高齢化が進む中、介護問題を解決することを目指して活動する東北大学大学院医学系研究科のチーム「AILE」のリーダーを務める下川大輝さん。最終発表会では見事最優秀賞とオーディエンス賞を受賞しました。この半年間、チームでどう協力し、何を成し遂げることができたのか。リーダーの下川さんにお話を聞きました。下川さんへのインタビュー動画もぜひご覧ください。
「介護問題」との直面
私が「介護問題」に興味を持ったきっかけは、へき地の病院での実習でした。そこで「離れて暮らす親の介護をするために離職をした」という男性に出会いました。この「介護離職」の問題について調べてみると、日本では年間10万人以上が介護離職をしており、その経済損失は約6500億円と見込まれるという報告を目にしました。
当時、社会の課題を解決するための事業を考えようとしていた私は、自分たちが介入して成果を出せそうな課題は何か?ということを考えたとき、高齢化が進む東北地方の課題である介護の課題ではないかと感じたのです。
介護の課題を解決するための事業を考えるため、参加している東北大学未来型医療創造卓越大学院プログラムのメンバーに呼びかけたところ、多彩な専門分野を持つ4名が集い、2021年にAILEが誕生します。
私たちのチームは実際に病院と連携しながら事業化の検証を進め、2022年には総務省・NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)主催の「令和3年度 起業家甲子園」にも出場しました。
介護問題の解決のために特に注目をしているのが高齢者の「フレイル」と呼ばれる状態。「フレイル」とは「虚弱」を意味し、高齢者の心身が老い、衰えやすくなった状態のことです。この状態で適切な支援を行うことができれば元の正常な状態に戻ることはできますが、「フレイル」状態を見逃してしまえば介護が必要な状態になってしまいます。この「フレイル」の状態をいかに早く発見できるかを医療の専門分野と最新のテクノロジーを駆使して実現することを目指しています。
MiTOHOKU Programでの挑戦
AILEでは高齢者の心身が老い、衰えやすくなった「フレイル」という状態に着目し、「フレイル」の状態を早期に発見するテクノロジーの開発を進めてきました。
しかし研究開発については経験があるものの、販路や広報の方法など、ビジネス的な視点を踏まえてどう社会で実用化していくかについては課題を感じていました。技術はあるものの、サービスを提供する対象は個人か法人か?医療、福祉どの領域で展開するのか?など様々な検討すべき課題が残っていましたね。
そんな中迎えた、MiTOHOKU Programの中国渡航。チームを代表して私が中国を訪問しましたが、自分たちの事業に可能性を感じた時間でした。一人っ子政策の影響で今後高齢化が進んでいく中国。高齢化が進んでいる日本の状況については注目されており、「ぜひ中国で事業をやってほしい」という声も頂きました。日本の中でも高齢化が進んでいる東北から事業を創る意義を実感しました。
MiTOHOKU Programの期間には、自治体のニーズを探るため、全員で自治体への訪問・ヒアリングを実施。すると自治体が介護の予防に強い課題を持っていることを理解し、AILEとしても高齢者のデータが取れるため、自治体との連携は大きな可能性があるということを感じました。
最終発表会ではAIを利用した画像解析の様子や自治体と連携した事業プランを披露し、最優秀賞・オーディエンス賞を頂きました。特に、「オーディエンス賞」の受賞を通じて、初めて自分たちのプロジェクトを知ってくださった人がいいね!と思ってくれたことを実感できて本当に嬉しかったです。
MiTOHOKU Programから得た学び
MiTOHOKU Programを通じて、自分のやりたいことが明確になり、そして事業化に向けた道筋も見えてきました。
また、プログラム期間中に本気で向き合ってくれるメンターの存在や、色々な人と関われたことに心から感謝をしています。普段は博士課程の学生として研究に向き合う中で、学外のプログラムに参加して研究に特化していないプログラムだからこその新たな発見があったと思います。
研究の場合は先行研究が基盤にあって物事を考えていきますが、MiTOHOKU Programのように「前人未踏」のアイデアに挑戦するプログラムは全く新しい可能性を生み出せると感じました。
MiTOHOKU Programとは
「MiTOHOKU Program」とは、東北にゆかりのある未踏的若手人材を発掘・育成するプログラムです。「起業家・専門家集団による伴走支援」により、若手人材の「前人未踏」のアイデア実現を支援します。