東北で感じた「つながり」 移住して「ぶどう農家」に

岩手県花巻市の大迫(おおはさま)地区のぶどう農家の鈴木寛太さん。もともとは東京都のご出身で、東日本大震災の際のボランティア活動をきっかけに岩手に移住しました。なぜ、岩手に移住し、どんな思いで農業に取り組んでいるのか、お話を伺いました。

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「地域おこし協力隊」との出会い

私の出身は東京都大田区で、生まれてからずっと東京で過ごしていました。でも、色々なご縁があり、今は岩手県の花巻というところで、ぶどう農家をしています。なんで東北地方に来たの?と気になる方も多いと思います。

東北地方にかかわるようになったきっかけは2011年の東日本大震災でした。高校を卒業して1年経った、大学1年生の春休みで、当時東京で今までには感じたことがないほど、大きな揺れに襲われました。津波で被災した東北地方の様子を見ているうちに、何か東北のためにできることはないかな、という風に思うようになりました。

当時の私は、特に何もしていなくて、これからダラダラと大学生活を送るのかな、くらいにしか思っていませんでした。その時、通っていた大学が、東北でボランティアをする学生を募っていました。私はその活動に手を挙げて、震災から半年後に、夜行バスで東北に向かい、岩手県で支援物資の仕分けなどを行いました。

不思議だったのは、なぜかボランティアで行った私の方が元気をもらえたのです。それは現地の人との交流があったからでした。大変な思いをしたはずなのに、「また来てね!」「いつでも来ていいからね!」と言ってくれました。優しく私に接してくれて、たくさんお土産をくれたのです。

当時は自分に自信がなかったのですが、何か自分が求められている気がして、そこから継続的に岩手に通うようになりました。人と人とのつながり、という東京では見つけられなかったものが東北にあったのです。「答えは現場にある」のだと思います

大学を卒業していったん東京で仕事をしていましたが、頭の片隅には常に、いつか岩手で働きたいという思いを抱えていました。その時「地域おこし協力隊」という制度の存在を知りました。

そして、2015年に岩手県の花巻市の「地域おこし協力隊」になりました。ぶどうの産地である大迫(おおはさま)という地区でぶどうのPRや販路拡大をするというのが私の仕事でした。ぶどう農家さんを1軒1軒訪問してお困りごとを聞いたり、大学生を呼んでぶどう農家さんのお手伝いをしてもらったりしていました。

☆キーワード 地域おこし協力隊

都会から地方に移住する人を増やす国の取り組み。地域おこし協力隊員は、地域の産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行う。隊員は各自治体に任命される。任期は限られていて、1~3年のことが多い。

ぶどう農家への転身

そんな活動をしていると、ある時知り合いの農家さんから、「ぶどう農家にならないか?」という話をもらいました。私は、農業をした経験はありません。それまでも、ぶどうをPRしていただけなんです。不安はありましたが、移住した私がぶどう農家になることで、新しくぶどう農家を始める方を応援できるのではないかと思い、引き受けることにしました。

 ぶどう作りは根気のいる作業です。私の畑は全部合わせると、1ヘクタール。学校の校庭くらいの大きさになるのですが、朝から晩までぶどう畑を回り、ぶどうの木の管理や、畑の草刈りを行っています。ぶどうの収穫も大変な作業です。でも、ぶどうを食べてくれる人の声が生きがいになっていて、地元のワイナリーさん(ワイン製造所さん)にお願いをして、自分が育てたブドウで、ワインを作ってもらうこともできました。

 

伝えることの大切さ

移住して6年が経ちました。ぶどうもワインも世界と戦えるものだと思っています。ぶどうは世界中で栽培され、ワインも世界中で飲まれている。そして、私たちの街のぶどうに関わる人を増やしていきたい。小さな町ではありますが、自分も美味しいぶどうを作り、ぶどうとワインをPRしていきたいと思います。

地元の高校の探究の時間でも高校生のサポートをしています。主にぶどうを中心とした活動を行ってきましたが、ぶどうの栽培や地域の課題を考えてもらいつつ、活動を通して自分が何をして、どのように感じたか。それを本当に課題と思ったのか?など学生一人ひとりが感じたことを自分の言葉でまとめ、相手に伝えることの大切さを重視してきました。これからも何かを伝える事の大切さをぶどうを通して教えていければと考えています。

写真提供=鈴木さん

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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