若者が誇れる、花巻の拠点を駅前に創る

岩手県花巻市、JR花巻駅の東口にある「Lit work place」。朝から夜まで営業しており、多くの若者や家族連れでにぎわうお店です。1階のドアを開けると焼きたてのパンの香ばしい香りが漂い、奥にはクラフトビールを醸造するタンクが立ち並んでいます。2階に上がると大小さまざまなカウンター席やテーブル席があり、窓からは駅が見渡せます。

この素敵なお店を経営しているのが、株式会社トルクストの高橋亮さん。お店のこだわりや地元・花巻に対する思いを聞きました。

目次

スノーボードと食堂運営

高校時代はスノーボードに明け暮れていました。「スロープスタイル」や「ハーフパイプ」という種目で本気でスノーボードの選手を目指していました。冬になると日本各地に遠征を繰り返し、骨折したり、ケガをしたりして花巻に帰る…という生活を繰り返していました。全身麻酔が必要な手術を9回経験するほど、スノーボードに打ち込んでいました。

最初はスノーボードの選手を目指していたのですが、だんだん年齢を重ねると自分は選手になりたいというより「スノーボードを続けたい」ということがわかりました。そこで、岩手に戻ってきて夏は働き、冬は趣味の範囲でスノーボードを楽しむという生活を行いました。鉄板を買い、お祭りで出店を出したり、スケートボード用のミニランプ(滑走用の設備)を販売したりしていました。

転機となったのは、2012年、28歳の時です。花巻市の鉛温泉スキー場の食堂を運営することになったのです。スノーボードの経験もあったので、「食堂とスノーパークで地元のスキー場を盛り上げたい」と思い引き受けました。このスキー場の食堂の運営をきっかけに、花巻市内の飲食店の経営をやりませんか?というお話が舞い込むようになり、現在は「Lit work place」を含めて岩手県内で3店舗を経営しています。

「ワクワク」することに挑戦する

「Lit work place」は2019年7月にオープンしました。「Lit」には「楽しい」、「いけてる」という意味です。このお店は以前、土産物や民芸を扱うお店でした。これを飲食ができる場所にするため、1階、2階と店の中をすべて改装しました。

店舗の中の設計を行い、壁を塗り、床を張り替え、照明を取り換え、店内の机やいすなど作れるものは自分たちで作りました。飲食店だけではなくクラフトビールの醸造所にもなっており、1階で作ったビールを2階で味わえるようにしました。クラフトビールを作るための大きなタンクも据え付ける必要があり、オープンまでには約1年間もの時間がかかりました。

祖父が大工をしていた影響で幼いころから木材や大工道具に触れる機会があり、子どものころからものを作るのが好きでした。高校卒業後に1年間職業訓練校で大工の知識を学んでいた経験もありました。

また、建物を改装する「リノベーション」についても、同じ花巻市で活動する小友康広さんが企画するリノベーションスクールに参加してリノベーションを学びました。(小友さんが手がけた「マルカンデパートの大食堂復活ストーリー」はこちら

大変な作業でしたが、自分は「ワクワクする」ことであれば、「できそうにない」ことでも挑戦をするようにしています。まず先に「やる」という決断をしてしまうことが大切だと思います。やると決めてできる限り早く一歩を踏み出す。そしてその決断を正解にもっていく。

チャンスはみんなに平等に来ていると思います。だから、ワクワクすることであればすぐに「私がやります」と言ってチャンスをつかむようにしています。

ここは駅からすぐ目の前にありまさに「花巻の顔」と言える場所です。花巻に観光で訪れた方が満足できる場所にしていきたいと思っています。夜のディナーのメニューには白金豚(はっきんとん)や地元産の卵を使った料理など「地産地消」のメニューを出しています。1階にはガラス細工やアクセサリーなど花巻や県内で活躍する作家さんの雑貨を置いて、花巻を発信できる場にしています。

また、花巻の市民の方にとっても満足できる場所にしていきたいと思います。朝7時からお店を開けているのは、朝の時間を元気にしたいからです。「朝活」や「朝カルチャー」は豊かな生活につながると考えています。

例えば電車で花巻に通勤をしているサラリーマンの方がいつもより1本早い電車に乗って、ここでコーヒーとパンを食べて、心と体を整えて会社に行く、そんな時間を提供していきたいと考えています。「花巻に来た人」、「花巻に住んでいる人」両方にとって満足してもらえる店を目指しています。

誇れるような花巻に

地元を盛り上げたいと思った1つのきっかけは、スノーボードで全国を回っているときのことでした。スノーボードをしている仲間たちが地元のいいところを自慢していて、自分にも「今度うちの地元においでよ」と話していた。でも自分は花巻を自慢できなくて「かっこ悪いな」と思ってしまいました。

だからこそ、若い人たちに花巻の魅力を感じてもらい、別の地域出身の友人を連れてこられるような場所にしていきたいです。しかも、自信を持って連れてこられる場所にしていきたい。高校を卒業すれば、一度花巻を離れることもあると思いますが、「また戻ってきたい」という場所にしていきたいと考えていますし、そのために自分ももっと成長していきたいと考えています。

おすすめの本
岸見 一郎/古賀 史健「嫌われる勇気 : 自己啓発の源流「アドラー」の教え」(ダイヤモンド社)

「アドラー心理学」をわかりやすく伝えた本でベストセラーになった一冊。「自分の正解が正解でない事に気づく」と高橋さん。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

目次