得意のイラストを通じて人々の防災意識を高めたい

宮城県名取市出身のフリーイラストレーターico.(イコ)さん。ico.さんは、仕事の傍らオンラインチャリティショップmolicoを運営し、オリジナルグッズの売上金の一部を団体に寄付する活動を行っています。イラストを通して自分なりにできることを探し続けているico.さんのストーリーをご覧ください。

目次

東京へ避難して

海岸林プロジェクトでの植樹風景

私は「ico.」名義で活動している宮城県名取市出身、福島市在住のフリーイラストレーターです。グラフィックデザイナーとして会社勤めしていた時期もありますが、2011年にフリーランスに転身。その後すぐに東日本大震災で被災し、自宅兼アトリエを津波に流されました。

住むところがなくなってしまったため単身避難で上京し、東京で衣食住を立て直していました。

そんなある日、買い物中の東京のスーパーで、「海岸林再生プロジェクト※」 の募金箱を目にします。

※ 海岸林再生プロジェクト:東日本大震災で流失した宮城県名取市沿岸の海岸林を再生させるべく、地元の農業従事者と公益財団法人オイスカで立ち上げた植樹プロジェクト。

避難先の東京で地元被災地支援の取り組みに出会い、運命を感じました。当時はまだ自分の生活でいっぱいいっぱいではありましたが、いてもたってもいられず事務局に連絡して「何か手伝いたい!」と、頼み込みました。

実際に名取市の現場を訪れると、そこには植林のプロフェッショナルたちの姿が。イラストレーターであることを告げると、「じゃあイラストのお仕事をお願いしようかな」と、依頼を頂けることになりました。それからはプロジェクトのパンフレットやチラシを作るようになって、東京で暮らしながら地元名取市の復興に関わることができました。

売り上げの一部を寄付する

被災地支援には多くの人の手が必要ですが、私はボランティアを集めたり、人に呼びかけたりSNSで拡散するという「人を巻き込むこと」が苦手です。

でも、私にはイラストがあります。「どうやってイラストで、地元の復興に貢献できるかな?」と私なりのやり方を考え、2018年にオンラインチャリティーショップ「molico(モリコ)」をオープン。ここでしか買えないオリジナルグッズやイラストを販売し、売り上げの一部を寄付する活動をはじめました。商品の裏面や同封のチラシで寄付先の団体の活動を紹介することで、グッズを買ってくださった方に団体の活動を伝えています。

molicoで販売しているオリジナルグッズ パッケージの裏面には寄付先の団体の紹介も記している

2018年10月から名取市の海岸林再生プロジェクトに売り上げ金の一部を寄付してきましたが、2021年3月の震災後10年を期に寄付金の受け入れが終了となりました。

新しい寄付先を探すことになったのですが、既に福島市に転入していたので、福島市内の団体から選ぶことに。そして2021年3月からは、子どもや若者の支援団体である特定非営利法人ビーンズふくしま※ に寄付先を決定しました。ゆくゆくは貧困家庭やひとり親世帯の支援もしていきたいと思っていたので、寄付を託すのにぴったりの団体でした。

※ 特定非営利活動法人ビーンズふくしま:貧困、不登校や引きこもり、震災による避難などの状況にいる子どもと若者に、フリースクールや心の相談室、学習・就労支援などの支援活動をしている福島市の団体。

2021年12月に、ビーンズふくしまに初めて寄付金を贈呈したのですが、2022年3月の卒業・入学祝いに、子どもたちに定期入れや名刺入れをプレゼントしたとご報告をいただきました。

自分の寄付がどんなものになったのか、どんな喜ばれ方をしたのかがはっきりとわかり、より子どもたちと直接関わりたい気持ちが強くなっています。

自分のスキルを活かす

私はこれまで「グッズを売ったりイラストの依頼を受けて得たお金を、寄付することでしか社会の役に立てない」と思い込んでいたのですが、実はそうでもないことに最近気がつきました。

「自分のスキルや経験を活かした支援や、お手伝いの方法、地域とのつながり方がある!」

これは名取市海岸林再生プロジェクトやビーンズふくしまの方々とつながり、関わってきた中で感じたことです。

ただ寄付を渡すだけの支援ではなく、もう一歩踏み込んで、ビーンズふくしまのボランティアとして、スタッフさんや生徒さんに寄り添った活動をしたいと思っています。

子どもたちやスタッフさんがあったら嬉しいもの、例えばイラストのワークショップやリクエストに沿ったサービスなど、私にしかできない「体験」を提供していきたいです。

私にとってイラストはこれまではお金を稼ぐための「商品」でした。でもチャリティ活動を続けてきて、molicoの目指したい方向性が少し変わり始めています。

molicoの商品は、防災になるもの、役立つもの、寄付先の情報を多くの方に知ってもらうもの。そのための「ツール」なんだと思うようになりました。

というのも、これまでのmolicoの商品にはメッセージ性はなく、ただ「かわいいから女の子を描く」「クリスマスの季節だからクリスマス柄」、というようにアート作品として販売していました。

でも、「グッズの向こうに子ども支援の活動がある」と実感してからは、molicoのアイテム自身にも「防災」というメッセージ性をもたせて発信していきたいと思っています。

なぜ防災かというと、私は2011年の東日本大震災で一回、2019年の東日本台風(台風19号)の洪水でも一回、自宅兼アトリエを流されています。それに3.11以降、東日本大震災に関するイラストのお仕事もたくさんしてきました。その時の経験や教訓、失敗談などを多くの人に伝えていきたいと思ったのです。これは、自宅を二回流されたイラストレーターの私にしかできないことだと感じています。

企画展では2019年に起きた東日本台風の被災体験の漫画を展示した

その一環で、2022年5月に福島市で「腰抜かしてる場合じゃない イラストレーターico.企画展」という防災に関する企画展を開催しました。私自身が2019年の東日本台風で被災した体験や、3.11で被災した女性の体験談を4コマ漫画にして展示。防災に興味がない人にも気軽にみてもらえたらいいな、という思いで企画しました。

展示と同時に、普段持ち歩ける防災ポーチの中身について考えたり、外出先で被災した場合のシミュレーションのワークショップも開催し、人々の防災意識を向上させる活動にも力を入れています。2022年末には防災カレンダーもmolicoで販売する予定で、鋭意制作中です。

私にとって、ただの商品でしかなかったイラストが、今ではいろんなことを伝えるツールに変化しています。

イラストレーターをやってて強く思うのが、「短所は長所だ」ということ。あらゆるものには裏と表の側面や見方があります。

心地よい居場所を探す

私の場合は、物を売ったり、SNSで発信することは苦手だけど、イラストでメッセージを伝えることだけには自信があります。

デザイナーとして働いていた会社員時代は、組織に馴染めないことは短所だと思っていましたが、そのおかげでフリーランスに挑戦する勇気が出ました。

ぜひ、いろんな角度から自分を見つめてみてください。今の時代は、早く深く情報を探すことができます。ひとつの場所で居場所がなくても、環境を変えたり、人を頼ったりして、いろんな視点をもってください。

そして、自分にとって心地よい居場所を探してみてください。

学校や家庭の中だけが世界の全てではないということを、伝えたいです。

おすすめの本
ジャン・ジオノ「木を植えた男」(あすなろ書房)

大学生の頃に図書館で読んだ絵本です。

ある男が一人で荒野に何十年もかけて木を植えています。何度も失敗を繰り返し、「あいつは何をしてるんだ」と周囲の人から蔑まれても男は諦めませんでした。やがて時が経つと、森が生まれ、生命体が生まれ、人が集まり町もできて、社会が形成されていく、という壮大なお話です。

男は地球にとって、未来にとって、木を植えることが必要だと思ったから、信念をもってひたすら木を植え続けました。現代に例えると一人で究極のSDGsを実現する男の姿を見て、私はハッとしました。

それまでの私は、人の目や評価という物差ししか持っていなかったんです。全然違う角度からの視点を「木を植えた男」からもらいました。

「『木を植えた男』になりたい!」という気持ちがずっと心のなかにあります。だからこそ私は、海岸林再生プロジェクトに運命を感じて、一歩踏み出せたのだと思います。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=ico.さん

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この記事を書いた人

地域で挑戦する人や企業を豊かにすることを目的とした福島創業のチーム。 ライターやデザイナー、映像クリエイター、エンジニア等といったプロが集まり、 各々の専門スキルや個性を活かしながら、関わるお客様や地域の資本を豊かにするため活動している。

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