秋田県にある株式会社TOMUSHIの石田陽佑さん。子どもの時から好きだった「カブトムシ」を使ったビジネスをしています。カブトムシの生産を通して、カブトムシがごみ問題や食糧不足など世界の様々な課題を解決することを発見しました。どのようにカブトムシで世界を救うのか、石田さんのアイデアをお伝えします。
好きなことを仕事に
双子の兄と一緒に、最初は東京・渋谷で起業しました。「優秀そうな人とビジネスがやりたい」と思って、IT系の仕事をしたのですがうまく行きませんでした。その時、祖父が体調を崩したということで、地元の秋田の大館市にある祖父母の家に戻りました。そこで「好きなことを仕事にしよう」と思い立ったのです。そして、子どものころにカブトムシをとりに行くのが好きだったことを思い出しました。毎日のように朝早くから、カブトムシをとりに行っていました。そこで2018年、兄と一緒に、カブトムシの幼虫や成虫を飼育し販売することをはじめました。
ヘラクレスオオカブトをはじめ、多くのカブトムシを飼育してみました。飼育は大変でしたがさらに、ネプチューンオオカブトなどカブトムシの種類を増やし約25種類まで増やすことができました。今では年間50000匹のカブトムシを生産しています。
私はとにかく「カブトムシが好き」という思いで始めたのですが、兄はビジネスの知識があり、どうやったら売り上げや利益を上げられるかを考えていました。私たちはもともとITの知識があったので、WEBサイトを作って、カブトムシの販売を始めてみたところ、カブトムシの販売に特化したサイトということでアクセスが急増。多い日だと15万匹のアクセスがあります。こんなに買ってくれる方がいることは驚きでした。犬や猫と同じくらい、カブトムシを好きな人がいるのではないか?と思いました。やはり子供たちや男性にとってカブトムシは憧れなのだと思います。
しかし、販売はできたものの、思いのほかえさ代が高く、カブトムシを普通に育てると、えさ代がかかって大変なことになることがわかりました。
カブトムシを通して考えるSDGs
そこで、知人が紹介してくれたのが、「廃菌床(はいきんしょう)」を使うことでした。廃菌床はきのこの生産をするときに出る廃棄物です。木くずやおがくず、米ぬかでできていて、そのまま捨てられたら「ごみ」であり、きのこ農家さんに聞いてみると、その廃菌床を捨てるためには費用が掛かることがわかりました。
その「ごみ」になる廃菌床がカブトムシの幼虫のえさになることがわかりました。我々は農家さんと提携して、この廃菌床をカブトムシの幼虫に食べさせています。例えば、カブトムシの王様と言われるヘラクレスオオカブトの幼虫は、大人の手のひらと同じくらいまで大きく育ちます。その大きな幼虫が「ごみ」を分解して成虫になります。また、幼虫のふんは「窒素」なのでよい肥料になるのです。
さらに、カブトムシの幼虫は生ごみなどのごみも食べることがわかりました。その「ごみ」を食べて育った成虫のカブトムシが様々な価値を持つのです。まず、そのままオンラインで販売することも可能ですし、カブトムシを放し飼いにしたイベントを開催すれば、子どもたちには大人気です。先日名古屋でイベントを開催しましたが、特に宣伝しなくても1週間で約2000人の方に来ていただきました。イベントでは、カブトムシが廃菌床を食べて育ったということを伝えているのですが、それは循環型社会やSDGsを伝える場になっていると考えています。
さらに今研究しているのは、昆虫食です。カブトムシの幼虫や成虫を乾燥させて粉にすると、タンパク質が取れます。食べてみると、エビ・カニなど甲殻類と同じような味がします。
これを食用にできないかということを考えています。
世界のタンパク質の問題は深刻です。日本は人口が減少していますが、アフリカや世界各国の人口は増えています。そうなると食料不足、タンパク質不足が深刻になっていきます。そこで、ごみを食べて、タンパク質に変えられるカブトムシは可能性があると思います。そして牛や豚などの家畜よりも、タンパク質を作るために必要な水やえさの量はずっと少ないです。世界で起こるであろう水不足の問題についても、カブトムシは貢献できると考えています。
カブトムシが好きな私にとっては、最初は「食べていいのかな?」と思いましたが、「地球のために食べていいなら、地球のために正しいことをやろう」と思い、開発を進めることにしました。
自分の「好き」が世界の助けに
「カブトムシで世界を救う」ということに挑戦をしていきたいと考えています。私たちが生産するカブトムシは「ごみ」を食べて育つので、使えば使うほど、ごみを減らすことにつながります。
まずはカブトムシの生産を増やし、昆虫食、飼料、肥料、サプリメント、化粧品の分野に進出をしていきます。カブトムシの幼虫のふんは、よい肥料になりそうです。そこから有機肥料を作り、野菜を育て、「カブトムシ印の野菜」として売り出してもいいのではないかと考えています。まずは大学と協働して研究を進めて、これが「健康によい」となれば、面白くなると考えています。
私は「カブトムシが好き」だからカブトムシの飼育を始めましたが、カブトムシでこんなことになるとは想像しませんでした。ただ「好き」で続けてきたことが、色々な人からの応援もあり、形になったのはありがたいことです。「好きなだけ」だったと思いますが、時代に役立つようにアレンジすることで、たまたま世界の役に立つものになりました。実際海外の方からも連絡を頂いています。
(本の情報:国立国会図書館サーチ)
写真提供=石田さん