宮城大学の学生が集まり設立された学生団体「Brush」は、「学生が挑戦することのロールモデルになる」ことをVISIONに掲げ2023年に設立された団体です。
2024年夏には、メンバーのアイデアをもとに宮城県塩釜市の浦戸諸島にある桂島で「アイランドフェスin桂島」というイベントを開催し、海水浴場に海の家を復活させて多くの人を島に呼び込みました。代表で事業構想学群2年の奥裕二郎さんに、団体立ち上げに至る思いやイベントでどんなことを行ったのか、お話を伺いました。
大学1年生の時に団体を設立
大学1年生の秋に学生団体「Brush」を設立しました。活動のきっかけは、大学に入学した後に「何か挑戦したい、と思っている学生同士が自由にアイデアを共有できる場がほしい」ということを感じたことです。
例えば仙台市内でも、学生向けに色々なイベントが開催されており、私も入学直後にそういったイベントに参加をしたことがありました。しかし、そのようなイベントに参加するハードルは高く、参加するのはごく一部の学生だけです。また、そこで生まれた繋がりを自分の活動に生かすことができる学生はさらに少ないです。それよりも手前のところで、何か行動したい、挑戦したいと思っている学生が、心理的安全性が確保された環境で、自由にアイデアを共有できる場の必要性を強く認識しました。この考え方に共感した同級生11名を誘って団体を設立。アイデアを「磨き合う」場を提供することを目的に、団体名を「Brush(ブラッシュ)」と決めました。
まずは宮城県内の中で私たちを知ってもらうために、様々なイベントに参加しました。そこでは「Brush」という団体名のみが書かれた名刺を配布して、団体の認知を拡大していきました。その後、いろいろな企業さんとつながり、ジェラートの新商品開発やパッケージデザイン、キャリア支援会社とのイベントの共催など、学生なりのアプローチで企業との共同事業を展開していきました。
とはいえ、私たちの団体では、団体の活動内容を最初から決めていませんでした。そのため、企業との共同事業と並行して、メンバー同士が自由にアイデアを発信・共有しやすい環境を整え、ブラッシュアップを頻繁に行いました。そして2024年2月、あるメンバーの「塩竈市桂島の海の家を復興させ、原風景を取り戻したい」という想いを元に、海の家プロジェクトの構想が始まりました。
Brush 海の家プロジェクト
学生の挑戦!島に夏の賑わいを取り戻す
桂島とは
桂島とは、宮城県塩釜市の浦戸諸島に浮かぶ有人島で、塩釜市のフェリーターミナルから船で20分ほどの場所にあります。ここにメンバーの一人の祖父母の家があり、子供のころから海水浴などを楽しんでいました。しかし、高齢化、人口減などの課題に加えて2011年の東日本大震災の津波でも被災したことで島を出ていく住民が増え、復興工事は進んだものの2024年になると浦戸諸島全体の人口は震災前の半分ほどとなりました。
コロナ禍が終わり久々に島を訪れたメンバーに島民である祖母は「島はきれいになっても、もう人はやってこない」と寂しそうに語ったそうです。メンバーは「島に活気を取り戻すためにも、今年の夏に島で海の家を復活させたい」という思いを私たちに共有してくれました。そこで2024年の夏に桂島で「アイランドフェスin桂島」というイベントを開くことを目指しました。
すぐに企画書を作成し、区長さんを訪問してイベントの開催について打診したところ、快くOKをもらうことができました。次にイベントのターゲット層の設定を行いました。ターゲットにしたのが学生というよりも、親子連れ。普段は別の海水浴場を利用されている方々に離島の海水浴場での非日常感を味わっていただきたいと考えました。また、かつて桂島海水浴場を訪れたことがある方々に再訪していただくきっかけを作りたいと思いました。
「ファミリー層」をターゲットにSNSで発信
「家族連れのファミリー層」に対し、単にイベントに来ていただくだけではなく、ユニークな体験を提供したいと考え企画を作成しました。例えば島全体を使った謎解きを通して、松島湾が一望できる絶景スポットを巡れるようにしたり、島の貝殻を使ったジェルキャンドルやフォトフレームづくりなどのワークショップによって、島の思い出を持ち帰ってもらえるようなアイデアが生まれました。
それから、力を入れたのがSNSの発信です。私たちの桂島に対する思いや、どのような過程でイベントを構想しているのかが視聴者の方々に伝わるよう「リール動画」をメインで作成しました。合計9本に渡るリール全体のストーリー性や、最後まで見たくなる動画構成を考え、細部にまでこだわりました。
また、毎朝島の写真を撮影している島民の方に協力をお願いし、島の様子や日々の風景を毎日「ストーリーズ」で発信し、イベントまでのカウントダウンを行いました。最終的には、アカウントのフォロワーは約1400人、リール動画総再生回数は約71万回、総リーチ数は約47万アカウントほどとなり、全国の方々に「桂島」について知っていただく機会となりました。
インスタグラム
https://www.instagram.com/islandfes_katsurashima/
資金を集め、構想から半年でイベントを実現
桂島海水浴場付近には電気・ガス・水道などのインフラが整備されておらず、イベントを行うためには、発電機や水タンクなどを自分たちで準備する必要がありました。また、当日の露店で使用する調理器具のレンタルや商品の仕入れに関して、多額の費用が必要であったため、クラウドファンディングに挑戦しました。YouTubeの番組にも出演して思いを語り、これまでのBrushの活動で関わりのあった企業さんにお声がけをした結果、目標の151%となる約113万円の資金を集めることができました。
私たちの想いや地域への貢献度が評価され、クラウドファンディングのサイト「CAMPFIRE」にて7月の月間アワードも受賞いたしました。8月の本番は2日間のうち1日が台風接近のため中止になってしまいましたが、約200人の方々にアイランドフェスに参加していただくことができました。
当日は海水浴場にテントを設置して浜焼きやかき氷を販売したり、スイカ割りや貝殻を使ったワークショップを楽しんでいただいたり、それから謎解きを通して島をめぐっていただきました。その様子はニュースにも取り上げられ、多くの方に島の様子やメンバーの想いを知っていただくことができました。
来年度もぜひ第2回を開催したいと考えており、次回は塩釜市のフェリー乗り場等でもイベントを開催し、島に渡る前からイベントを楽しめるようにしていきたいと思います。また地元の高校生とも協力することで、地域全体で盛り上げていけるイベントにしたいと考えています。イベントを継続して文化としなければ本当の復興は成し遂げられないと考えています。より持続可能な運営形態を模索しながら、これからも挑戦し続けていきます。
宮城大学に入るきっかけに
海の家プロジェクトを通して大学の中でも団体の活動が知られるようになりました。わずか半年でアイランドフェスを実現できたことで、「自分たちもできるかもしれない、挑戦することに価値がある」という意識が大学内に少しづつ広がり始めていると感じています。そして後期からは、事業構想学群1年生の5分の1にあたる約40名の1年生が加入し、合計48名の団体となりました。現在はBrushとして様々なプロジェクトを並行して進めながら、独自の活動を展開するメンバーも増えてきました。挑戦することのハードルが低くなり、共に挑戦できる仲間との出会いが増えている証拠だと思います。
ほんの小さな火に薪が焚べられてより大きな炎となっていくように、誰か1人の小さな情熱の火が仲間の力で大きくなっていく環境が作られてきたと考えています。
大学の学群名となっている事業構想とは「新しい発想・着想を実現するための計画・実行に落とし込む過程」だととらえています。Brushの存在意義は、新しい発想・着想を生み出すための環境と、それを共に計画・実行へ移していく仲間と出会う環境を創り出していることにあります。その環境をBrushのみならず、大学全体に醸成することで、宮城大学の学生たちが次のステップへ進んでいけると考えています。
最後に、Brushには「高校生が宮城大学を志すきっかけになる」という目標があります。大学へ進学する際、自分は大学で何をやりたいんだろう、入ったら何ができるんだろう、といった不安を抱える人も多いと思います。Brushはそんな人がやりたいことを見つけ、挑戦するきっかけとなる環境を作っています。おそらく他大学にはない価値だと自負しています。今後は高校生向けのイベント企画も行おうと考えているので、高校生の皆さん、ぜひお待ちしています。
写真提供=学生団体Brush