歯科衛生士として、「予防」に取り組む

山形県酒田市の歯科衛生士・前田奈美さん。歯科医院に20年勤めた経験を活かし、2021年9月に口腔ケア専門サロンをオープン。「予防のスペシャリスト」として、歯の健康づくりに関わっています。「予防」に取り組もうと考えたきっかけや、歯科衛生士の仕事についてお話を聞きました。

目次

◆取り組みのきっかけ

山形県の酒田市で育ちました。高校時代、進路をどうしようかと考えた時に、「手に職をつけたい」という思いで、医療系の仕事につこうと考えました。何になろうかな、と考えた時に、死と向き合うのは辛いなと思い、じゃあ「歯」であれば大丈夫じゃないかと思ったことが歯科衛生士を目指したきっかけです。子どものころ、歯医者さんが大嫌いだったのですが、素敵な歯医者さんと出会い、歯医者嫌いを克服したような体験もありました。歯医者さんと衛生士さんが、1つ何かができるとほめてくれた、その経験があったことも歯科医療の道に進んだ原点です。

 歯科衛生士の資格を取るために、仙台の専門学校に通いました。専門学校を卒業する時に進路を考えた時、虫歯や歯の病気を未然に防ぐ「予防」ができないかと考えていました。すると、当時アルバイトをしていた仙台の歯医者さんが、地元の酒田市に「予防」に力を入れていて全国的にも有名な歯科があることを教えてくれて、その歯科で働くことになりました。

勤めていた歯科は、海外とのつながりもあり、海外の歯科医療について学ぶ機会がありました。私も2度、北欧のスウェーデンに行き歯科医療について学んできました。スウェーデンなど北欧の国々は「福祉国家」とも呼ばれています。本当に子どもと高齢者に優しい国だなと実感をしました。例えば、子どもは「スーパーのフルーツを食べていい」というルールありました。高齢者向けの老人ホームのような場所も日本よりもおしゃれな施設でした。

歯科衛生士の育成については、ただ資格を教えるだけではなくて、「資格を取る目的」を学生に考えてもらっていました。スウェーデンの歯科衛生士は学生時代、「何のために資格を取るのか」ということを深く考えるので、日本よりも仕事へのモチベーションや使命感が高いだろうなと感じました。

また、そこで驚いたのは、海外では「口腔ケア(歯のクリーニング)」が習慣になっていて、まるで床屋さんに行くような感覚で、3カ月や半年に1回歯医者さんに行って、歯をきれいにしていることでした。そして、逆に日本はこの「定期検診を受けたり、歯のクリーニングを受けたりする割合」が低いことがわかりました。みなさんも、歯医者は「痛くなったら行くところ」というイメージがあるかと思います。スウェーデンは、「虫歯にならないために歯をきれいにする」ことが当たり前になっていました。

歯の健康を守るためには、「口腔ケア」を日本人の習慣にしてほしい、日本人の意識を変えていきたいと思いました。そこで2021年に勤めていた歯科を退職し、酒田市に「Lycka(リュッカ)」という口腔ケア専門サロンをオープンしました。そのまま歯科を続ける選択肢もありましたが、若い後輩たちの成長のためにも、私は卒業して自分で独立するという道を選びました。

実は「Lycka」がある建物は3人の女性起業家が入居しています。1人はデザイナーさん、もう1人は美容師さん。2人とも起業家の先輩なのですが、もともと知人だった美容師さんが「一緒にやろうよ」と声をかけてくださったことが独立する後押しになりました。また、酒田市は「日本一女性が働きやすいまち」を目指す宣言をしており、男女問わず酒田市の方々のバックアップがありがたいと感じています。

◆どんな取り組みをしているか

私が経営しているサロンでは、歯の状態を確認し、虫歯や歯周病のリスクの確認などを行っています。虫歯になりやすい人もいれば、なりにくい人もいます。100人いれば100通りの予防の方法があります。1人ひとりに合わせてアドバイスするのが私の仕事だと考えています。

そして、実は目に見えないものをどう取り除くかが重要です。例えば、歯垢(しこう)が固まった「歯石」というものがあります。目に見える歯石を取り除けばいいのではなく、実は目に見えない、「バイオフィルム」というばい菌のかたまりを取り除くことの方が重要です。「ここにリスクがあるからこう磨いた方がいいですよ」ということを患者さんには伝えています。

また、歯は28本そろって機能するようになっているので、仮に1本でもなくなると噛む力が弱くなります。なるべく、1本も失わないように若いうちからの虫歯予防・歯周病予防を呼び掛けています。

歯の健康は全身の健康にも関係しています。例えば歯で噛むことができることができれば、「おいしいものが食べたい」と思える。それは、体全体の健康や元気に生きる活力になると思います。歯の健康をきっかけに元気に働ける人を増やすことが日本を豊かにし、社会に貢献することにつながると考えています。また、自分の経験を他の歯科衛生士の方々にも伝えていきたいと考えています。

◆未来に向けて・高校生へのメッセージ

今後は「歯科衛生士」の地位の向上に努めていきたいと考えています。そのためにも、「治療」と「予防」を分けて考える必要があると考えています。歯医者さんは「治療」をする場所。私がやっているオーラルケアサロンは虫歯にならないための予防をする場所。歯科衛生士は予防のプロフェッショナルであるので、役割分担をして、衛生士の地位をもっともっと高めていきたいと考えています。

そのためにも、患者さんのデータを分析して、「このやり方が健康につながった」というデータを出さなければいけないいと思っています。データを出して、最終的には法律の改正につなげていきたいと考えています。

高校時代は、私にとってもターニングポイントになりました。オーストラリアにホームステイに行ったり、部活を頑張ったり。高校時代の友人は今でもつながりが続いています。

これから日本は貧しくなると色んなメディアで騒がれていますが、私は違うと思います。社会がここまで多様化されているからこそ、自分自身をピカピカに磨き上げる力や心を豊かにすることができる力(セルフマネジメント)があれば豊かな人生になるはずだと思っております。色々と悩むことや不安なことがあると思いますが、答えはいつも自分の中にあると思ってほしいです。一度きりの人生ですから思いっきりやりたいことを懸命にチャレンジして素敵な人生を切りひらいていって下さい。

探究テーマを広げる問い

この記事を読み、病気の「予防」について調べてみたいと思ったことはありますか?3つ以上挙げてみよう。

カテゴリ:健康・医療・福祉

◆おすすめの本

「苦しかった時の話をしようか」(森岡毅)

これから進学、就職をしていく高校生の方は、未曾有の時代を経験していくと思います。自分で自分をマネジメントする力こそが生き抜く力であることを森岡さんが分かりやすく伝えてくれている本で、私もたくさんの勇気をもらった本です。

写真提供=前田さん

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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