地域に愛された「マルカンデパートの大食堂」復活ストーリー

岩手県花巻市の中心商店街にあるマルカンビル。6階には昭和レトロな雰囲気を残す大食堂があり、名物の10段重ねのソフトクリームなどを食べる人など多くの人でにぎわっています。

このビルは、かつては「マルカンデパート」という百貨店でした。しかし2016年3月、「マルカンデパート閉店」というニュースが流れました。多くの方に愛されていた大食堂がなくなってしまう危機を何とか食い止めたのが、地元の若者たちでした。そしてマルカンビルは今、若者たちのつながりとアイデアで新たな賑わいを見せています。その中心メンバーの1人、上町家守舎の小友康広さんにお話を聞きました。

目次

◆取り組みのきっかけ

「マルカンデパートが閉店する」。そのニュースを聞いたとき、当時33歳だった私は衝撃を受けました。花巻で生まれ育ち、大学からは東京だったので、花巻に市外の友人を連れてきたら、必ずマルカンデパートの大食堂に連れて行きました。100人以上は連れて行ったと思います。それだけ、私にとって地元を一番自慢できる場所でした。子どものころ、親にここに連れて行ってもらい、10段重ねのソフトクリームを食べました。自分も子どもと一緒に、ここでソフトクリームを食べることが当然だと思っていたのですが、その未来がなくなってしまうのはあまりに残念でした。

当時、大食堂には年間36万人が訪れていました。このままなくしてしまうのは、もったいないですし、当時花巻駅周辺で行っていたあまり使われていないビルなどの遊休不動産を活用し、まちのコンテンツ作りをする「リノベーションまちづくり」の手法を使って、大食堂を中心に周辺地域を新しく生まれ変わらせることができないかと考えていました。そこですぐにデパートを運営している会社の社長に会いに行き、「私たちが運営を引き継ぐことはできないか」という打診をしました。

励みになったのは、当時高校生がマルカンデパートの大食堂を存続させるための署名運動をしていたことです。高校生たちもニュースを聞いた1週間後には署名運動を始めていました。私よりも10歳以上も若い世代が、「これは花巻にとって必要な場所だ」と主体的に自分たちにできる行動をしていたことはとても励みになりました。

◆どんな取り組みをしているか

マルカンデパートの大食堂、復活へ

その後、私たちが新しく「上町家守舎」という会社を作って、運営を引き継ぐことになりました。私たちは一番の魅力だった「6階の大食堂をできるかぎりそのまま残す」ということを最優先にしました。高校生の署名活動に多くの方が協力しているのを見ながら、「大食堂は40年以上根本が変わっていないことが価値であり、そのまま残り続けることで更に価値は増大する」と確信したからです。最終的に、高校生の署名は運営を引き継ぐ私たちが受け取ることになりました。わずか2か月で10,000人近い署名が集まっていました。

また、費用の観点からも、デパートは1階から6階まで稼働していたのですが、全フロアを利用することは当初から考えていませんでした。今の時代的に「全国チェーン店やインターネットでも手に入るモノを売る」という場所ではなく、大食堂のように「その場所でしか提供できない、その場所だから価値がある体験を売る」という場所にするべきと思っておりました。いきなりその方針で全フロアを使うのはかなりの費用と時間が掛かります。そこで、6階の大食堂と1階のみで営業することにして費用と時間を最小限にして再開しました。

そして、この活動を応援してくれる方に「主体者として自分も復活に貢献した」という思いや覚悟のようなものを持って頂くために「クラウドファンディング」も活用しました。大食堂は約半年間休業しましたが、2017年の2月に運営を引き継いで再開することができました。再開から6年経った2023年の今も大食堂にはたくさんの方が訪れてくださり、名物のソフトクリームやマルカンラーメン、ナポリタンにトンカツが乗った「ナポリかつ」などを食べる方々でにぎわっています。

大食堂復活の後、マルカンビルから生みだされる新たな文化

大食堂を復活させると、2017年8月、思いもよらぬところから声がかかりました。それは、花巻市内でスケートボード教室を開いている「花巻市スケートボード協会」の方々です。スケートボードは東京五輪でも選手の活躍が注目されたのでみなさんも知っていると思います。当時から花巻には屋外のスケートボード場があったのですが、雨や雪で滑れない日も多く、年間の半分くらいしか使えないそうです。そこでマルカンビルの空いている階でスケートボードを楽しめるお店をオープンできないか?という依頼でした。

花巻にそれだけスケートボードに熱心な人たちが多いことが面白いと思い、色々なフロアで試しに滑ってもらったら地下が騒音も漏れにくく、涼しくて滑りやすかった。そこで「やろう」ということで2018年12月にDPRTMENT(デパートメント)SKATE SHOP&PARKをオープン。その結果多くの老若男女のスケーターが集まる施設になりました。(花巻でスケートボードを広げる佐々木さんの記事はこちら

さらに2階には2020年7月に、「花巻おもちゃ美術館」をオープンさせました。東京の四谷に「東京おもちゃ美術館」という廃校を活用した木のおもちゃで遊べる施設があるのですが、そこに行った時に素晴らしいなと感じました。実家が「小友木材店」という木材店を経営していることもあり、木の魅力、価値を通じて岩手や花巻の文化を伝えるために、花巻に「おもちゃ美術館」を作りたいと思いました。

花巻おもちゃ美術館の中の内装の木材は全て岩手県産を使っています。例えば大食堂の体験ができるコーナーもあり、日本最大規模で「おままごと」ができるゾーンです。また花巻の段々畑やぶどう畑に見立てたエリアもあり、畑で収穫した食材を大食堂で料理するというような遊び方もできます。


他にも花巻の温泉に見立てた「木の卵プール」など全ての空間に岩手や花巻らしい要素を関連付けており、木にもぐったり、遊んだりしているだけ自然と理解できる空間になっています。地元をよく知るメンバーと、おもちゃ美術館設計のプロの意見が組み合わせられて素敵な空間が生まれました。

大食堂には、親子のみならず三世代一緒にご飯を食べにくる方々もたくさんいらっしゃいます。なので、0歳~10歳くらいが屋内で遊べる施設というのは非常に相性が良いのです。家族で1日楽しく過ごせるような場所になったと思います。

◆未来へ向けて・高校生へのメッセージ

私が何か新しいことに取り組む時に「まずは自分が理想とするものを追求し、そのアイデアや思いを中途半端な状態でもどんどん公表すること」を大切にしています。すると、同じように「私もそう思っていた」という人は地域に必ずいます。「じゃあ一緒に○○をやりましょう」「あなたに○○を任せたい」と一緒に出来ることやその人が得意なところを具体的に任せてしまう。すると「傍観者・観客的な応援」ではない主体的に行動をしてくれる良い同志・仲間が見つかっていくと考えています。誰かが「主体的に関わりたい」と思える「関わりしろ」を作ることが大切だなと感じています。

また、常々思っていることとしては「これ面白いな」と思った時にやろうと思える人でたいと思っています。世の中には偶然やってくる必然、というものがあると思っていて、例えばスケートボードについても自分は全くやったことはないのですが、「面白そう」と思って一緒に事業にしてみました。2023年現在、そこから4年が経ちますが、今では「スケートボード場があるから花巻に移住したい」という若者もいるそうです。全く興味がなかった「スケートボード」が「自分が住んでいるまちが面白くなる」に繋がると当初は全く想像できませんでしたがちょっとしたチャンス、きっかけに対して主体的に「自分が出来ることは?」と問い、行動することで相手にとっても自分にとっても良い未来を作れると思っています。

マルカンビルの活用については、まだアイデアはあります。例えば屋上に近くの花巻にある温泉からお湯を持ってきて、露天温泉施設を作ることも検討しています。また、マルカンビルがある「上町」という商店街エリアにも空き店舗があるので、そこに新たな「その場所でしか提供できない、その場所だから価値がある体験を売る」事業者を誘致し大食堂のお客様を誘導し、まち全体が「花巻ならではのコンテンツであふれる」未来を作るということもできると思います。

今の高校生は「地域に主体的に関わりたい」という方が多いと感じています。おもちゃ美術館でも花巻の高校生がボランティアとして関わっています。この「マルカンデパートの大食堂」のお話について、高校生のみなさんが誇りに思ってもらえると嬉しいです。

探究テーマを広げる問い

自分のまちに、どんな施設や環境を主体的に作りたいですか?その実現のためにはどのような行動が必要ですか?理由と一緒に書きましょう。

カテゴリ:地域

◆おすすめの本

熱海の奇跡(市来広一郎)

静岡県熱海市を舞台にした「リノベーションまちづくり」の事例をその仕掛け人の著者がまとめた一冊。難しい用語なども少なく物語として読みやすい。小友さんも花巻で手掛けるリノベーションの参考としている。そして、著者が最初に熱海で行った活動はボランティアであり、「高校生でも実践できることがありますよ」と小友さん。

写真提供=小友さん

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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