「消防団を軸に地域とのつながりを考える」

大学、 大学院時代に地域の消防団について研究し、社会人となった今も岩手県宮古市で消防団など多数の地域活動に励む中沢翔馬さん。なぜ積極的に地域活動を行うのか、そして今後どんな展望をもっているのか。地域のことは地域の人が活動して当たり前という中沢さんのストーリーをぜひお聞きください。

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「消防」を通して解釈した震災

私が消防団や地域活動を始めたきっかけには、生まれ育った環境と父親の存在がありました。私の実家は​​農業を営んでおり、幼い頃から自然や生き物と触れ合いながら育ちました。父親は農家という仕事柄、地域に深く結びついています。「地域のことは地域に住む人々がやって当たり前」という価値観を持っており、地域の消防団に所属する他、「山口青年の会」という地域の盆踊り会やお祭りを主催する団体を立ち上げました。幼い頃からそういった活動に参加し、父の姿を見て育った私にとっては地域活動をすることはとても自然なことでした。

高校卒業後は、地元を離れて県外の大学に進学。希望通りの進学先にすすめず、落ち込んでいた時期もあった私でしたが、大学1年生の3月に東日本大震災が発生しました。父親は消防団に所属していますから、当然自分より住民優先で避難誘導する立場にいることは分かっていました。幸い、父親はじめ家族は無事でしたが、翌日まで連絡が取れずとても不安な想いをしました。

調べてみると、東日本大震災では全国で200人以上の消防団員が亡くなったそうです。消防団は消防署が管轄する地区ごとの組織で、消防車が到着するまで初期対応を行う役割を持っています。火事が起こればいち早く消火活動を行いますし、災害が起これば住民の避難誘導や救出活動を行います。形式的には、非常勤地方公務員という位置付けで手当が発生しますがその報酬は微々たるものなので、実質的にはボランティアのような活動です。

「消防団は仕事でもない自主的な地域活動なのに、どうして地域のために行動できるのだろう」と疑問に思うとともにその勇敢な姿に惹きつけられました。

このことから、大学の卒業論文のテーマは「宮古地域の消防団が震災時どんな活動をしていたか」。市内の団員に聞き取り調査を行い、消防団の活動に関わる人が多い地域は、地域に対するコミュニティ意識が高いのではないか、と結論づけました。

ゼミの先生からの勧めで大学院に入学することにした私は、引き続き消防団について研究をしました。修士論文は「消防団が震災時にどう動いていたか、また、消防団員として震災を経験したことはその人の人生にどんな影響があるのか」について研究。消防団で活動することは地域と深く結びついています。だからこそ、地域の人材として生きていく、ひいては地域とともに生きる道として、消防団がその役割を担っているのではないかと結論づけました。

これらの研究を通して、思わぬ収穫がありました。大学院を卒業する時に指導教員からこのように言われたのです。「消防をテーマに研究論文を書くこと自体が、あなたにとっての震災を整理して、受け入れる過程になったのではないか」と。確かに、無自覚的に消防団のことを研究していましたが、調査・思考・まとめという過程の中で、自分の中で震災のことを解釈し、受け入れられるようになったのかもしれません。

このように、時間が経つからこそ自分の経験を解釈することができることがあると思います。大学院を卒業したから研究を終わりにするのではなく、自分のできる範囲で今後も消防団、震災のことを考え続けていきたいという想いが芽生えました。ライフワークとして活動を続けることでまた面白い発見があるかもしれないと思い、大学院を修了し、地元にUターンした今も大学の客員研究員として籍を残し、研究を続けています

地域への様々な関わり方

私は現在、本業の仕事や家業の手伝い、大学の客員研究員をしながら、複数の地域活動に関わっています。

まず一つ目は、消防団の活動。火事が起こった際には消防署と連携して消火活動を行う他、火災予防運動週間には住民への啓蒙活動、災害時における住民の避難誘導など、地区住民の安全を守っています。

二つ目は、父親たちが立ち上げた「山口青年の会」。最近はコロナ禍で思うように活動できていませんが、例年であれば地区の神社の例大祭に合わせてお祭り広場を主催しています。その他、市内で行われる夏祭り、秋祭りでも屋台を出店しています。

三つ目は、NPO法人みやっこベース。子どもから若者の活躍の場を提供している団体で、副理事長を務めています。理事会で今後の団体の方針を議論することはもちろん、高校生向けの探究学習のサポートを行ったり、大学生のインターンシップの受け入れも行ったりしています。

今後も続ける「当たり前」

このように様々な地域活動をしている私ですが、地域活動のモチベーションの源泉にはやはり「地域のことは地域に住む人々がやって当たり前」という価値観があります。子どもの頃から活動に参加することが当たり前だったので、なんの違和感もなく今も楽しく取り組むことができています。今後も当たり前にやっていくつもりです。

また、みやっこベースの活動に関しては、これまでお世話になった先輩方の影響があります。これまでたくさんの先輩方にお世話になり、今の自分が形成されているのですが、その先輩方から共通して言われた言葉があります。それは「私に直接恩返ししようと思うな。恩返ししたいなら、自分より下の世代のサポートに尽力しなさい。それが私にとって恩返しになるから。」という言葉。この言葉に感銘を受け、子どもたちのサポートを今後も継続してやっていきたいと思っています。

おすすめの本
岸政彦「断片的なものの社会学」(朝日出版社)

ひとびとの人生(ライフヒストリー、生活史)の聞き取り調査をおこなっている社会学者の岸政彦さんによって書かれた1冊。これから様々なことを学び、また悩むこともあると思いますが、「人生」というものはかならずしも「切り分け」「理解できる」ことばかりではないことを感じてもらいたい。また、本書を読むことで、日々の生活で感じるもやもやとした感情や肩の力を抜いてもらいたいと思います。

本の情報:国立国会図書館リサーチ

写真提供=中沢さん

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この記事を書いた人

東日本大震災で被災し、高校・大学時代は「地方創生」「教育」分野の活動に参画。民間企業で東北の地方創生事業に携わったのち、2022年に岩手県宮古市にUターン。NPO職員の傍ら地元タウン誌等ライター活動を行う。これまで首長や起業家、地域のキーパーソン、地域の話題などを幅広く取材。

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