石巻の海から考える 水産資源と環境のこれから

石巻専修大学理工学部生物科学科の渡邊一仁先生は、水産学と環境科学を専門に、漁業と環境の両立をテーマとした研究に取り組んでいます。宮城県職員として政策づくりに関わってきた経験を持ち、現在は大学の研究を通して漁業や水産業の現場と向き合っています。近年海の環境変化が課題となるなかで水産資源をどのように守るべきか、お話を伺いました。

目次

漁業と環境、2つの視点から海を考える

私の専門は大きく分けて、水産資源管理と環境科学の2つです。宮城県の出身で、もともとは釣りが好きというところから魚や漁業に興味を持ち、大学は水産学部に進みました。 

大学時代は漁具・漁法といった分野を研究していました。例えば、刺し網という漁法では、網をどの深さに設置するかによって、獲れる魚の量や種類が変わります。魚を獲りすぎないようにするためには、網の浮力や重りのバランスを調整し、適切な位置に設置する研究を行っていました。こうした技術的な工夫を通して、資源を守りながら漁業を続けていく方法を考えてきました。 

大学院ではさらに、環境科学の分野にも研究を広げました。当時は先進国に温室効果ガスの削減が義務付けられた京都議定書が採択された時期で、地球温暖化問題への関心が高まり始めた時期でした。漁業の現場でも、環境負荷の問題が無視できないテーマになっていたのです。 

中でも私が注目していたのがイカ釣り漁業です。イカ釣り漁業では集魚灯を使って電気を点灯させ、イカを集めます。イカ釣り漁の時期、宇宙から夜に日本付近を見ると、都会の光と同じくらいにその光が目立ちます。電気を点けるために船では大量の燃料が消費され、小型の漁船でも一晩で数百リットルもの重油を使うこともあり、環境負荷の大きさが課題となっていました。

現在は海の環境変化もあり資源量が限られている中で、「必要な分だけ魚を獲り、持続的な漁業を目指す」という方向へと変わってきています。私自身も学生時代の研究を通して「魚を獲ること」と「環境への影響」を同時に考える必要性を強く感じるようになりました。

「環境・資源・経済」のバランスを考える 

私の現在の研究の根底にあるのは、「環境・資源・経済」のバランスです。環境を守るだけでは産業は成り立ちませんし、逆に資源を獲りすぎれば将来の漁業は続きません。また、経済的に成立しなければ地域の暮らしも維持できません。この3つのバランスをどう取るかが、持続可能な社会を考えるうえで重要になります。

漁業の場合、海にどれくらい魚がいるのかを評価することから始まります。魚の生態系を考慮しつつ、「いつ、どんな漁船や漁法で、どれだけ獲ったか」というデータを分析、その結果を元に、適切な漁獲量を確認しながら資源管理につなげていきます。どのくらいの量を獲るのか、どのように管理するのかを数値を見ながら考え、そのうえで、環境負荷を抑えながら、経済的にも成り立つ形を模索していく必要があります。

私は大学で博士課程まで学んだのちに地元に戻り、宮城県職員として、漁業や環境に関わる業務に携わってきました。石巻にある県の水産技術総合センターや気仙沼での勤務、宮城県庁での政策立案など、現場と行政の両方を経験してきました。

その中で、より研究に取り組みたいという思いが強くなり、石巻専修大学に着任しました。震災当時も石巻で勤務していましたし、石巻という街への愛着もありました。政策に携わった経験を活かしながら、研究を通して地域に貢献していきたいと考えています。

海の環境変化と水産業のこれから

現在、海の環境は大きく変化しています。特に影響が大きいのが海水温の上昇です。長期的な地球温暖化の影響や近年の「黒潮大蛇行」等の要因が複雑に絡み合い、三陸沿岸でも海に異変が起きています。

三陸沿岸では、水温の変化によって獲れる魚の種類が変わってきています。これまで多く獲れていたサケが減少する一方で、ブリやサワラ、タチウオなどこれまであまり見られなかった魚が増えています。イセエビや真珠の母貝となるアコヤガイも確認されています。

また、養殖業では水温の上昇による影響がより深刻だと考えています。カキ、ホヤ、ホタテなどの生育に適した温度があり、養殖はその海だからこそ成立するものだからです。カキ、ホヤやホタテなどは海が一定の温度を超えてしまうとうまく育ちません。収穫量の減少や出荷時期が変わるなどの影響も発生しています。一方で、ワカメのように比較的安定して生産されているものもあり、同じ海でも影響の現れ方はさまざまです。

こうした厳しい状況の中、海洋環境の変化に対応するための取り組みも進められてい
ます。その1つとして最近注目を集めているのが「ブルーカーボン」です。ブルーカーボンとは植物である海藻が吸収・固定する炭素のことです。アマモやアラメ、コンブ、ワカメなどの海藻は二酸化炭素を吸収するため地球温暖化の進行を緩やかにする取り組みとして有効です。また、海の環境保全や生物多様性の維持にも役立ちます。私は宮城県職員時代にブルーカーボンの推進を担当し、県内に藻場を作る取り組みを行いました。現在は研究としてブルーカーボンの算定や分析を行っています。

現場に近い石巻だからこそ生まれる研究

こうした環境の変化に向き合う上で重要なのは、現場とつながった学びです。石巻は、東日本大震災を経験し、復興の過程にある地域であり、同時に水産業が根付く地域でもあります。そのため、環境の変化や資源の問題、産業の課題といったテーマを、実際の現場で捉えることができます。

例えば、海水温の上昇によって魚の種類が変わると、漁業だけでなく、加工や流通、地域の食文化にも影響が広がります。こうした変化は教科書だけでは理解しにくいものですが、石巻では日々の暮らしや産業の中で実感することができます。そして、漁師の方は海の変化にとても敏感で、漁師さんの一言が新たな研究のきっかけにもなります。

この現場との近さこそ、石巻の強みだと考えています。大学から車を20分走らせれば漁港に着きますし、漁業者や加工業者の方、行政職員といった多様な立場の人と関わりながら、課題を多面的に考えることができるのも特徴です。ゼミで指導している学生も、アナゴ漁に連れて行っていただいたり、実際に船に乗ったり、漁業のリアルな現場を見させて頂きながら研究しています。

現場と向き合う中で新しい問いが生まれ、研究が深まっていきます。私も研究を進めながら得た知見を漁業・水産業の現場にお返ししていきたいと思います。

高校生の探究学習へのアドバイス

高校生のみなさんに伝えたいのは、「まず現場に行ってみること」の大切さです。

データや本から得られる知識ももちろん重要ですが、実際にその場所に行き、自分の目で見て、話を聞くことで、初めて気づくことがたくさんありますし、自分の感受性を豊かにすることにもつながります。

例えば、漁業の現場を見てみると、環境問題や資源管理といった言葉が、単なる知識ではなく、自分たちの暮らしに直結する課題であることが実感できます。

まずは興味のある分野について、実際の現場に足を運び、自分なりの問いを見つけてみてください。そのうえで、「なぜこうなっているのか」「どうすればよいのか」と考えることが、探究の第一歩になります。

〇おすすめの本

片山知史「魚が底から湧いてくる海 東北の海と底びき網漁業の今昔」(河北新報出版センター)

多様な魚を大量に捕獲してきた底引き網漁業の視点から東北の海や漁業を考察した一冊。県ごとの漁業の違いや震災前後の変化も解説しており、魚種もイラスト付きでわかりやすくまとめられている。「東北の海を知るには最適な本で内容も面白い。入学したての学生にも進めています」と渡邊先生。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

探究百科GATEWAYの編集部です。高校生の「探究」に役立つ情報や探究分野の解説、探究の方法について発信します。

目次