岩手県花巻市の地域おこし協力隊として、伝統工芸を活用したシティプロモーションを行う今野陽介さん。なぜ伝統工芸に興味を持ち、地域おこし協力隊という道を選んだのか、そして今後どんな展望を持っているのか。伝統工芸品の情報発信や商品プロデュースに加え、自身でも焼き物の制作を始めた今野さんのストーリーをぜひお聞きください。
伝統工芸に興味を持つ
私が伝統工芸に興味を持ったきっかけは、大学進学とともに始まった一人暮らしでインテリアにこだわりを持ち始めたことです。思い返してみると、高校時代から身の回りのモノ、例えばスマホケースや文房具などにこだわりを持っていました。
最初から伝統工芸品に関心があったわけではないのですが、ある時自分がいいなと思うモノは手づくりのモノが多いと感じました。伝統工芸品はまさに手づくりのモノです。そこから「自分は伝統工芸が好きなんだな」という意識が芽生え、全国各地を一人旅しました。その地域ならではのモノを見てまわったり、聞いてまわったりしました。
特に印象に残ったのは北陸地方でした。富山県の高岡銅器や錫(すず)といった金属を扱っている会社では、制作現場を見学できるほか、職人と一般客が会話できるような環境が設けられていました。また、石川県では、焼き物の若手作家が多かったのですが、作るところ、見るところ、販売するところが1箇所にまとまっており、それを購入するお客さんたちで賑わっていました。作り手とお客さんがコミュニケーションをとれる雰囲気がとても印象に残りました。
そんな学生生活を送っていた大学4年生の頃、たまたま岩手県花巻市で「伝統工芸」をテーマにした地域おこし協力隊を募集していることを知りました。高校3年間岩手で過ごしていた私にとって岩手は思い入れの強い土地ですし、伝統工芸の枠での募集に興味を持ち、応募することにしました。
ありがたいことに採用していただき、現在は地域おこし協力隊として、市が運営するメディア「まきまき花巻」で伝統工芸の職人たちを取材する他、商品開発などのプロジェクトを行っています。
伝統工芸品で若者と職人を繋ぐ
岩手県花巻市には、とてもたくさんの伝統工芸品や民芸品が残っています。具体的には、工芸技術分野で市の無形文化財に指定されている「和紙」、「和傘」の他、「焼き物」、「漆」、「織物」、「こけし」、「ガラス細工」、「わら細工」、「花巻人形」などがあり、これだけ種類が豊富な地域は珍しいです。
しかし、これらの伝統工芸品や民芸品の後継者が足りていないという課題もあります。作り手の高齢化と担い手不足により、今作り手がやめてしまったら途絶えてしまうかもしれない伝統工芸品がいくつもあります。
そこで私が地域おこし協力隊として行っているのが、伝統工芸を活用した「シティプロモーション」です。具体的には、職人に取材し伝統工芸品に関する魅力を情報発信しつつ、興味を持った若者を職人に繋ぐという役割を担っています。その他、自分が企画・プロデュースした商品のオンライン販売も行っています。
このように伝統工芸に取り組んできた私にとって、伝統工芸品の魅力は二つあると考えています。
一つは、機械的に作られるものとは別の美しさがあること。例えば焼き物なら、窯で焼いている時に飛んだ灰が固まってそれが模様になることがあります。それは、作った本人も窯を開けるまで分かりません。一つ一つ違った作品になる楽しさがあり、「今度はこうしてみよう」と創作意欲が湧いてきます。
もう一つは、作り手の想いが詰まっていること。私自身、最初は「ただ単に”いいモノ”だから好き」と思ってモノを選んできました。しかし、職人への取材を通して「魂込めて作っているんだよ」という話を聞き、そこからモノの見方が変わりました。作り手の想いを知ることで、大切にしたいという気持ちが増してきます。
このように伝統工芸の活動を続ける中で、やはり「自分自身も作りたい」という気持ちが強くなってきました。今ではプライベートの時間を使って焼き物制作に取り組んでいます。
地域おこし協力隊のその先は
地域おこし協力隊には約3年という任期があります。卒業後は、すでに自分がプロデュースした商品を個人事業主として継続的に販売していきたいです。
また、焼き物の作り手としての技術を高めるため、一度花巻を離れて修行に出たいと考えています。今までは、自分が企画した商品を職人の方に制作いただいて商品化してきました。それも楽しかったのですが、自分が思い描いたものを100%実現するのは難しいことが分かりました。
だからこそ、いつか自分が最大限に満足できる作品を作れるようになりたいですし、プロデュースも制作もできる人材になって幅を広げたいと思っています。職人としての視点を持っていれば、次にプロデュースする時はもっといい商品を作れると思うんです。
私が住んでいる花巻市は、作り手が住みやすい環境が整っていると感じます。東和地区だと、個人的に制作をしている職人、作家の方が多く住んでいます。歴史的にも、洋画家の萬鉄五郎やホームスパン作家の及川全三を輩出している地域だからか、作家を受け入れる土壌があると感じています。
もし伝統工芸に興味がある方は、自分の気持ちの向くままに、「自分がいいな」と思った作品があれば調べたり、話を聞きに行ったりしてみてほしいです。私自身もそうやって今ここにたどり着いていますから。
(本の情報:国立国会図書館サーチ)
写真提供:今野さん