福島県大熊町では2025年3月、JR大野駅西口に大野駅西交流エリアがオープンしました。産業交流施設「CREVAおおくま」と飲食店・物販店が入る商業施設「クマSUNテラス」からなり、東日本大震災からの復興に向け、この場所から多くの人の賑わいを生み出していきます。
震災前、大野駅西口には商店街があり、多くの人が集う町の産業の拠点でした。復興に向けて、駅前からどのような場を生み出していくのか。交流エリアに関わる地元経営者の思いとともにお届けします。
多くの人の交流を生む産業交流施設「CREVAおおくま」
産業交流施設「CREVAおおくま」は地上3階建てで、主に企業のオフィスなどが入っています。建物の内外には県産の木材が多く利用されており、温かみのある木の空間が特徴的です。
「CREVAおおくま」に足を踏み入れると、まず目を引くのが、金色の生地に織られた、鹿踊りを舞う子供たちの姿。町内の熊川地区に伝わる郷土芸能「熊川稚児鹿舞」の様子をあしらったものです。これは大熊町の文化センターの緞帳として使われていたもので、CREVAおおくまのオープンにあたり、京都の織物屋さんで丁寧にクリーニングを行って設置しました。震災前、文化センターのイベントの時には多くの町民が目にしたこの緞帳は、新たな建物の中でも輝きを放っています。
また、「CREVAおおくま」の中には、震災前・震災後の大熊町で撮影された写真が飾られています。特産の梨の選果場で笑顔を見せる子どもたち、駅前の商店街の様子。2019年、町に帰還が始まった時、町民たちで作った人文字「ただいまおおくままち」。2020年の常磐線全線開通を大野駅で祝う「おかえり常磐線」の垂れ幕……。写真に映る大熊の人の姿からは、町の歴史と復興の歩みを実感します。
2Fはコワーキングスペースとなっており、入居者同士の連携を促進します。さらに一般の方の利用も可能で、8時~20時の開館時間であれば誰でも無料で利用することができます。各席に電源が完備されており、打ち合わせスペースとしても利用することができます。
また、3階の窓側にもオープンスペースがあり、外のバルコニーには机、椅子やソファが置かれています。バルコニーからはクマSUNテラスの芝生広場や大野駅、そして阿武隈高地の山並みを一望することができます。
「CREVAおおくま」では今後、町民向けのイベントなども開催されていきます。1階正面の大きな扉は可動式になっており、イベント時には扉を開けることでクマSUNテラスと接続し、屋内・屋外を一体的に利用することが可能になります。また、逆に1階の屋内空間を間仕切りで仕切ることができ、多目的ホール「CREVA HALL」としても活用できます。
芝生広場やキッズスペース、飲食店で楽しめる「クマSUNテラス」
CREVAおおくまと隣接するのが商業施設「クマSUNテラス」です。コンビニエンスストア1店舗、飲食店5店舗、物販店舗1店舗の合計7店舗が入るほか、広い芝生広場やキッズスペースなどもあり、子どもたちや家族連れでも楽しめる交流スペースになっています。
コンビニエンスストア「ファミリーマート クマSUNテラス店」は年中無休で、営業時間は午前7時から午後10時。大野駅前のエリアにはこれまでコンビニエンスストア・スーパーなどがない中で待望のオープンとなりました。野菜などの生鮮食品も購入できるほか、店舗の入口付近には「ネクサスファーム」のいちごなどが販売されており、イートインコーナーもあります。ファミリーマートの横にある「クマSUNラウンジ」には、持ち込みのお食事が可能なイートインスペースとイベントなどもできる貸出スペースがあります。
飲食店5店舗は中華料理、肉料理、ラーメン、イタリアン、和風ダイニングと多彩なメニューを味わうことができます。これまで大熊町内でチャレンジショップとして期間限定で出店したり、あるいは町内のイベントに参加するなど大熊とかかわりがある飲食店が本格的に町に出店します。また、震災前から町で営業していた文房具店「双葉事務機」が再び大熊に店を構えます。
また、子どもたち向けの「キッズスペース」には室内に遊具が置かれており、ボルダリングなどで遊ぶこともできます。大野駅西口には約150台とめられる広い駐車場も整備されており、車で来た方でもゆっくりと過ごすことができます。
「大野駅西交流エリア」のホームページ
大野駅西交流エリアにかかわる地元経営者の思い
CREVAおおくまを含めた大野駅西交流エリアは「BGタイズCCC共同事業体」が指定管理を行っています。その中心メンバーの1人が、大熊町出身の吉田学さんです。吉田さんは一級建築士の資格を持ち、2014年に総合建設会社タイズスタイルを創業。2024年には大熊町に「タイズヴェルデホテル」を開業しました。浜通りのコミュニティ作りや若手起業家育成にも取り組み、「一般社団法人HAMADOORI13」の代表理事としても活動しています。
吉田さんは、「震災に伴う長期の全町避難により、地場産業が衰退しました。町の復興のためにはまずは産業が必要。しかも新たな産業を町に呼び込まなければいけないと感じていました」と振り返ります。
タイズスタイルを創業した吉田さんは、東京に出向いたり、あるいは浜通りを訪れる様々な方に「大熊で何かやりませんか」と声をかけていきました。「勝手に誘致活動をしていました」と語る吉田さんですが、このつながりを生かして2020年にビジネスゲートウェイ株式会社を設立し、「大熊インキュベーションセンター(OIC)」の運営を行いながら、町内で実証を進めたい企業・団体の誘致や町内での起業を促進してきました。
OICを拠点としながら町内で実証を行った企業が「CREVAおおくま」に入居する事例もあり、着実に町内の産業は育ちつつあります。大熊町の産業を支えるために多くの方が大熊に移住していることについても吉田さんは「ここまで課題解決に取り組める場所はなかなかない、自分のやりたいことが実現できる環境が大熊にはあるので、ぜひ大熊にいらしていただきたい」と話します。
吉田さんは、大熊町出身者として「大熊で生まれ育ってきた時間、そしてお世話になった方々に感謝し、大熊のコミュニティをなくしたくない」という思いで活動してきました。「クマSUNテラス」を含めたエリア一帯の運営について、「将来的には図書館などが入る社会教育施設もできます。仕事で利用したり、食事をしたり、子どもと遊んだり、あるいは家族で一緒に過ごしたりと色々な方が集い、何でもできる空間にしていきたい」と話します。