想いで繋がる農業を

福島県喜多方市にて、「農業生産法人 株式会社 エガワコントラクター」の代表取締役を務める江川正道さん。おいしい農作物を作られているほか、耕作放棄地の整備や農業の担い手不足解消にも尽力されている、江川さんの想いをぜひお読みください。

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耕作放棄地での挑戦

 私は福島県喜多方市出身で、現在も喜多方市にて農業の会社を経営しています。もともと私の父は喜多方市で建設会社を営んでいたため、学生時代から将来は父の会社を継ぐのだと考えてきました。

父が営む建設会社の得意分野は田畑や農道の整備、水路工事などの「農業土木」と呼ばれる分野です。私は元々農業についてあまり関心がありませんでしたが、父の会社の仕事関係で私も農業に携わることが増えていくと、農業が肌に合っていると感じるようになりました。

また、喜多方市に耕作放棄地と農業の担い手不足という課題があったことも農業に従事するきっかけになりました。耕作放棄地とは、長期間耕作が行われずに放置されている農地のことを指します。整備や管理が行き届いておらず、雑草が生い茂っていたり、ごみが不法投棄されていたりするなど、荒れて使用できない状態になっていることが多いのです。また、耕作放棄地の増加は、農業の担い手不足という課題と密接に結びついています。担い手となる若者が少ないと、農業従事者の高齢化や人材不足によって、耕せる規模はどんどん減少し、結果として、耕せなくなった田畑が耕作放棄地となってしまうのです。父の会社では、耕作放棄地を整備して綺麗な状態に戻すという仕事を行っていたのですが、整備をしたところで使い手がいないという問題に直面。どれだけ整備に力を入れても、誰かがその地で農業をしなければまた耕作放棄地に戻る、という悪循環に陥ります。そこで私も父の想いを受け継ぎ、チャレンジャーとなって元耕作放棄地で農業を始めることを決意しました。農業についての専門的な知識がほぼゼロからのスタートでしたが、必死に勉強し、実践し、「農業生産法人 株式会社 エガワコントラクター」を事業承継。ここから、耕作放棄地を人が集まる畑へと変える、私の挑戦が始まりました。

畑に彩りを戻し、人が集まる場所に

 私の会社では、「農業生産」「農作業受託」「商品開発・販売」の3事業を行っています。「農業生産」では、メインがアスパラガスの生産、そのほかにもじゃがいもや人参、かぼちゃなど、実に多様な露地野菜を栽培しています。私たちが耕している田畑のほとんどが元耕作放棄地です。自分たちの手によってかつての姿に蘇らせ、その地で栽培を行っています。また、全くの素人として農業に携わり始めた私たちが思う農業の原点は「できるだけ自然のままで、自分達が食べたいと思えるおいしい野菜を作ること」です。化学肥料や農薬を用いずに行う「有機農業」を目指し、その土地に適した農作物を作り、最高の品質でお客様に届ける。これが私たちの理念です。

 そして、私たちが栽培する土地のほかに、他の農家さんや団体から依頼を受けて耕作放棄地や荒れた圃場を整備する「農作業受託」も行っています。父が営んでいた建設会社が農業土木を得意としていたことから、土地を整備するための技術や機械の取り揃えには自信があります。質の高い開墾能力を活かして、他の農業従事者の方々へのサポートにも力を入れています。

 また、喜多方の資源を活用した新しい取り組みとして、「商品開発・企画」も行っています。地域資源1つ1つに目を向け、より有効活用する企画を考えて形にするプロジェクトです。過去には、和製ブルーベリーともいわれる希少な果実「なつはぜ」と、会津産のはちみつを使用した「なつはぜサイダー」を販売。お買い求めいただいた方々にとても好評で、今後も地域資源の魅力を活かした商品を生み出していきたいと思います。

 私が農業をする上で最も大切にしていることは「繋がり」です。まずは「地域との繋がり」。地元でもある喜多方には人一倍思い入れが強く、私の活動を通して少しでも喜多方をより良くしたいと思っています。私たちが地元の直売所や飲食店に卸した野菜を地域の方々に召し上がっていただくことは、地域の繋がりを感じられてとても嬉しいです。耕作放棄地の整備も、「この畑に彩りを戻し、人が集まる場所にしたい」という想いで行っています。耕作放棄地の整備を行い、いざ農業を初めてみると、徐々に地域の方々が集まってきてくれるようになり、とてもやりがいを感じました。

 そして、現在畑を訪れてくれる方は喜多方の方だけではありません。購入してくださった方の口コミや、私たちの取り組みを特集してくださった記事を見て、現在では全国各地から私たちの農業を応援してくれる方々が畑を訪れてくれています。また、私たちの農作物の販路は直売所のほかに「関東方面の飲食店」や全国を対象とする「オンライン産直」が中心のため、県外にお住まいの方にも召し上がっていただく機会が多いのです。私たちが特に栽培に力を入れているアスパラガスは購入者からのリピート率も非常に高く、Facebookでも250名を超えるファングループ「●○アスパラダイスな仲間たち○●」が存在します。県外にお住まいの方でも、わざわざ喜多方に足を運んで畑の見学や収穫体験に来てくださる方もいます。喜多方という地域だけではなく全国へ目を向けて「人との繋がり」を意識した結果、大きなコミュニティへと発展することができました。

 しかし、今まで農業を営んできて経験したのは良い思い出ばかりではなく、思うようにいかなかった悲しい思い出もあります。私たちが愛情をこめて大事に育てた作物を、取り引き先から単なる「物」として扱われた時はとても悔しく、悲しかったです。作物1つ1つに命が宿っているという想いを説明しても理解してもらえず、とても辛かったのを覚えています。そんな時に救われたのが、先程ご説明したコミュニティに所属する皆さんの存在です。私たちが手掛けた作物を心から「美味しい」と喜んでくれる方々との繋がりがあるからこそ、私たちも愛情を込めて育てるモチベーションが生まれます。農業は想いがなければできません。長い年月と多くの手間と労力を、想いなしに作物へ注ぐことなど絶対に不可能です。だからこそ私は1人でも多くの仲間と想いを共有して、一丸となって大切に育てていきます。私たちが想いを込めて全力で育てた作物を、皆さんにも召し上がって頂きたいです。

多くの人と出会い、広い世界に出る

 私は今振り返ると、若いうちに親や先生以外の大人と関わりや、様々なコミュニティに参加する機会をもっと経験しておきたかったなと思います。社会に出る前になるべく多くの人と出会い、広い世界に出てみると、きっと将来につながる「学び」が得られるはずです。

 そして、皆さんはこれから沢山の選択をしていくと思います。覚えておいてほしいのは、どんな選択をしても間違いではないということです。もし「私が進むべき道はここではないのかもしれない」と感じたら、いつだって他の道へ挑戦することができるのです。皆さんが本気で挑戦する気持ちがある限り、必ず応援してくれる人がいるので、胸を張って頑張り続けてください。皆さんがこれからますますご活躍されることを心から応援しております。頑張ってください!

◆おすすめの本
「東北食べる通信」(東北開墾)
東北の食べ物と生産者のストーリーを特集した情報誌で、なんと旬の食べ物がセットでついてきます!生産者の方の想いも合わせて紹介されています。以前、私達の生産したアスパラガスを特集して頂きました。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=江川さん

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この記事を書いた人

地域で挑戦する人や企業を豊かにすることを目的とした福島創業のチーム。 ライターやデザイナー、映像クリエイター、エンジニア等といったプロが集まり、 各々の専門スキルや個性を活かしながら、関わるお客様や地域の資本を豊かにするため活動している。

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