宮城県富谷市を拠点に、Candybase株式会社を経営する金澤秀子さん。ネイルサロンやジェラート店を経営されていますご自身の経験から、母親や女性に「小さなハッピー」を届け、子どもたちが誇れるふるさとづくりを目指す金澤さんの思いを聞きました。
移住をきっかけに開業
神奈川県出身で、ずっと神奈川で仕事をしてきました。10年前に突然、夫が宮城県に転勤になりました。宮城には行ったこともありません。そして当時は小学校低学年から生まれたばかりの子どもが4人。「神奈川に残るか、一家で移住するか」悩みました。
宮城に住むのであれば、夫の職場に近い富谷ということになりました。移住しようと思った決め手は、富谷の中学生の姿です。夫と下見に行った時に、通学路を歩いている中学生が「こんにちは」と挨拶をしてくれました。その中学生の姿を見て、「私はここで子育てをしたい」と強く思い、一家で移住することにしました。神奈川にいた時に、中学生に挨拶されることはほとんどありませんでした。ここならのびのびと子育てができることを直感しました。
そして、自宅のガレージで、ネイルサロンを始めました。ネイルサロンを始めたきっかけは、自分が子育てをしている時の経験からです。子育てをしていると忙しくて、おしゃれをする余裕がありませんでした。「子育ては女性がするもの」というイメージがあるので育児も大変で孤独感を感じることがありました。
でも友人にネイルサロンに連れて行ってもらい、爪にネイルをしてもらって、キラキラしている爪を見ると、頑張ることができたんです。手元は毎日よく見るところなので、ネイルはよく目につきます。また、ネイルサロンに行ってお話を聞いてもらうと、社会とつながっている感覚が持てました。
知り合いゼロから作ったコミュニティ
最初は知り合いがゼロ。少しずつ富谷の方とのつながりができ、地元のハンバーグ店とつながって、地元の商店会のハロウィンイベントに参加することもできました。そしてお客さんがお客さんを呼び、お客さんだった方が私たちの店で働くようになったこともあります。重視していたのは、ネイルサロンを通じて、つながりや、コミュニティを作ること。例えばネイルサロンで駄菓子を販売するなど、子連れの方が気軽に来店できるネイルサロンを作りました。首都圏にはネイルサロンがたくさんあり、お店同士の競争も激しいです。このコミュニティを大事にする形は、富谷という地方だからこそできた形だと思います。
現在はネイルサロンを富谷市と隣町の大和町で3店舗経営しています。私はここで、子育てや自分の働き方に悩んでいる母親や女性の居場所を作りたいと考えています。お母さんが生き生きと働いていることは子供にとってもいい社会だと思うからです。
残念ながら「子育ては女性がするものだ」というイメージがあります。そうなると、女性は出産や育児で仕事を辞めたり、仕事が途切れたりしてしまうことになる。なので私の会社では、母親が子育てをしながら、働きやすい環境を作っていきたい。私の会社でもたくさんの母親が働いていますが、休みやすい環境を作ったり、自分が働ける時間に合わせて働けたりするなどの制度を整えています。
ジェラート店へのチャレンジ
母親や女性が働ける場を作ろうと、次にチャレンジをしていたのがジェラート店です。ネイリストとして活躍できるのは若いうちだけ。なので、女性の働き方の選択肢を増やそうとジェラート屋さんにチャレンジしました。2021年に「とみやど」という交流施設でジェラート店「&TomiyaGelato」を開店しました。
牛乳は近隣の牧場の牛乳を使い、ブルーベリーやはちみつなど地元の特産品を使ったジェラートを作っています。濃厚なチョコ味など一度食べたら忘れられない味も提供しています。
内装なども「インスタ映え」を意識して工夫をしています。「インスタ映え」は「背景」が命。ジェラートを引き立てる白い壁や、ロゴを小さめに印刷してロゴ全体が入るように工夫したのれんなどのアイテムを用意しています。
このジェラートを届けたいのは、富谷の子どもたちです。私たちのジェラートを、「この町の子どもたちが当たり前に食べていたジェラート」にすることを目指しています。子供たちを対象にしたジェラートの作り方の教室も開いています。
富谷においしいジェラートがあれば、子供たちが富谷を離れても富谷のことを忘れないと思いますし、自分たちの生まれ育った町を自慢できるようになると思っています。
小さなハッピーを広げるプロ集団
2022年春には初の県外出店である、岩手県北上市にネイルサロンを出店します。北上市には市内に大きな工場があり、転勤をして都会から移住する方もいる。富谷市に似ている環境だと考えています。そういう場所では、都会にあるけれども、地元にないもののニーズが生まれます。その1つがネイルサロンだと考えています。
私たちは、「小さなハッピーを広げるプロ集団」。ネイルサロンもジェラートも小さな幸せを届ける仕事という共通点があります。起業から10年がたち、今度は次のネイリストたちを育てる段階に来たかなと考えています。これからも、母親や女性が楽しく働ける場を作っていきたいと考えています。
(本の情報:国立国会図書館サーチ)