「スポーツで学ぶ人生観」

医師として働きながらテニスプレイヤーとしての顔も持つ杉山賢明さん。30年以上続けてきたテニスを通じて、どのような人生観を学んだのか。そして今後どんな展望を持っているのか。杉山さんのストーリーをぜひお聞きください。

目次

テニス人生で学んだこと

私のテニス人生が始まったのは小学2年生の時でした。親の仕事の都合でアメリカで生まれた私は、小学4年生までアメリカで生活を送りました。テニスを通じて仲間を作って欲しいという親の意向のもと、現地の日本人コミュニティで運営するテニススクールに通っていました。

帰国後も中学2年生までテニススクールに通いました。全国大会で優勝するほど実力をつけた私でしたが、正直言って勝ちにこだわる厳しい練習よりも勉強の方が好きでした。当時の私は、野口英世の伝記を読み「人類のため生き 人類のため死す」という言葉に感銘を受け、医者になりたいと思っていました。中学3年生の時にはテニスをやめ、1年間受験勉強に専念することにしました。

無事、大学の付属高校に合格。テニスをしなくてもいいとせいせいした気持ちでいたのですが、入学式で過去の対戦相手から「明日から朝練来てよ!」とテニス部に誘われました。しぶしぶ次の日から朝練に参加しましたが、それがきっかけになって気がつけば高校3年間ずっとテニスをしていました。それというのも、気の合うテニスの仲間達と一緒にいられること、勝ち負けにこだわらなくてもいい世界が心地良かったことから、初めてテニスの楽しさを知ったのでした。

大学進学後、医学部の勉強と並行してテニスを続け、大学1年の時良い成績をおさめることができました。しかし、大学2年の時に手首を骨折。完全回復まで1年かかりました。大学3年の時、気合を入れ直して試合に臨んでいたのですが、全くと言っていいほど勝つことができませんでした。スランプに陥ってしまったんです。

「このままではだめだ」と思った私は、「メンタルトレーニング」を題材とした本を読んでみることにしました。そこには、「ミスをしても自分を否定してはいけない。ミスの中でもいいことを探して、自分を励ましてあげればいい」と書いてありました。その本を読んだ私はさっそく実践してみることに。すると今までのスランプが嘘のように、大学4〜6年生の間は毎年全国大会に出場し勝ち続けることができました。

これらの出来事から、私は2つのことを学びました。

一つは、スポーツは人生のツールでしかないということ。スポーツと似ている言葉として「体育」がありますが、日本の場合富国強兵のために生まれたものです。軍隊になってしまうと主体性を失い、言われたことしかできなくなってしまいます。一方で、スポーツの語源はラテン語で「気分転換」です。また、オリンピック憲章には「オリンピズムはスポーツを文化・教育と融合させ、生き方の創造を探究するものである」とあります。このようにスポーツは、結果ではなくプロセスや成長を重視すること、だれかと一緒に楽しんだり、仲間づくりをしたりするためのツールであることを身をもって知りました。

もう一つは、ミスをポジティブに捉えること。スランプに陥っていたときの私は、完璧主義者になっていました。自分のミスを受け入れることができず、自分の頑張りを否定してしまっていたのです。しかし、メンタルトレーニングを学んだ私は「ミスしても改善していけばいい」とポジティブなマインドに変わっていきました。

テニスでの学びを医者に生かす

私は現在、テニスプレイヤーに加えて、医者の顔も持っています。

テニスプレイヤーとしては、地域のテニスクラブの副代表をしています。コーチをする傍ら、自らも大会に出場しています。大会に出ることが私にとっての人生の楽しみやモチベーションに繋がっているので、それを子どもや保護者に見てもらい、スポーツが人生の中でプラスになることを伝えています。

医師としては、在宅医療を行っています。在宅医療は、患者さんのお宅に訪問して暮らしに寄り添う医療です。薬も処方しますが、治療というよりは安心して暮らすための身の回りのケアを行っています。

このように医師として働く私ですが、テニスで得たスキルが生きています。

先述の通り、ミスを受け入れるマインドを持ってから、対人関係のストレスがなくなりました。例えば理不尽な場面があったとしても、「この人は言い方が悪かっただけで本当はこう言いたかったのかもしれない」と解釈を変えたり、どうやったら相手にうまく伝わるのか、この状況を改善するにはどうすればいいかと前向きに考えたりするようになりました。この思考法をテニスを通じて身につけることができ、本当によかったと感じています。

スポーツから得られる喜び

医師でありテニスプレイヤーである私の願いは、「みんなが自分の人生の喜びを発見して自己表現する社会になってほしい。それを周りが賞賛・尊重する社会になってほしい。」ということです。

医師の視点からは、自分の人生の閉じ方を自分で決めて欲しいと思っています。高齢者だけでなく若い世代も、残された時間をより良いものにするために、人生の喜びを見つけて楽しんでほしいです。

また、テニスプレイヤーの視点からは、「みんなが自分のためにスポーツする社会、それを周りが賞賛する社会」になってほしいです。特にスポーツ推薦で入学した学生やオリンピック選手など、周りからの期待が大きい選手やそれを応援するオーディエンスは、結果だけで判断しがちです。本来の意味で自分のためにスポーツができているのか、一度問い直してみてはいかがでしょうか。

最後に、スポーツをしている高校生の皆さんへ伝えたいことは、スポーツを続けることによって得られる喜びがあるということです。私の場合は、テニスを通じて得られる仲間たちや、勝利から得られる満足感が私の生きがいになっています。加えて、テニスを通じて得られたスキルが普段の生活や仕事に生きています。怪我をしたからやめる、大学卒業したらやめると考えるのではなく、違う道に進んだとしても、続けることによって違う道に生きてくることがあると伝えたいです。

おすすめの本
ロバート・S. ワインバーグ「テニスのメンタルトレーニング 」(大修館書店)

メンタルの本はどんなものでもいいですが、対人関係やコミュニケーションにおいて重要と思いますので、一例として紹介しました


写真提供=杉山さん

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

東日本大震災で被災し、高校・大学時代は「地方創生」「教育」分野の活動に参画。民間企業で東北の地方創生事業に携わったのち、2022年に岩手県宮古市にUターン。NPO職員の傍ら地元タウン誌等ライター活動を行う。これまで首長や起業家、地域のキーパーソン、地域の話題などを幅広く取材。

目次