情報経営イノベーション専門職大学(以下、iU)の阿部川久広先生。 外資系企業でキャリアを積み、自身も2社起業している阿部川さんは、現在iU情報経営イノベーション専門職大学の教授として、起業やグローバルで活躍するための教育を行っています。これまでのキャリアやiUで学生たちにどんなことを伝えているかについて、お話をお伺いしました。
目の前の仕事に全力で取り組んだ先のキャリア
もともと私自身は中学時代の先生の影響で英語が好きになり、大学時代から個人事業主として通訳や翻訳などの仕事をしていました。それで英語にかかわる仕事に就きたいと思っていて、最初は外資系のPRコンサルティングの会社に入社しました。主に日本へ進出する外資系企業のPR・マーケティングに関する支援を担当していたのですが、お客様の1社が当時日本に進出してきたばかりで、まだ社員が30名にも満たないAppleでした。Appleに対して色々アドバイスする中で、「ぜひ一緒にやってほしい」と言われたことがきっかけで、Appleに入社することになりました。
Appleに入社してからはアメリカと日本を行き来して、新製品の発表・広告・チャネル・ユーザーサポートなどマーケティング全般を行い、マーケティングの部長職も任せて頂きました。
その後、ディズニーから誘いがあって転職し、ディズニーのデジタル関係の仕事を担当しました。具体的にはディズニーのキャラクターが数学を教えてくれたり、一緒にお絵描きできるようなソフトウエアの日本版をプランし、製造し、マーケティングすることを担当しました。 iUは学生を起業させる大学なので、実務経験も当然必要ですから、これら企業人としての経験や、マーケティング・マネジメントのバックグランド、自分自身の起業経験も踏まえてお声がけを頂き、現在に至ります。(阿部川さん自身は2社の起業をしており、1社は売却済、現在はもう1社の代表)
グローバルに活躍できる人材とは
iUはITとビジネスを英語で学ぶ。そして、4年間で全員が起業する大学です。600社を超える様々な企業とコラボして、学生が実際のマーケティングプランを考えるなど、実践的な学びの場を提供しています。私はその中でマネジメントやマーケティング、起業やリーダーシップを担当しています。
起業家教育の一つとして、アート(閃き)の教育にも力を入れています。MBAを取れば、既存のビジネスのマネージメントはある程度出来るかもしれませんが、全員同じような枠組みの中で、ビジネスを行ってしまう傾向があります。それでは実際に市場競争で勝つための差別化はできません。MBAでの学びだけでなく、独自のアート(閃き)が必要になります。
アート(閃き)的考え方は、経験と思考力の蓄積から生まれます。例えば、ケーススタディからビジネスの成功例失敗例を学んでいくと、一定のパターンがあることが分かります。そこから自分がやりたいと思うモデルがあれば参考にするというのも有効な手段です。人とは違った思考力を養えることは、iUで学ぶ特色の一つです。
何をもって成功とするか、そして退路はどうするかなどを、あらかじめ決めておくことも大事です。例えば、事業はすべて自前の資金で行うのか、借金をするのか、投資してもらうのか、その金額がいくらであれば何年間会社運営ができるのかなどを、自分なりに決めておくことです。海外の場合は、起業に対して積極的に後押しをしてくれる文化が、日本よりも根付いているものの、他方で、起業はすべて自己責任という大前提がありますから。
また、グローバル人材というと英語が喋れるとか、海外在住経験があるとか思いがちですが、前提としてコミュニケーション力を身に着けることが大切です。
その上で、グローバルに活躍できる人材の条件としては、以下の3つだと思います。
1 自分の文化や経験を理解した上で相手とコミュニケーションが取れるか
2 相手が言ったことを咀嚼して理解できるか(相手を理解しようと努める姿勢)
3 それらを踏まえて、相手とコミュニケーションを作り出せるか
英語が喋れないとグローバル人材になれないかというと、そうではないと思います。
英語はできた方がいいとは思いますが、今はポケトークやChatGPTを使えば翻訳できますし、言葉以外にも絵を書くとか、数字を使うとか、特にビジネスの場合は、状況に応じて様々なツール(道具)を使ってコミュニケーションができます。
大事なのは自分がコミュニケーションしたい・何かを伝えたいという意思を持っているかどうかです。相手に一生懸命にコミュニケーションを取りたい意思を見せれば、コミュニケーションは成り立ちます。言語はそこでは、あくまでもツールの一つでしかありません。
日本と海外で、コミュニケーションには違いがあります。日本は多くの国民の文化的背景が同じなので、一言二言いうと通じているような気がする。例えば、「昨日ラーメン食べに行ってよかった」で伝わった気になりますが、本当は良かったのが味なのか店の雰囲気なのか分かりませんね。ただ、文化を共有しているので、たぶん味なんだろうとは分かる。外国人に同じセンテンスでは伝わらないです。おいしいとはどういうことかとか、伝えようとしなければならない。
大切なのはコミュニケーション
ではコミュニケーション力を高めるためにどうしたらいいかというと、自分の目や足で、新しい場所に行って、人とコミュニケーションを取ってみるのが一番です。
世界中に行って、色々な人と話をして欲しい。観光に行くのではなく、現地の人と話をしてみる。そうすると何か新しい発見がある。海外じゃなくてもまず行ってみる。とにかく今までとは違うことをするのが大切なんです。
身近なところでは、世代が違う人との会話でも、コミュニケーションは十分鍛えられます。例えば老人ホームに行って高齢者とコミュニケーションを取ったり、幼稚園に行って子供とコミュニケーションを取ったり、やり方次第でいくらでも鍛える方法はある。
私の好きなリクルート創業者の江副浩正さんの言葉で「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というのがありますが、その通りだと思っています。高校生だけでなく、若い人には色んな経験・チャレンジをして欲しいと思っています。
キャリアというのは目標を描いてそれに向けて逆算で何かをするか考えるという人もいるかもしれませんが、自分の未来のためのヒントは自分自身よりも、他の人から出てくることの方が多いと思います。あなたの良さは、むしろ、他の人が気づいてくれます。
私自身も、現在はiUに所属していますが、キャリアのスタートは外資系企業で、もともと大学の先生になることなど考えていませんでした。目の前の仕事に取り組んできた中で、見ていた人が誘ってくれたりして、キャリアができてきた。
目の前のことに一生懸命になると、周りの人が必ず見ているし、こっちの方向はどうとか誰かがキャリアを後押ししてくれる。それがやりたいことだったらいいし、嫌ならやめればいい。ただ、若い時はとにかくやったほうがいいと思うんです。
(本の情報:国立国会図書館サーチ)