「畑の保健室」から作るつながりと健康

岩手県の紫波(しわ)町。田園地帯の農業用のビニールハウスに「畑の保健室」という看板が掲げられていました。
中に入ると、高齢者の方々が10人ほど集まり、会話を楽しんでいます。小雪が舞う中、木の「まき」を入れたストーブには火がくべられ、自然と人の輪ができています。収穫された野菜を手入れしたり、お菓子や飲み物を口にしたりと、思い思いにその空間を楽しんでいます。

この取り組みを企画している、星真土香(まどか)さんに、お話を聞きました。

目次

◆取り組みのきっかけ

私は岩手県の出身です。約20年間、医療や健康づくりに関わっています。中学生だった1995年、阪神・淡路大震災という大きな災害があり、仮設住宅を訪問している看護師の方の姿をテレビで見ました。それが頭に残っていて、高校卒業後に看護学校に通い、看護師になりました。その後岩手県や宮城県仙台市の病院に勤務しました。離島にあるもともと学校だった建物をリノベーションした診療所で働いたこともあります。

この「畑の保健室」とは、学校の保健室をイメージしてもらうとよいと思います。保健室で少し休んだり健康相談をしたりするように町の中で、地域の方の健康の相談に応じたり畑作業をしながら会話をしています。2022年からは「畑多楽縁(はたらくえん)」という場の名前で活動しています。

この活動を始めたきっかけの1つとして、看護師の仕事を少し離れて飲食店のお手伝いをしていた時のことです。夜に飲食店で働いていると、仕事終わりにそのお店を訪れるお客さんから健康診断の結果を見せられ生活の困りごとを聞いたり、健康のためにお酒の飲み方を一緒に見直したり、お客さんが介護する家族の相談を受けたりしたんですね。そこから、病気になってから治療するのではなく、元気なうちからみなさんの健康に関わることは必要だ。また、病院だけでなく、暮らしの中に看護師がいてもいいんじゃないかなと思うようになりました。

さらに在宅医療に携わった際に、自宅で療養している患者さん方が、病気や障害を抱えながらも明るく元気で、自分らしく過ごしている姿が印象的でした。その時に「薬以外の何かが作用しているのか?それって何だろう?」と考えたときに「人」や「住み慣れた環境」だったんですね。「人の繋がりや住み慣れた環境が健康に作用しているんだ」と思ったんです。

キーワード 在宅医療

在宅医療とは病院になかなか来られない患者さんに対するケアの方法です。医師や看護師が患者さんのご自宅を定期的に訪問して診察をしたりお世話をしたりします。

◆どんな取り組みをしているか

2020年から「地域おこし協力隊」という制度を使って、宮城県仙台市から紫波町に移住し、地域住民の方と交流しながら会話をし、その方の持っている能力を引き出したり楽しみを生み出しながら、時に健康相談に応じたり困りごとを聞く活動を行ってきました。カフェや地域の公民館では「くらしの保健室」という名前でやっていて、このビニールハウスでは2021年秋から健康相談や交流会を始めました。時には図書館から本を借りてきて読めるようにしたり、温かいみそ汁を用意したり、参加者のみなさんに自由に過ごしていただけるようにしています。

「くらしの保健室」、「畑多楽縁」では、病院に行く前に相談していただけるケースがあります。「体の調子が悪いんだけど、何科に行ったらいいのかな?」とか「お医者さんにどう相談すればいいの?」という相談にも乗ることがあります。

また、「畑多楽縁」には悩みを抱えている方もいらっしゃいます。さらに一人暮らしで、孤独感を感じている方もいらっしゃる。そういう方が他の参加者の方とお話しできるように、少し背中を押すのも私の仕事です。常に周りに気を配りながら、参加者の方々がいい距離感の中で会話ができるように心がけています。

◆未来へ向けて・高校生へのメッセージ

病院だけではなく、地域からも健康づくりを実現しようと、看護の場を地域に置き、「畑多楽縁」を始めたことはチャレンジの連続でした。これからは今までのチャレンジをさらに形に変えていきたいと思います。参加者の方に継続してきていただけるように、居心地のよく安全な環境づくりが大切だと思っています。

看護・医療系を目指す高校生のみなさんもぜひ頑張ってほしいと思いますし、いつかこの「畑多楽縁」にも遊びに来てほしいと思っています。

探究テーマを広げる問い

あなたにとって「健康」とはなんですか?

(ヒント:病気をしないこと、精神的に満たされていること、社会的に満たされていること、など実は健康にも色々な側面があります)

◆おすすめの本

「社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法」(西智弘)

「人の繋がりが健康に作用する」と思って活動しています。それを言語化している本です。

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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