福島県郡山市で起業支援と人材育成を行う「一般社団法人グロウイングクラウド」代表理事の三部香奈さん。グロウイングクラウドでは、地域で起業を志す人向けの交流会や、女性のキャリアを活かした働き方を推進する女子会などを実施しています。「誰もが自分らしく活躍できる社会を作りたい」と願う三部さんのストーリーをぜひお読みください。
震災をきっかけに人材育成事業を開始
私は福島県須賀川市出身で、郡山市の高校を卒業後、東京にある大学へ進学しました。卒業後は福島に戻り、福島民友新聞社に就職して9年間勤めていましたが、結婚を機に退社して、夫の会計事務所の経営を手伝っていました。
2011年の東日本大震災を経て、子育てもあり一度は社会から離れましたが、郡山市で開催された街づくりのイベントをきっかけに、自分で行動を起こそうとする人材を増やし、育てていく事業を立ち上げました。
現在は立ち上げた事業である「一般社団法人グロウイングクラウド」の代表理事として活動しています。
誰もが自分らしく活躍するために
「人が集い、学び合い、 そして新しい創造が 始まる街」にしたいという想いで設立したグロウイングクラウド。中小企業診断士、税理士など経営の専門家たちで立ち上げました。郡山市は、少子高齢化の影響もあり年々企業数が減少している傾向にあります。私たちグロウイングクラウドは、この危機を打破し、少しでも会社を増やして町を活性化しようという想いで様々な活動を行っています。活動の例として、地域の起業家応援イベント「郡山地域クラウド交流会」や、一歩踏み出したい女性を応援し、活躍できる仕組みづくりを目指すコミュニティ「スペシャリスト女子会」の開催などです。
特に女性はキャリアに悩まれる方が多いと思います。ご結婚をされてから「仕事と出産・子育て、どっちをとるか」という選択を迫られることが多々あるのです。そんな場面こそ、私は「起業」を一つの選択肢として持っていてほしいと思います。自分が立ち上げた事業であれば、ある程度スケジュールを調整しやすくなり、ワークライフバランスが実現しやすいのです。私が女性という立場で「起業」を経験したからこそ、それぞれの女性のキャリアや想いに寄り添ったサポートができると考えています。少しでも多くの女性に「起業」の魅力を伝え、自分らしく生きるための選択肢の一つとして「起業」がもっと注目されるように活動に励んでいます。
私は、自分の力だけでここまでやってこられたとは思っていなくて、その時その時に与えられてきた環境が何かしら自分に影響を与えてくれていると思っています。
新聞記者という仕事をしていた時期には、記者という肩書きがあったからこそ様々な方と会っていろいろなお話を聞くことができ、その経験が自分の知識や考え方の土台になりました。結婚してその仕事を辞める時も、当時は仕事も好きで渋々退社という感じでしたが今考えると記者だった時の経験が今活きているし、会計事務所という全く異なる分野でそれまでとは違う経験をして得られる事も多いです。
震災を経験してすごく不安な思いや怖い思いもしたけれど、その経験が街のために自分に何ができるのかを考える一つのきっかけとなり、今の自分があると思っています。グロウングクラウドを立ち上げた後、代表という形で動いてきた中でもその立場でしか得られない経験があって、ずっと自分の環境一つ一つが次のステップにつながっていっているんです。そんな私自身も高校生の時には、やらされていると感じてしまう事もありました。当時は気付けなかったけれど、今振り返ってみると、そういう事を感じつつもその時の環境の中で自分ができる事を精一杯やっていく事が、次の道を開くことに繋がっていくと思います。
過去が無駄になる事は一つもありません。もちろん悩んだり苦しんだりする事はあるけれど、その悩みや苦しみがきっと役に立つ日が来ます。私個人として掲げているものとして、『誰もが自分らしく生き生きと活躍できる社会、その社会を作るために選択肢を増やしたい』という想いがあるんです。私自身がこれまで生きてきて、型にはめられて生きることに違和感を感じたことがその背景にあります。人って本当に一人ひとりそれぞれだし、誰一人として同じ価値観や同じ能力、同じ強みや弱みをもっている人はいない。そういう多様性を認められる社会になるといいなと切実に思っています。
でも、そう言いながら私自身も自分の経験値や知識の中でしか物事って理解できないし、判断も難しい。きっと知らず知らずのうちに自分とは違う考え方の人に対して失礼な事をしてしまっているんだろうな、とも思っています。これを乗り越える手段の一つとして、寛容になるという事があると思うんです。価値観が自分と違う人がいても、それをネガティブに捉えるんじゃなくて、「この人はそうなんだ」と受け入れる寛容性を多くの人が持てたら、きっとみんなが幸せに生きられる世の中になるんじゃないでしょうか。多様性を認め合うことで、より多くの選択ができる社会にきっとなると思います。これは相手の考え方とか価値観だけではなくて、失敗にも言えると思うんです。どんなことにも正解はないと考えていて、今自分が正解だと思っても、もっと違う形があるかもしれない、間違いだと思っていたものは実はより良い答えだったかもしれない、という意識はすごく大事だと思います。
「探究」も、答えのないことに仮説を立てて検証して自分なりの答えを出して、の繰り返しじゃないですか。私が経験した会社経営や、もっといえば生き方だってそうだと思うんです。失敗を寛容に受け入れる社会になって、もっとチャレンジが増えればいいなと思います。
(本の情報:国立国会図書館サーチ)
写真提供=三部さん