仙台箪笥を伝え続けるために、変わり続ける。

仙台箪笥(たんす)をつくり、商う門間箪笥店。その店の7代目として生まれた門間一泰さんは、海外展開やデザインの見直しなど、さまざまな方法で仙台箪笥が生き残る道を模索しています。門間さんの挑戦について、お話を伺いました。

目次

仙台箪笥を知ってもらうために

門間箪笥店は1872年の創業です。初代の門間民三郎は、伊達藩の足軽だったそうです。当社では、会社として、昔ながらの仙台箪笥を継承しています。それまで、箪笥づくりは、完全な分業制でした。木工をやる職人、漆を塗る職人、金具をつくる職人というように。

ですが、その作り方だと、責任の所在があいまいになってしまいますし、どこかの工程の職人さんが途絶えてしまったら、箪笥づくり自体出来なくなってしまう。そういうことを防ぎたいと考え、三代目の時に「門間屋」が職人を雇い始め、自社の中だけで箪笥が作れるようにしました。かなり早い段階でそういう革新的なことをやってきたので、業界の中でも存在感があったようです。

私は、2011年に門間箪笥店に入社し、2018年に代表取締役に就任しました。

昔から家業を継ぐことは決めていましたが、経験を積む必要があると考え、大学卒業後は民間企業に就職しました。その会社は短期間でスキルがつくシステムが敷かれていましたし、同期でも、辞めて独立するのが普通だったくらいでした。そこで営業やマネジメントを叩き込まれ、商売のノウハウを学んできました。

門間箪笥店に入社して最初にやったのは、営業に持っていく資料全般をデザイナーさんにお願いしてきれいにすることでした。まずは箪笥を知ってもらわないことには、箪笥は売れません。知ってもらうための営業努力が必要ですが、営業努力をしたところで、第一印象がダサかったらお客さんは離れて行ってしまう。だから、武器である営業資料をかっこよくリニューアルする必要があったんです。

若い人がかっこいいと思えるようなスタイリッシュなロゴをつくりました。ウェブサイトもいかにも伝統工芸のようなデザインではなく、モダンな家具店のようなイメージに変えました。とにかく、それまで箪笥のことを知らなかった人に興味を持ってもらうためには何をしたらいいか、徹底的に考えました。こういうやり方は、最初から門間箪笥店に入社していたら、思いつかなかったかもしれませんね。

技の継承、そして市場を海外に

まず一番に大切にしていることは、「技」を次世代に引き継ぐことです。今当社に勤めている職人は3人。70代と50代と30代です。ほかの工房と比べたら若い人が多いほうですが、その若い職人に、いかに「技」をしっかり受け継いでもらうかが重要です。職人の学校に行ってもらったりして、仙台箪笥のノウハウが途絶えないように考えています。

箪笥の販売という点では、もっと売れる数を増やさないといけないと思っています。伝統工芸を職人の技を継承しようと言うのは簡単ですが、職人さんも稼がないと家族を養えない。伝統工芸品を使わない人が増えていく時代に、いかに稼ぐか、どうやって独立して歩んでいけるのかを考えるのが重要だと考えています。

ただ、仙台や東京で売ろうとしても、時代が変わっているなかで売り上げを伸ばすのが難しかった。現代家具のデザイナーとコラボしたりして箪笥自体のデザインも変えてみましたが、新聞などで話題にはなるものの、継続的な売り上げにはつながりませんでした。

そこで、2014年くらいから、香港などの海外で仙台箪笥を売ることにしました。それはうまくいって、今では海外の売り上げが8割をしめます。香港、中国には、昔の技術を大事に考える文化があるのが大きい要因だと思います。富裕層が良い工芸品を好んで買うという需要もあります。コロナ禍で、一時期売り上げは大きく下がりましたが、これからまた伸ばす方法を模索していきたいと考えています。

伝統を守っていく

仙台箪笥は安いものではありません。日本でも海外でも、ターゲットは富裕層になります。そういう層に向けて、どういう売り方をしたらいいか、どういうデザインならいいのか、しっかり考えていきたいと思っています。

東京や香港で販売して、一番売れたのは「猫足」という「足」がついた仙台箪笥でした。足元が違うだけで、箪笥自体のデザインはそこまで大きく変えていません。我々が作っている箪笥は、使い方によっては、今の生活空間にマッチするんです。そこをもっと上手にアピールしていく必要があります。そこをもっと深堀りしていきたいですね。

仙台箪笥は、百年単位で使い、受け継いでいけるものです。当社でもいまだに、直し、メンテナンスの依頼が多い。なかには100年以上前のものもあります。震災後には、納屋から出てきた箪笥を直してほしいという依頼もありました。箪笥には家族のストーリーがあり、一族に伝わる夢なんです。当社は職人がいるので、新品同様に直すことができます。そういう直しの技術も、これからしっかり打ち出していく必要があるところだと思っています。

仙台箪笥は実用品というよりはぜいたく品です。実用品なら金具の装飾にここまで意匠を凝らす必要はありませんし、高級なケヤキを使う必要もありません。でも、ぜいたく品だからこそ、文化的な背景や歴史のストーリーを味わうことができます。私は、そこに粋を感じます。

技は、一回なくなったものを復活させることが非常に難しいもの。細々とでも、伝えていく努力をする必要があります。伝統は革新の繰り返しでできています。少しずつ変えながら、次世代に引き継いでいきたいと考えています。

おすすめの本
スティーブン・R・コヴィー「七つの習慣」(キング・ベア―出版)

人として生きる上でのとても大切な原理原則が書いてあるため。この考え方を若いうちに、知っているだけでなく、実践できるようになれば、その後の人生が豊かなものになるはずだと思います。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=門間さん

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この記事を書いた人

仙台、東北を中心に活動する広告制作会社&代理店。2019年創業。インタビューやキャッチコピーなどのコピーライティングをはじめ、パンフレットやウェブサイトなどのデザイン、ブランディング等に携わる。社員全員が食とお酒に対して貪欲であるため、六次産業化等の商品開発、ブランディングが好き。

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