「高校生に水産の仕事を知ってもらう」ポスターを作る

宮城県石巻市を拠点に、未来の水産業の形を提案していく一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン。2022年の春、地元の高校生に水産業の魅力や仕事を知ってもらう新プロジェクトを始めました。「高校生のみなさん。石巻の海で待ってる。」と題したポスターに込めた思いを、このプロジェクトを担当した広報担当の香川幹さんに伺いました。

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水産業の魅力を伝えるポスター作り

一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンは東日本大震災後の2014年に立ち上がり、漁業のイメージを「カッコよくて、稼げて、革新的」に変え、水産業に変革を起こすことを目的に活動しています。

これまでにも、例えば朝早く起きる漁師が朝早く電話(モーニングコール)で起こしてくれる「フィッシャーマンコール」や新しく漁師になりたいという方の育成、大学生向けの仕事体験などを行っていました。全国各地の方々にはPRができている一方で、地元の若い世代向けに水産業の魅力を伝えるために何かやってみたいと考えていました。

高校生に着目をしたのが、石巻の高校生は、高校を卒業すると進学や就職で石巻を離れる生徒が多く、高校のうちが「石巻はいいところだ」と思っていただけるラストチャンスだからです。実際に高校生の話を聞いてみても石巻は水産業が盛んというイメージがあるものの、なかなか働くイメージがつかめずにいました。海に関わる仕事として、例えば「漁業」の他にも「水産加工業」という缶詰や魚を加工して商品を作る仕事があるのになかなか気づかなかないという課題があることもわかりました。

そこで、石巻市役所と一緒に、高校生向けに水産業の魅力を伝えるポスターを作ることを始めました。石巻の各高校に打診してみたところ、「貼ってもいいよ」とほとんどの高校が快諾してくれたこと、電車を活用して通う高校生も多い(朝の電車はほとんど学生しかいないことも)ことから、電車にもはれるポスターにしようとなりました。

自分自身は今24歳なのですが、もともと東京の高校に通っていて、大学時代も東京で国際関係論を学んでいました。「机の上で勉強しているだけではなく、もっと世界にリアルに関われるところはないか」と思って大学卒業後に自分から一番遠かった1次産業・水産業の分野に飛び込みました。東北との縁はありませんでしたが、自分自身も水産業の面白さを感じていたので、高校生にもそれを感じてほしいと考えていました。

ポスターデザインの工夫

ポスターを制作するにあたり、これまで一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンが行ってきた活動の中から、高校生にPRをしたい活動を絞り込みました。石巻の水産業に関わっている方にお話を伺い、14種類のポスターにまとめました。

すべてのポスターに入れたキャッチコピーは、

「高校生のみなさん。石巻の海で待ってる。」

「高校生のみなさん」から始めることで高校生と目線を同じくし、「仲間になりませんか?」という思いを込めてこのキャッチコピーにしました。社内外の人からアドバイスをいただきながら、コピーライティングを学び、ポスターの制作は仲間のデザイナーの方にお願いをしています。

「石巻の水産業ってすごい」ということを感じてもらえるように制作したのがこのポスター。 仙台の水族館にいる深海魚は、石巻の漁師が1000メートルの深海からとってきたというエピソードを入れました。水深1000メートルもの深さから魚をとるってすごいことだと思うんですよね。 

他にも、サバやイワシの加工を行うこちらの水産加工の会社さんでは、魚の選別や運搬をするための巨大な機械があります。機械化が進んでいることもすごいですし、働く人の負担を減らそうとしている、ということを取り上げました。

また、石巻の漁業が他の地域を助けているという事例も意識して取り上げました。

例えばこのポスター。ヨーロッパでカキの生産が盛んなフランスでは、病気でカキの多くが死んでしまい、その時に石巻・万石浦産の種ガキ(かきの赤ちゃん)がフランスに輸出されてカキの生産を救ったことを取り上げました。

このポスターでは、石巻のわかめ漁師と東京の学校の栄養士さんがつながり、東京の給食で石巻産のわかめが出されていて、「食育」にも貢献していることを伝えています。水産業を石巻の中だけで閉じてしまうのではなく、オープンにして外に開くことによって、東京の子どもたちの教育にもつながるんだよ、ということが伝わるといいなと思っています。

他にも、アメリカへの輸出がこれから増えていくことであるとか、若くして漁師や水産業の世界に飛び込んだ若者のことを取り上げました。

全てのポスターはこちらから(一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンのコラムより)

https://job.fishermanjapan.com/column/4575/

出来上がったポスターは市内のショッピングモールや市内を通る電車に掲示。市内の9つの高校の校舎内にも貼って頂き、多くの高校生の目に触れています。高校の校舎内で貼ってもらう時には「○○高のみなさん」のように高校名を入れました。また、高校生に身近なLINEの公式アカウントにも登録できるようになっていて、登録した若い世代に水産業に関する情報発信や仕事紹介を行っています。

「生きる」を感じる海の仕事

私自身、地域の漁村で船にのったり、海の仕事を手伝ったりと、漁師さんと一緒に活動することは、「生きる」を強烈に感じることができて、とても楽しいです。

また、それだけでなく、石巻の水産業は盛んなので、食糧生産、輸出や資源管理という視点からみれば、日本全国、世界にも接続しています。自分にとってはローカルとグローバルをセットにして物事を考えられるのがとても魅力的だと思っています。

今回、ポスターを制作しましたが、今後も地元の若い世代向けに水産業の魅力をPRする活動をしていきたいと考えています。例えば、水産加工会社の見学であるとか、高校で授業をやってみるということもやってみたいと考えています。

高校生の皆さん、石巻の海で待っています。

◆おすすめの本
沢木耕太郎「深夜特急」(新潮社)
新しい世界に飛び出すことの楽しさを教えてくれたから。自分は、人生を「逸脱」することの面白さと怖さの両方を学んだように思います。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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