「ビリギャル」がアメリカに留学し、大学院で学んだこと

『学年ビリのギャルが偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』の主人公、ビリギャルこと小林さやかさん。30代半ばでアメリカに留学し、教育大学院で認知科学を学びました。なぜアメリカに留学し、アメリカでどんなことを学んだのか。そして今振り返る、『ビリギャル』誕生までの経緯を伺いました。

小林さやかさん プロフィール

1988年、名古屋市生まれ。高校2年のときに出会った恩師、坪田信貴氏の著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称:ビリギャル)の主人公。大学卒業後、“ビリギャル本人”として講演や執筆活動をなど展開する。2019年4月より聖心女子大学大学院へ進学、2022年9月より米国コロンビア大学教育大学院の認知科学プログラムに留学。

目次

「ビリギャル」がなぜ大学に合格できたかを知りたい

――アメリカの大学への留学を決めたきっかけを教えてください

『ビリギャル』が出版されて10年近く経ち、「ビリギャル本人」としていろいろな活動をしていく中で、なんで私のような人間が生まれたのかを考えてきました。周りからも「もともとできる子だった」とか「地頭が良かったから結果が出たんだ」とか、いろいろなことを言われました。でも、それが真実かどうかは正直分からないとずっと考えてきました。大学合格を勝ち取れたのは周りの環境のおかげだと思っていたので、どのような経緯で『ビリギャル』が大学に合格できたのかを自分でも理解したいと思ったのが留学の理由です。

――教育大学院では認知科学を専攻されたそうですが、どのような学問なのでしょう?

考える、覚えるといった認知行動のメカニズムを解明するのが認知科学です。私の一番の興味は、人の信念やマインドセットがパフォーマンスにどう影響するかということでした。例えば、モチベーションが上がらない人に「頑張れ」「私もできたからあなたもできる」とことばをかけることってありますよね。モチベーション理論を知ったことでアドバイスが変わりました。また、日本では「やりたくないことでも頑張るのが素晴らしい」といった考えがありますが、そういった精神論にはどうしても限界があります。自分の意志で取り組む、正しく努力するという環境を整えることが、パフォーマンスを最大限に発揮するためにとても重要だと感じています。

アメリカの学びの環境とは

――教育大学院の学びの環境はいかがでしたか?

授業が終わるたびに成功体験が自分の中で積みあがっていく感覚はありました。大学の同級生からも刺激を受けました。西洋の人間と東アジアの人間が同じ場にいること自体が興味深かった。例えば、授業である質問を教授が投げかけます。最初に話しだすのは西洋人でずっとしゃべり続けます。逆に、東アジアの学生は問いに対する唯一の答えを見出してから発言しようとします。西洋人は答えなんか一つのはずはないし、自分の意見を持つことの方が重要だと考えます。これを体験できただけでも面白かったですね。世界中からコロンビア大学に集まる人と触れ合えたこと自体が貴重な学びでした。

――さやかさんが探したいものは留学で見つかったのでしょうか?

自分が抱いた問いの答えが見つけ出せたと感じています。私が大学に合格できたのは、自分自身の強い意志や動機づけがあり、正しい努力の方法を坪田先生*に教えていただき、それを母がサポートしてくれるという環境があったから。この三つが揃ってビリギャルは生まれたと考えています。特に、幼少期に母がマインドセットを作ってくれたことがキーだったと思います。幼い時に親がどのように接したかはとても重要です。例えば、子どもが友だちとけんかして泣いて帰ってきた時にどんな言葉をかけるか、テストで100点取ったとき親がどうほめるのか、「あなたは賢いね」と言うか「よく頑張ったね」と言うか、こうしたことは子どもの成長に響くと思います。

 *坪田先生 さやかさんが通った坪田塾の塾長、『ビリギャル』著者の坪田信貴さん。

――アメリカでは、学び以外にどのようなことを経験されましたか?

日本人は勤勉で努力できる国民だとよく言われますが、努力や頑張りの方向がなんか違う気がします。日本では嫌なことでも努力する姿勢を尊いとする傾向があります。でも、少なくとも私が暮らしたニューヨークではその考えは成り立ちません。彼らは明確な理由や根拠に基づき行動します。例えば、レストランでいいサービスをすればより多くのチップがもらえるかもしれないからから頑張る。あの資格を取れば給与が上がるから資格取得に向けた勉強を頑張る。行動の目的が明確だから合理的に頑張るといったものを感じました。


「私はこうして勉強にハマった」出版に込めた思い

――この度出版された著作に込めた思いを教えてください。

「ビリギャルはもともと頭が良かっただけ」という言葉を本当に多くの方からいただきました。その多くは大人の方です。「この子はもともと頭が良かった」「さやかだからできたわけで全員ができるとは限らない」こういう言葉を耳にするたびに、やるせない気持ちになりました。これを聞いた子どもはどう思うだろう。「ビリギャルのように慶應に行ってみたいけど、自分は地頭悪いから無理」といった間違った思い込みがパフォーマンスを低下させます。子どもたちの可能性に蓋をしたくありません。

強い意思を持った子が正しい努力の方法を身につけ、最適な環境を用意されれば誰しもが成長できるということを伝えたかった。そうでなければビリギャルはただの自慢話なわけで、何の役にも立ちません。ですから、認知科学の学びをベースに、当時の私が坪田先生に教えていただいたこと、試行錯誤しながら見つけたこと、その結果私がなぜ勉強に向き合えたのかを書きました。学生さんでも面白がって読めるような語り口で書いたつもりです。

小林さんのご著書「私はこうして勉強にハマった」

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

高校生に向けたメッセージ

――最後に、高校生に向けたアドバイスやメッセージをお願いいたします。

アメリカに行って、これほどまでにプロセスを見てもらえる文化があることに驚きました。日本は結果がすべてという印象があります。大学受験がまさにその例ですね。不合格イコール失敗と考える方がたくさんいます。そうなると、頑張っても不合格だったらかわいそう、だから挑戦させたくないと周囲の大人は考えがちです。

『ビリギャル』読者からも「商業高校から早稲田大学受験はリスクが高いと止められるんですけど、やっぱり無理でしょうか」といった声が届きます。結果しか見ないということですよね。逆に私は目標に向かうプロセスで何を学び、どれだけ成長したかに光を当てたいと思っています。何かに本気で取り組めばそこには必ず成長があり、仮に望んだ結果が出なかったとしても学びはあるはずです。そこで得たものを次の挑戦に生かせたら素晴らしいことですよね。

――今の高校生に将来のキャリアをどのように考えてほしいとお考えですか?

将来やりたいことや夢を無理やり決めないでほしい。今の若い子たちは、自分には目標や夢がないと悩む方が多いと聞きます。でも、実は周りの大人がそうさせているのかもしれません。中学生や高校生が知っている職業なんてごくわずかです。大人になって初めてそんな職業あったんだ、と気づくこともある。ですから、若い時に将来のビジョンやキャリアを決める必要あるのかなって思います。もう少し選択肢が増えてから考えればいいことですよね。だから、自分の世界を広げていく感覚さえ持っていれば、夢や目標が今なくてもいいと思っています。

まさにそこが探究学習の可能性でもありますよね。人と違っていいということを、学びを通して感じる。自分はこう考えたけれどあの子はこう見てるんだと、他者との違いに寛容になる。無理に枠にあてはめないで、自由な発想で子どもたちが自分の人生を考える練習として探究学習を活用する。そんなことできたら、それは夢のような学びになりますね。



写真提供=小林さん

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

目次