て、会社のホームページにも多くのアクセスが寄せられました。

そこで決心がつきました。「ダンボルギーニを多くの方に見てもらおう」。実はその前から、石巻の隣町、女川町にあるJR女川駅前で東日本大震災後に新しく整備される商店街「シーパルピア女川」にお店を出さないか?というお話を頂いていました。私たちは段ボールの資材を販売する会社なので、店を出したとしても、何を展示、販売するか?ということは悩んでいたのですが、「ダンボルギーニを展示しよう」と決めました。

まさかの連絡もありました。「ランボルギーニ」の販売店の方から連絡があったのです。「怒られるんじゃないか?」と思ったのですが、集客のお手伝いをしたいので、ランボルギーニを持ち込めないかというお申し出でした。女川にとっては、新しい商店街ができる歴史的な日になるので、ダンボルギーニを置くお店とは少し離れたところにおいてほしい、とお願いし承諾してもらいました。

そして迎えた、2015年12月23日。シーパルピア女川と私たちのお店がオープンしました。多くの方がダンボルギーニを見学に訪れ、そして私の前には取材を待つ列ができました。12月だけで37件の取材を頂くことができ、大きな反響を頂きました。またお店には段ボールで作った昆虫の工作キットなどをご購入いただきました。その後も全国向けのテレビなどの取材を何度も頂きました。海外からも見学に来る人がいらしたため、ダンボルギーニのホームページの英語版も作りました。

◆ダンボルギーニのHP

http://damborghini.com/

ダンボルギーニの反響で思わぬ依頼が舞い込みました。2016年秋、映画「スターウォーズ」に出てくる歩行型の輸送機「AT-ACT」を段ボールで作ってほしいという依頼が、映画の配給会社のウォルト・ディズニー社の関係企業からあったのです。スターウォーズの映画の新作に関するイベントに使いたいということでした。高さは約5メートル。制作期間はわずか4か月。図面もないところからのスタートでしたが、何とか完成をさせて東京で展示しました。さらに、宝塚歌劇団の舞台装飾を段ボールで作ってほしいという依頼を頂くこともできました。

ダンボルギーニをきっかけに、石巻の田舎の、社員も10数名の会社でも、世界を代表する企業や日本を代表する歌劇団と仕事ができた。まさに「夢」をかなえることができました。「ことだま」という言葉がありますが、言葉には「魂」が宿ります。言葉にすれば、その通りのことが起こると実感をしました。

工夫一つで役立つ段ボール

 段ボールの価値をもっともっと伝えていきたいです。段ボールはどのご家庭にもありますし、形状を変化させることも可能です。工夫一つで役立つものになります。段ボールで何でも作れるよね、ということを子どもたちに伝えていけたら、例えば災害の時などにも役立つと考えています。

写真提供=今野さん

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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