医療の視点から考える、「人生会議」の広め方

後悔のない豊かな人生を送ることは誰もが願うことです。

今回の記事にご登場いただく医師であり研究者の坪谷透さんは「人生の最期に何をしたいか」を大切な人と話し合う「人生会議」を広めようと「一般社団法人 みんなの健康らぼ」でご活動されています。一般の方にはなかなかなじみがない「人生会議」をどう広めていくか、坪谷さんたちの工夫を聞きました。

目次

最期の過ごし方を考える

長年医師として働いています。取り組みのきっかけになったのは、次々に救急車で患者さんが運ばれてくる現場で、患者さんの対応をしたことでした。ご家族に聞くと、こういいます。「突然体調が悪くなったんです」。

そうなんです。病気というものは、突然、やってきます。 「明日病気になりますよ」と言ってくれる人は誰もいません。

そういう突然やってきた場面で、人工呼吸器をつけますか?どうしますか?という話があった時に、事前に考えていないと家族の判断が難しい。患者さんが元気なうちから、家族で話し合っておくことができないかなと考えていました。

医者の立場から言っても、医療のことは医者の方が詳しいのですが、「最期の過ごし方」というのは医療とは関係ない部分が多かったりします。まずは医療抜きで希望を考えてもらって、そこから医者に相談してもらった方が、私たちも考えやすいのです。

実は数字でも明らかになっていて、厚生労働省の調査では「最期について話し合ったことがない人の割合は55%。詳しく話し合ったことがある割合は3%だけです。

自宅で最期を迎えたい人は55%。統計上、自宅で亡くなっている人は13%。多くの方が病院で亡くなっています。ここにギャップがありますね。毎年150万人がなくなる多死社会を迎える中で、自宅で最期を迎えたいのに、それができていない。このギャップは非常に大きな社会問題だなと感じています。

「人生会議」を広める

私たちが広げていきたいのは「人生会議」。もしもの時のためにあなたが望む医療やケアについて家族や大切な人と前もって考え、繰り返し話し合うという取り組みのことです。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)と言われたりもします。

ただ、いきなりご高齢の方に「人生会議」をしましょう、と言っても、なかなかうまくいかないものです。

私たちはまず、その人の豊かな人生についてお話を聞いてから、人生の最期について考えようという順番にしました。人は過去の出来事の方が語りやすいことに注目をしました。

人生の最期を語ることは、そもそもどんな人生を歩みたいかを考えることにもつながります。聞き取りを続けていると、「たまに夜中に起きると、もう最期かもしれないと思うときがある。その時はアイスクリームでも最後に食べておこうと思って食べるんだ」と語る方もいるんです。このように、「最期」について考えることは、人生の希望を語ることだと考えています。

「最期」について語る方の周りにはご家族がいらっしゃるので、ご家族と一緒に「後悔がない人生を送るためにはどうすればいいか」を考えることが大切だと考えています。

「行動経済学」の視点で「楽しく」伝える

私たちは、この「人生会議」をもっと多くの方に広げるためどうするかを考えました。

繰り返しになりますが、「人生会議をしましょう」と言ってもなかなか人は集まらない。

例えば運動教室しましょう!と言ってもごく一部の健康意識が高い人しか来ないんです。本当に届いてほしいのは健康意識が低い人なのですが心理的なハードルがあり、なかなか来ない。 そこで「行動経済学」という視点で物事を考えてみました。私はアメリカで研究していた時があり、海外ではこの「行動を科学する」というという視点での研究が進んでいると感じました。2002年には行動経済学の代表的な研究者がノーベル経済学賞を受賞しています。

行動経済学は、人間は2つの考えをするという考え方に基づきます。

「システム1」は「直感的で速い」判断をすること。

例えば皆さんも、おなかがすいたから、お菓子をついつい食べてしまうことってありますよね。これはシステム1の「直感的で速い」判断。頭では「間食はいけない」と思っていても、直感的に「食べてしまう」という経験、みなさんもありますよね。

もう1つが、「システム2」。これは「意識的で遅い」判断をすること。「う~んどうだろうな」とじっくりと頭を使って判断することです。

行動経済学と「健康」を結び付けて考えてみると「健康意識が低い人」を巻き込むには、「システム1」の思考。つまり直感的、感覚的、楽しい、面白いと思ってもらった方がいいということに気づきました。

例えば、ある大学の付属病院で、手の消毒を促すため、イタリア・ローマにある彫刻「真実の口」を模したオブジェの口に手を入れたら消毒液が出る仕掛けを考えた方がいました。

私たちも難しいことを考えるときには、楽しくした方がいいと考えました。

そこで、人生会議の重要性を理解してもらうべく劇をやり、SNSで拡散しました。他にも漫才やカードゲームを作ってみました。そうしていくと、SNSの再生回数が伸び、本来届かないような方にも、情報が届くことを実感しました。これがその劇です。

https://www.youtube.com/watch?v=VryRan8FQ7c&t=3s

Youtubeに「みんなの健康らぼ」のチャンネルを開設していますが、こちらにはテニスが得意な仲間の医師がテニスについて解説する動画を上げています。一見関係なさそうな動画を見て、そこから医療や健康についての動画を見てくれるわけですよね。

医療や健康についても「エンターテインメント」の視点を含めれば、楽しく伝えていける。みなさんも、色々と試行錯誤しながら探究することが大事だと考えています。

おすすめの本
大竹文雄「行動経済学」(岩波書店)
大竹文雄、平井啓「医療現場の行動経済学:すれ違う医者と患者」(東洋経済新報社)

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

もっと知りたい方はこちら


みんなの健康らぼさんによる活動報告 「人生会議啓発×行動経済学」
https://www.youtube.com/watch?v=eH7rQuifvag

え!人生会議ってこんなに盛り上がるの?みんらぼカードとファシリがすごいワケ https://www.youtube.com/watch?v=jVo3cTXQXEQ&t=259s

【みんらぼカード】トランプしてたら人生会議ができた!その方法を教えます https://www.youtube.com/watch?v=nF8ycbWhqjg&t=43s

【人生会議・みんらぼカード】人生のポジティブな希望を語りませんか? https://www.youtube.com/watch?v=V4EBHsLxHsc&t=1s

【みんらぼカード】使い方をデモしながら説明します!人生会議盛り上がり! https://www.youtube.com/watch?v=m2BUAF9jRPM&t=6s


【みんらぼカード】きのこと人生を会議!誕生までの秘話を公開
https://www.youtube.com/watch?v=jf4XPceTohw

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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