コンブ・ワカメなど高校生のみなさんにもなじみ深い「藻類」。光合成をおこなって二酸化炭素を酸素に変えるという特徴があり、地球温暖化などの環境問題の解決に向けて注目されています。
国際農林水産業研究センターで藻類の研究をされている藍川晋平さんにお話を伺いました。
藻類が持つ力とは
――そもそも藻とは?
酸素を発生させる光合成をする生物から植物を除いたものを藻といいます。例えば、みなさんが知っているのが目で見える青のり、海苔、昆布、ワカメなどの大型藻。ほかにも、目で見えないミクロな藍藻や微細藻と呼ばれるものとがあります。
微細藻は顕微鏡で見るような小さいものです。日常にも使われるものの中には藻からできているものがあります。珪藻土とよばれているマットやコースターなどに利用されているものです。珪藻土は藻を乾燥させた、身体が多孔質のガラスでできていて表面積が広いので水分を保持しやすく乾燥しやすいという特徴があるのでそのように利用されているのです。
また、ガラスでできているので熱を加えると遠赤外線を出すことから、七輪も珪藻土から出来ています。
――食べたり使ったり、藻は私たちの生活の一部としてとても身近な生物なんですね。 数は何種類いるのでしょうか?
分かっているので4万種。もっといるのではないかといわれています。バクテリアで8000種、それでもまだ見つかっていないのもいます。研究で生みだしているものは中に入れていませんが、遺伝子組換えなどで性質を変えたものも出てきています。
――藍川さんはどのような研究をされていらっしゃるのでしょうか。
工場や農場で出てくる廃棄物、残渣や排水、ガスなどを藻類や微生物を利用して肥料や資料や燃料に生まれ変わらせて、また食料生産の場で使用できるような研究をしています。
開発途上地域ではプランテーション農業が行われていてパーム油などが作られています。パーム油はマーガリンなどに使われており、スーパーで売られている商品の50%くらいに入っているといわれており、世界でもっとも使われている植物油脂です。
例えば、パーム油を作る工場の排水には藻類が育つのに必要な窒素やリンが含まれています。それらを吸収して藻類の中で新たな物質を作り出そうとしています。緑藻とよばれる小さな微細藻類は、油やビタミンを作り出すことができます。
ジェット燃料などは今注目されていて、藻類が大気中のCO2を固定して油脂を生産します。このように藻類を使ってビタミンやタンパク質や油脂などを作ろうとしています。
――人間の技術ではできないことを、この小さな藻が行っているなんて自然の力はすごいですね。細胞はすごく小さいのでは?
小さいです。そこから抽出する技法はもう確立されていて、遠心分離とか、細胞を回収して有機溶媒などで抽出して精製する、そのような技術は出来ています。
私がやっているのは前段階の生産部分で、排水の中に含まれている有機物、砂糖、酢酸、乳酸、などから藻類を使ってどのように効率よく、ビタミンやタンパク質や油脂を生産するか、というところです。
――日本では確立されているのでしょうか。
輸入元の工場や農場でいろんな環境問題が起こっているという状況です。現地の環境が破壊されやすく、大量の排水問題などがあります。日本の技術でやろうとするとすごくコストがかかるので池にそのままおいている状況が結構あって、発酵が起こりメタンが出てしまったり…。
そういった問題が起きないように藻類を使ってきれいに安価に廃水を処理できないか、と研究しています。
――研究する中で、大変だったことはなんですか?
修士のときに北極海で行われた共同研究に参加しました。船の上で3ヶ月生活。英語が全くできず大変でした。留学経験もなく、先生もいなくて一人で、指導教官がいない中で研究しなくてはいけなくて…。
共同研究者はいましたが、分野が違いました。氷の下にはアイスアルジーと呼ばれる氷の下の環境でも生育できる藻類がいます。北極海で炭素源を作り出す微細藻は、海を支えています。海の幸は全て藻類から生まれてきています。
また、藻類は海を支えているだけではありません、地球の炭素固定量の半分は藻類です。炭素固定は主に熱帯雨林と藻類が担っています。藻類から炭素循環のアプローチをしている研究者もいます。藻類には幅広い研究分野があります。
――反対に、感動した出来事もぜひお聞かせください。
北極は春ぐらいに行きました。氷が溶けて船が動けるようになると、氷が割れるとともに川から栄養のある水が流れてきて、海がブルームとよばれる藻類で茶色に染まります。すごい広い規模で藻類が増えて、これに海が支えられているんだとすごく感動しました。
――今後、藻の研究はどうなっていってほしいですか?
藻はいい研究材料で、面白い性質をもっていますので、藻の研究者がもっと増えてほしいなと思います。藻に含まれる窒素量は多く、ビタミンなど人間に有用なものを作れます。
それらの利用や基礎的な進化の研究もあります。いろんなものに興味をもってほしいと思います。藻類の応用研究をしている人は非常に少ないです。もっと増えればいいと思います。
「理科の実験の先生」を志していた小学生時代
子供の頃は自然観察や植物や虫の観察をずっとやっていました。理科が好きで、夢という感じではなかったですが生物の勉強をやりたいという思いがありました。小学生の頃の文集では、「夢は理科の実験の先生」と書いていて、久しぶりに見たらそんなことを書いていたんだなぁと感じました。
中高生になると、生物が特に好きでした。高校生の進路選択で先生や親からは経済学に進むよう言われましたが、生物系を目指しました。数学Ⅱ・数学Bまでは好きでしたが、数学は苦手でした。とりあえず大学に入って生物の勉強がしたかったんです。
いざ入ってみて、楽しかったこともあれば思っていたのと違うこともありました。大学では理学部生物学科、4年生の研究室で光合成の研究をやっている研究室に入り、藻と出会いました。大学の先生は苔やシダ、藻、キビなどをやっている先生でした。
そこから大学で光合成、修士で北極海にいって藻類の研究、そこから博士課程で同じ研究室で藻類の研究、そしてポストドクター、特命助教として藻類の応用研究を始めたり、メタボローム解析という細胞の中で成分が網羅的にどのように変化しているのかを調べたりする研究を行いました。
藻類を材料に、いろんな手法やいろんな方向性で研究を進めてきました。現在所属している国際農研は農業系の研究所なので、農業から出てくる廃棄物を藻類を使ってきれいにするという研究を行っています。
「自分から経験しに行く」というチャレンジを
最近はインターネットで色々正解が載っている時代になりましたが、正解って実は正解じゃないことが結構あります。
僕の分野だと、野外に行って色々経験したことが活きてきたかなと思うので、実際に自分から経験しに行くということをチャレンジしてほしいです。あとは色んな分野の勉強をしておくと活きてくると思うので、色んな分野の勉強をしてほしいと思います。
【プロフィール】
藍川晋平さん
国際農林水産業研究センター
生物資源・利用領域
主任研究員
FM84.2ラヂオつくばにて毎週月曜22時~22時30分放送中様々な研究所の博士や専門家たちにお話を聞いています。
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写真提供=藍川さん