仙台の若者が集う場「ONE TOHOKU」ができるまで

仙台市を拠点に、社会人の若者や大学生をつなげ、様々なイベントを企画・開催している「ONE TOHOKU」。2018年の設立から、わずか4年で多くの若者や社会人のつながりを作ってきました。なぜ短期間でつながりを作ることができたのか、設立時からの中心メンバーで一般社団法人ONE TOHOKU HUB代表理事の手島慧(けい)さんにお話を伺いました。

目次

東北への想い

私は仙台市出身です。大学は京都の大学に行きました。学生時代は、京都の湯豆腐屋さんでアルバイト。一緒に働いた方の中にはアルバイトをしながら役者を目指している年上の方もいて、「50歳でも夢をおいかけているんだ」と感じました。

「自分自身知らない世界を追い続けたい」という願望があって、旅行で色々なところを巡ってきました。学生時代からこれまでに海外30ヵ国42都市、国内47都道府県を回り、色々な方との交流を楽しんできました。「人が大好き」で「自分の五感で感じたい」人間です。

東北への想いが芽生えたきっかけは、大学2年生の終わりにあった、東日本大震災でした。震災の被害を見て、何かやるしかないと思いました。また、震災の前から、東北から離れて京都にいて、客観的に東北を見ながら、「仙台・宮城・東北をもっと面白い地域にしたい」という思いを持っていました。2013年に大手旅行会社に就職し、Uターンという形で仙台に戻ってきました。

「ONETOHOKU」ができたきっかけは、「仕事はもっと楽しくできる」というタイトルの1冊の本でした。東京の大企業に勤めている若手社員さんが、自分たちが勤めている企業をよりよくしたいという思いで集まって「ONE JAPAN」という団体を設立したストーリーがまとめられていました。会社の数は50社、若手社員1200人が職種の境界を越えて集まりつながりを作ったというストーリーでした。この本を読んだ4人が2018年12月に集まり、仙台でもこんなつながりやコミュニティが作れないかという話が上がりました。

私はこの4人の中には入っていないのですが、そのうちの1人から声をかけられ、2019年1月から「ONETOHOKU」の運営に参加しています。自分も旅行会社に勤めて5年目で、会社だけの人だけではなく色んな人と交流したいということで、運営に参画しました。

新しい出会いが生まれていく

まずは団体が活動する上でのテーマを決めました。それが「東北で仕事はもっと楽しくできる」。2019年6月にキックオフイベントや交流会を開催しました。このキーワードに共感する人がどれくらいいるのか気になりましたが、意外と30人くらいの方が集まりました。そこから同じようにイベントや交流会を重ねていったら、新しい出会いが次々に生まれ、これは家でも職場でもない、サードプレイスのニーズがわかりました。

その後イベントは形を変え、地元の新聞社の社員さんと協力して、朝の7時半に新聞を読みあうイベントや、地元の企業さんの社員と一緒に会社の課題解決を考えるワークショップ、色々な社会人がいることを活かした大学生向けのキャリアイベントを開催することにしました。行政の方からも声かけるようになってきて、都市計画のマスタープラン作りに参加をしました。また、仙台に限らず、東北の各地でもイベントをやりたいという声があり、盛岡、秋田、山形などでもイベントを企画。現状にもやもやしている人たちが集まり、またをやろうということで、参加者を集めて、週1回はイベントをやるみたいな状態でした。純粋に、会社以外の新たな世界が広がり、とても楽しかったです。さらに自分たちでお金を出し合って本を出版し、立ち上げから1年の活動を1冊の本にまとめました。

コロナ禍で考えた運営の工夫

しかし、この活動もコロナ禍に直面をしてしまいます。コロナ直後はオンラインのイベントを開催しましたが、ツールとしては使える一方で人と人とのつながりを作るには限界がありました。一方で、東京などから転勤で来ている運営メンバーは転勤で東京に戻ってしまい、運営メンバーが少なくなってしまうという持続性の課題もありました。イベント開催の頻度は少なくなってしまいましたが、その中でも仙台の名物「芋煮」や地域の飲食店をめぐるスタンプラリーなどを工夫して行いました。

持続性には課題があると感じたので、2022年に「一般社団法人ONETOHOKUHUB」を設立。法人格を取得して組織を作り、自治体や企業からの仕事を頂きやすくなりました。仕事で得たお金は団体に入るようにし、持続可能なモデルを作ることを目指しました。運営メンバーは約20名。大手企業や地元企業、行政関係者、学生など多様な若者がそろっており、運営メンバーと強いつながりを持つメンバーにはベンチャー企業や大学などの教育機関など約100名の方々がいらっしゃいます。

◆一般社団法人ONETOHOKUHUB ホームページ

https://www.onetohoku.com/

「ONE TOHOKU」インスタグラム

https://www.instagram.com/onetohoku/

夢・希望を持てる社会を作る

 若者がたくさんいることが仙台の強みだと考えています。仙台は「学都仙台」と呼ばれるくらい、学生さんが多い。また、「支店経済」と言われ、都会から偶然転勤で仙台に住むことになった若い世代もたくさんいます。このように仙台にいる若い世代のみなさんに「仙台にいた時間」を最大限楽しく、いろんな経験をしてもらうということが大事だと考えています。「仙台で過ごしたから今がある」と将来思っていただける方を増やせば、仙台を離れてもたまに仙台に戻ってくる関係性を作れると考えています。

「観光」で人を呼び込むということもできますが、例えば京都やイタリアのローマなど世界的な観光地に比べれば仙台が「観光」だけで人を呼び込むのは限界があると考えています。理想は「人」という唯一無二の存在を活かして、「人が人を呼ぶ」ということ。「この人に会いたい」、「この人と一緒に何かしたい」という面白い人が仙台・宮城・東北にいれば、結果的に「ヒト・モノ・カネ・情報」は集まってくると考えています。

個人的には、若い人たちが夢や希望を持てる社会を作っていきたいです。「どうせ無理なんだ」、「どうせ変わらない」と思ってしまう社会は悲しいなと思っていて。少しでも一歩前に踏み出せるということが大事だと思っています。将来的には、東北の100人以上の若者が100以上のプロジェクトを推進し、100年続く東北を創っていきたいと考えています。そのためにも、「ONETOHOKU」に関わるメンバーを1000人に増やしていきたいです。

今後の課題としては、自分で積極的にイベントに参加をし、道を切り拓くプレイヤー層はなかなかいません。全体の1%くらいだと思います。「やりたいけど、なかなか動けていない人」をどう巻き込むかが大事だと思います。その層の巻き込み役をうまく作っていく必要があると感じています。

おすすめの本
山口繭加、竹内弘高「ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか 世界トップのビジネススクールが伝えたいビジネスの本質」(ダイヤモンド社)

世界の名門大学・ハーバード大学でビジネスを学ぶ学生たちが、震災後の東北のフィールド・スタディを行ったというストーリーをまとめた一冊。アメリカの学生たちがなぜ東北に学びに来るのか?を考えてみると、東北の価値や魅力を考えるヒントが得られます。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=手島さん

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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