生活用品から家電まで、様々な製品を製造するメーカー「アイリスオーヤマ」。宮城県に本社を置き、LED電球などの照明や収納商品、園芸やペット用品、家電製品、さらには水・食品など様々な製品を製造、販売しています。
多様な分野で商品を販売しているアイリスオーヤマが特に力を入れているのが、新商品の開発。全商品の3年以内に開発された商品の売上は、全商品の6割以上にもなります。年間に開発される商品は1000点以上。なぜこんなに早いスピードで商品開発ができるのか。そこにはアイリスオーヤマで働く方々のどんなアイデアが生かされているのか。広報担当の方に聞いてみました。
全部門が集う「新商品開発会議」
取アイリスオーヤマの商品開発の原動力となっているのは、毎週月曜に開催されている「新商品開発会議」です。
会議では新商品などを企画・開発する担当者が新たなアイデアについて5分から10分でプレゼン。議論される案件は1日あたり、60件前後。1ヶ月になると200もの案件を扱うことになります。
この会議には商品開発、マーケティング、営業、広報、品質管理など商品開発に関する全部門の責任者が出席。機能がSimpleか、価格がReasonableか(安いか)、品質はGoodか、などの観点でプレゼンに対して意見を述べていきます。
「サイズが大きいのではないか」
「もう少しコンパクトにした方がいい」
「どうやったら売れると思うか」
など、会議ではさまざまな意見が飛び交います。この会議には社長も出席しており、社長自ら商品の試作品を使って性能や使いやすさを確かめることもあるそうです。
一般的に、企業が新商品や新サービスを開発する場合、まずは上司に相談し、さらに上司がその上司に相談し、さらにその上司へ、他の部門へ…というように多くの方に順々に説明し同意をとっていくことが求められるため、時間がかかります。アイリスオーヤマの場合、会議には新商品開発に関わるあらゆる部門の社員が一堂に会しているため、すぐに判断することが可能です。もちろん1回の会議で進むこともありますが、修正を求められた場合はもう1度新商品開発会議に臨むことになるそうです。
会議から生まれた新商品
では、この会議からどんな製品が生み出されているのでしょうか。その商品をいくつか紹介したいと思います。
○○機能付きのふとん乾燥機
まず紹介するのはふとんを乾燥させるために使う、ふとん乾燥機です。アイリスオーヤマが開発したふとん乾燥機には、どんな機能がついていると思いますか?当然、ふとんを「乾燥する」機能があります。さらに、別の機能がついています。それはどんな機能だと思いますか?
正解は「あたためる」機能。これは実際にふとん乾燥機を使っている方に聞いてみると「ふとんを乾燥させたい」という声だけではなく、「冬になると布団が冷たくて困る」、「冷え症なので体を温めたい」という思いがけないニーズがあることが分かりました。そこでアイリスオーヤマはふとんを「あたためる」機能を追加したそうです。
さらにデザインにもこだわり、「インテリアタイプ」のふとん乾燥機を開発。通常のふとん乾燥機に比べるとコンパクトなサイズで置くスペースにも困らず、さらに木目調のデザインやカラフルな色合いで家具に合わせやすいデザインになっています。
掃除機に「ついていたらいいもの」を実現
もう一つ事例を紹介します。みなさんが1度は使ったことがある、掃除機。この掃除機にあるモノがついている掃除機を開発しました。それは、ほこりを取るための、モップ。
細長い形状の掃除機「スティッククリーナー」に「静電モップ」がついています。そのため、スティッククリーナーで床の掃除をしながら、「そのついでに」、棚や机のホコリを静電モップに吸着させることができるのです。「掃除をするときに棚や机のホコリも一緒に掃除したい」というニーズにこたえたものです。さらに工夫があり、スティッククリーナーのスタンドにほこりの吸い込み口を搭載し、モップについたホコリを吸引することで、きれいにすることが可能になっています。
実際に掃除機を担当するようになると、自宅で5,6台の掃除機を使い倒し、研究を重ねることもあるそうです。実際に掃除機を使ってみることで、「こうだったらいいのに」という思いを形にしたからこそできたものといえます。開発者こそ、生活者の声を代弁している人といえるでしょう。ふとん乾燥機や掃除機を事例に紹介をしてきましたが、アイリスオーヤマの商品開発の根底には、「生活者の不満や不便を解決したい」という考え方があります。この考え方をアイリスオーヤマでは「ユーザーイン発想」と呼んでいます。
アイリスオーヤマは世界で初めて収納ケースの中身が見られるようになっている「クリア収納ケース」を販売したことでも知られています。それまでは外側の箱部分に色がついていて「中身が見えない」という不便さを解決するためのものを形にしました。当時、透明性の高い「ポリプロピレン樹脂」は数が少なく高価だったのですが、そこから2年の歳月を経て、1989年にクリア収納ケースを発売。生活者の不便を解決するというユーザーイン発想は、脈々と受け継がれた会社の文化といえます。
近年の様々な災害や感染症も、開発の契機となってきました。2011年の東日本大震災により節電の必要性が高まった際には、LED照明の開発を加速させ、全国のLED照明の普及と電力削減に貢献しました。また、被災地の復興支援の一環として「精米」の事業も新しく始めています。
例えば新型コロナウイルスが流行し始めたとき、国内では「マスク」の数が足りなくなったことがありました。そこで国内の工場の設備を新設し、マスクの生産体制を整えました。さらに、着用時の息苦しさを改善する「ナノエアーマスク」という商品も開発。カラータイプ、立体タイプなど次々に商品を開発していきました。コロナウイルスはいったん収束の方向に向かっていますが、家電の技術を応用したマスクの開発や、「不織布」を作る技術を使い、何かできないか、と考えているそうです。
時代のニーズに合わせた開発を
アイリスオーヤマが目指すのは時代のニーズに合わせた開発。今後日本が人口減少時代となり、人手不足が課題となる中で、ロボットの需要は高まっていくと予測しています。例えば配膳ロボットや清掃ロボットなど、様々なロボットの開発にも力を入れていきたいと考えているそうです。
また、今後はユーザーイン発想に加えて消費者アンケートなどのデータを分析するデータマーケティングの手法を用いて、「本当にニーズがあるのか?」を検証しながら開発をしていきたいそうです。
取材を担当していただいた広報担当の方に、高校生に対するメッセージを聞いてみました。「普段の生活の中から、なぜここはこうなっているのか?を考えてみるといいですよ」というアドバイスを頂きました。あなたが考えている「不便や不満」は、新たな商品を生み出す「アイデア」になるかもしれません。
(本の情報:国立国会図書館サーチ)
写真提供=アイリスオーヤマ株式会社