経済学で「人の行動」を解き明かす 人流データから考える地域と防災

石巻専修大学経営学部情報マネジメント学科の小松真治先生は、経済学の視点から「人の意思決定」をデータで解き明かしていく研究を行っています。近年はスマートフォンの位置情報などをもとにした人流データを用い、災害時の避難行動や防災教育にも研究を広げています。人の移動を手がかりに、地域と命を守るためのよりよい選択を探る、小松先生の研究に迫ります。

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経済学は「お金」だけではなく「人の意思決定」を考える学問

私は東京で生まれ育ち、大学では経済学を学びました。大学時代に所属していたゼミの先生が学生の研究指導に熱心な方で、大学2年生、3年生の時から論文を書いて発表する機会に恵まれました。そこで論文を書く楽しさを感じて研究者を目指すようになりました。

経済学というと、株価や景気、税金といった「お金の動き」を扱う学問というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし実際には、それだけではありません。人がどのような選択をし、なぜその行動をとるのかといった、「人の意思決定」を分析する側面も持っています。

例えば、「同じ飲み物が目の前では150円で売られていて、少し離れた場所では100円で売られている」という状況を思い浮かべてみてください。このとき、人はどちらを選ぶのでしょうか。すぐに手に入るけど高い方を取るのか、それとも少し歩いてでも安い方を選ぶのか。その判断には、その人の状況や価値観、時間の使い方など、さまざまな要因が関係しています。

こうした人間の行動を数値やモデルを使って整理し、説明していくことに面白さを感じ、経済学をより深く研究したいと思うようになりました。

人の「移動」を経済学的に考える

私の研究テーマの一つは、「人口移動」を経済学的に分析することです。大学時代に「地方消滅」という書籍を読み、地方の人口減少や、地方から都市部への人口移動に関心を持ったことがきっかけでした。その後、特に首都圏内の人口移動について研究を深めました。東京圏などの都市部では、利便性を重視して都心に住み続ける人がいる一方で、結婚や出産といったライフイベントをきっかけに郊外へ移動する人も多くいます。

こうした人の移動を、家賃や住居面積といった条件と結びつけて分析することで、「どのくらいの距離を移動するのか」「どのようなタイミングで移動が起こるのか」といったことを明らかにする研究に取り組んできました。

例えば、子どもが生まれると、それまでより広い住居が必要になります。しかし収入がすぐに大きく増えるわけではありません。そのため、同じ家賃でより広い住居を求める場合、都心から少し離れた地域へ移動するという選択が生まれます。このような行動をモデル化し、実際のデータと照らし合わせながら分析することで、人の移動の傾向を理解しようとしてきました。

これまでは首都圏の大学で研究を進めてきましたが、地方の人口減少や人口移動についても、現地の実情を踏まえながら分析したいという思いがありました。その中で、ご縁をいただき、地域に寄り添った研究に取り組みたいと考えて石巻専修大学に着任しました。

人流データで見えた、災害時の避難行動

石巻専修大学で取り組んでいるのが、人流データを用いた災害時・避難情報発令時の避難行動に関する研究です。

人流データとは、スマートフォンの位置情報などをもとに、人がいつ、どこからどこへ移動しているのかを可視化したデータです。これまで感覚的にしか捉えられていなかった「人の流れ」を、客観的なデータとして捉えることができる点に特徴があります。

2025年7月にロシア・カムチャッカ半島沖付近で発生した地震で、石巻市には津波注意報・警報が発令されました。その際、車で避難する人が集中し、道路が渋滞したことで、避難が思うように進まないという課題が浮かび上がりました。 そこで当時の人流データを使い、人々がいつ、どのように避難したのかを研究を始めました。

図表1 石巻市 湊・渡波地区の人流

図表2 石巻市 日和山付近の人流

出典:図表1,2とも Agoop「コンプレノ」(ユーザーの同意を得たスマホアプリの位置情報データを活用)

人流データから見えてきたのは、「津波注意報」の段階では人の流れに大きな変化は見られない一方で、注意報が「津波警報」に引き上げられると、高台へ向かう動きが一斉に広がるということでした。その結果、高台へ向かう道路で渋滞が発生し、避難が思うように進まない様子も確認されました。注意報の発令は午前8時37分、警報は9時40分だったのですが、高台にある日和山公園の来訪者は午前10時に普段の698%、午前11時に791%と普段の7~8倍まで増えたことがわかりました。

このように、人の行動を「見える形」にすることで、当日の避難の状況を明らかにすることができました。客観的な人流データは、最適な避難のあり方を考えていくきっかけになると考えています。

地域と連携した防災教育への展開

さらに、この人流データを活用した防災教育にも取り組んでいます。石巻市内の小学生や中学生に対して、実際のデータをもとに授業を行い、「どこに人が集まりやすいのか」「どのような避難行動が考えられるのか」を一緒に考えました。

小学生向けの授業ではまず、人流データとは何かを簡単に説明したうえで、「お祭りの日に人が集まる様子」を時系列順に見せてみました。花火が上がる夜になると街中に一気に人が集まり、こうしたデータを見せると、子どもたちの反応は非常によく、「もう一度見たい」「どうしてここに人が集まっているの?」といった声が自然と出てきます。数値だけでなく、視覚的に理解できる点も人流データのよさだと感じています。

そしてテーマを人流データから防災に移し、学校の周辺の地図を見ながら「避難する時にはどこが混雑しそうか」を予想してもらいました。その後、実際のデータを見せ、自分たちの予想と比較してもらいました。

今回の取り組みは子供たちにとって、適切な避難について考えるきっかけになったと思います。また、小学校・中学校の先生方もとても熱心に授業にご協力いただきました。授業もすぐに実現し、石巻専修大学と地域の近さを感じましたし、東日本大震災を経験した地域だからこその防災意識の高さを感じました。学内の人間学部の先生方、学生の皆さんとも協力して防災教育に取り組んでいきたいと考えています。

こうしたデータの活用は、首都直下型地震、南海トラフ地震など将来災害が起こりうると予想されている地域に応用できる可能性があると考えています。避難所の標高と合わせて分析するなど、より細かくデータを確認し、よりよい避難につながる研究をしていきたいと考えています。

高校生の探究活動へのアドバイス:「何を知りたいのか」を大切に

高校生のみなさんは、探究でデータを扱うこともあると思います。その時に大切なのはどんなデータを集めるかということよりも、「自分は何を知りたいのか」という問いを持つことです。その問いがはっきりすると、「それを確かめるためにはどんなデータが必要か」「どのように調べればよいか」という次のステップが見えてきます。データはあくまで、考えるための材料です。最初からデータありきで考えるのではなく、自分の疑問や関心を軸にすることが重要です。

私自身の人流データを使った研究についても最初に避難時の車の渋滞という課題があり、それを解決する方法を知りたいと考えて、データを使って解明しようとしました。自分が知りたいことを明確にした上でデータを使うという順番で考えることが大切です。

おすすめの本

①高橋信「マンガでわかる統計学」(オーム社)

②河野 稠果「人口学への招待: 少子・高齢化はどこまで解明されたか」(中公新書)

経済学やデータ、統計の入門書として、小松先生がすすめる本はこちらの2冊。1冊目はマンガでわかりやすく、2冊目は小松先生の研究分野の入門書として読みやすいとのこと。

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地域連携プロジェクトに取り組む石巻専修大学生の声

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この記事を書いた人

探究百科GATEWAYの編集部です。高校生の「探究」に役立つ情報や探究分野の解説、探究の方法について発信します。

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