誰でも活躍できる社会を目指して

「社会福祉士」「歩行訓練士」の資格を持ち、岩手県宮古市で20年近く福祉の仕事に携わる有原領一さん。なぜ福祉の道に進んだのか、そして今後どんな展望を持っているのか。社会的に孤立や課題を抱えて生活している方々が活躍する場を作ることにやりがいを感じているという有原さんのストーリーをぜひお聞きください。

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「歩行訓練士」として働く

私が福祉の進路に進んだきっかけは、高齢者向けの介護施設で働いていた父の存在がありました。幼い頃から父の職場について行き、職場の同僚や入所者の方々と自由にコミュニケーションをとっていました。その経験から自然と医療・福祉関係の進路に進みたいと考えるようになりました。

いよいよ進路選択をする高校3年生の時。自分自身が陸上や野球などのスポーツをしていたことからリハビリの道に進みたいと考え、大学を調べ始めました。しかし、時すでに遅し。私は文系に所属していましたが、大学でリハビリの勉強をするためには大学の入試科目に理系の科目があることに気がついたのです。もっと早くから調べておけばよかったと後悔しつつ、ひとまず福祉が学べる大学に進学しました。

大学では、視覚障がい者の伴走者として参加した視覚障がい者のマラソン大会が人生のターニングポイントになりました。私が伴走した視覚障がい者の方が、横浜から茨城の会場まで盲導犬と一緒に1人で電車で移動してきたことを知りました。健常者と変わらず自立している様子を知り、「どうしてこの人は障がい者なのに普通に生活できているんだろう」と驚きを隠せませんでした。それと同時に興味が湧いてきました。

大学卒業後、視覚障がい者のサポートが学べる学校に入学しました。そこで、視覚障がい者の生活全般をサポートする「歩行訓練士」という資格を取得したのです。県内でも私1人しかいないくらい、珍しい資格です。この資格を生かして就職したいと考えていましたが、いざ探してみると求人がとても少ないという現実にぶつかりました。せっかく働くなら地元のために働きたいという気持ちを持っていたので、宮古市社会福祉協議会に就職しました。

前向きに活躍する姿を見て

現在は、社会福祉協議会の総務課で課長を務めています。社会福祉協議会とは、それぞれの地域にある福祉的な課題を解決するための民間組織。全国の各市町村に存在していますが、地域課題はさまざまであるため、市町村によって事業内容が異なります。

私の総務課長としての仕事は、協議会の組織作りを行うこと。例えば、職員の意見を聞きながら今後5年間の経営計画を立てているほか、それにともなう課の再編と人事を担当しています。特に人事は、220人分の職員の人生の一部を担っているわけですから、重圧はあります。でも、私がそうだったように、人はおかれた環境で変わると考えています。ある部署では周囲の人とうまく関係を築けなかった方でも、よくよく話を聞いてみると一生懸命考えていることもあります。だからこそ、「この人がこの部署にいったら活躍するんじゃないか」という期待感をもって考えることが楽しいです。今は現場に出ない仕事ですが、このようなやりがいをもって働いています。

また、総務課長を担当する前は地域の現場で仕事をしていました。ある時は、地区の子どもとお年寄りをつなげる地域活動。あるときは、東日本大震災発生直後から災害ボランティアセンターの立ち上げ。あるときは被災者や生活困窮者のための相談窓口。現場では様々な業務を行ってきました。

特に印象深かったのは、生活困窮者の相談窓口を担当していた時です。窓口では、私たちに悩みや不満をぶつけてしまう方々もいらっしゃいますが、話を聞いてみてみなさんに共通しているのは、孤独を感じていること。そして、社会に貢献したいと思っていること。そこで私は「この人はどうしたら活躍できそうかな?」と考えます。「いつでも来ていいよ」と居場所を提供したり、「ちょっとこれ手伝ってくれる?」と依頼して簡単な仕事をしてもらい、その分の賃金を渡したりします。そうすると、否定されない安心感や、社会に貢献できている実感を持ってもらうことができ、人が変わったようにみなさん活躍してくれるのです。このように、相談に来た方が前向きに活躍していく姿を見るのが嬉しいですし、この仕事の面白さだと感じています。

計画通りに行かなくても

私の今後の目標は、後輩たちの人材育成に注力していくことです。県内の社会福祉協議会の同年代の方たちと人材育成の組織を立ち上げることになりました。これまで自主的な勉強会をしてきましたが、いよいよ本格的に動き出したいと思っています。

また、私個人としては4年間勉強し取得した「成年後見人」の資格を生かして、本業と並行して現場の仕事をしたいです。判断力がない人や身寄りのない人のサポートをしていきます。

これまでの私の人生を振り返ると、特に学生時代は行き当たりばったりで生きてきました。希望の大学に進学することはできませんでしたが、結果的に小さい大学に進学したので、友人や先生と親密になれましたし、部活で部長を務めることもできました。在学中にたまたま参加したマラソン大会で、やりたいことを見つけることもできました。

このことから、私がみなさんにお伝えしたいことは2つです。

一つは、やりたいことが決まっているなら計画的な進路目標を立ててほしいということです。

もう一つは、計画通りに行かなくても諦めさえしなければどこでも活躍できるということです。一生懸命もがいて取り組めば、置かれた環境で自分を成長させ、輝くことができます。学歴が全てではありませんし、いつでもリカバリーできます。無駄なことはありませんから、人生を楽しんでください。

おすすめの本
渋沢栄一「論語と算盤」(致知出版社)

去年の大河ドラマで取り上げられた渋沢栄一が書いた本です。私自身、総務課長として経営を考えていますが、ついお金にとらわれてしまう時があります。そんなときに「会社はなんのために存在するのか?」「なんのために自分は生きているのか?」と問い直してくれる一冊です。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)


写真提供=有原さん

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この記事を書いた人

東日本大震災で被災し、高校・大学時代は「地方創生」「教育」分野の活動に参画。民間企業で東北の地方創生事業に携わったのち、2022年に岩手県宮古市にUターン。NPO職員の傍ら地元タウン誌等ライター活動を行う。これまで首長や起業家、地域のキーパーソン、地域の話題などを幅広く取材。

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