地域と経済をつなぐサスティナビリティの実践

SDGsなどサスティナビリティの観点からの企業経営アドバイザーとして活躍され、「SDGs de 地方創生」カードゲーム公認ファシリテーターの資格などをお持ちの今田さんにインタビューを行いました。

目次

取り組みのきっかけ

 ――現在の活動をはじめられたきっかけを教えてください。

勤務先では環境ISO 14000*等の事務局業務を行っていました。その活動から見えてきたのが、環境活動にきちんと取り組んでいない企業は市場から撤退を迫られるということです。経済産業省もマテリアルフローコストアカウンティング*を推奨していました。これも経営と環境とを結び付ける意味で重要だと考え、関心をもつようになりました。

*ISO14000 国際標準化機構(ISO)が設定した国際的な品質管理基準。生産体制や環境管理のシステム、で、特に環境を対象とした規格。原料調達・製造・リサイクルといった面で環境に配慮した企業活動を促進するための環境管理の規格である。

*マテリアルフローコストアカウンティング マテリアル(原材料、資材)のロスを物量とコストで“見える化”する手法。資材の使用量・購入量を削減し、原材料費低減に直結するだけでなく、資源効率を高める等の環境負荷低減の取り組みにもなる。

当時は山形の事業所にいたのですが、本社が「山形に面白いやつがいる」と考えたらしく東京に呼ばれました。その前からサスティナビリティ(持続可能性)の勉強を続けており、環境経営学会の学習会などにも参加していました。のめりこむきっかけはSDGsカードゲーム体験会に参加したことです。2016年に日本初の体験会に参加し、そこで感銘を受けて「会社を辞めてでもSDGsの取り組みに携わりたい」と思うようになりました。始業前、朝7時30分からSDGsの講義を受けた後に出社したり、仕事が終わってから大学の夜間講座を受講したりしていました。

当時勤務していた企業は、半導体や自動車部品・電子機器部品を製造していました。脱炭素やサスティナビリティを進めるうえでカギとなる事業です。今後業界全体でSDGsに取り組む時がくるだろう、東北地方で私がやってやろうという決心をしました。本気でSDGsに取組むため6年前に会社を退職しました。東京なら関連の仕事がありますが、地方ではそうはいきません。最初は周りから「あいつ何しているんだ」、「SDGsなんて何になる」と言われました。

SDGs達成に向けて取り組んでいること

――現在取り組んでいらっしゃるのはどのようなことでしょう?

脱炭素社会とかカーボンニュートラル、SDGs7,13番ですが、将来のあるべき社会を思い描き、その目標に向けてどのような取り組みができるかを考えることが活動の中心になります。活動を続けるうちに人づくりと経済成長の両立という考えも固まってきました。そのために何をすればいいのかを考え、環境省認定制度「脱炭素アドバイザーベーシック」やカードゲーム「2050カーボンニュートラル」公認ファシリテーターの資格を取得しました。現在はカーボンニュートラル等の脱炭素経営について企業にアドバイスしたりしています。また、サスティナビリティの中心課題として企業の人的資本やそれらの情報開示が脚光を浴びてきたため、人的資本経営スペシャリストという資格も取りました。

企業は情報開示も求められます。環境に良い取り組みを行っても社会に情報をうまく提供できていないケースがあります。取り組みをストーリーとしてどう伝えるか、就活中の学生さんにも貴重な情報ですね。これからの企業は、自社のパーパス(存在意義)の発信が重要です。まず初めに企業パーパスがあり、その実現に向けてSDGsの活動があると考えて助言しています。

カードゲームについて

 ――SDGsカードゲームとはどのようなものですか?

カードゲーム「2030 SDGs de 地方創生」はSDGsの17の目標を達成するために、人口減少社会におけるまちづくりを題材に、現在から2030年までの道のりを疑似体験するゲームです。なぜSDGsが私たちの世界に必要なのか、どんな変化や可能性があるのかについて体感的に理解できます。ゲームを通して考える力が身に付いた、どのような連携が必要か深く考えたといった感想も寄せられます。あまり話したことのない同僚と話すことで社内の人間関係が良くなり、その結果生産効率が上がったという声もありました。SDGs17番、パートナーシップマインドの醸成になっているわけです。
中学校や高校に招かれてカードゲームを実施することもあります。ゲームを通してSDGsの意義を感じてくれることがわかります。そして、私たちの住む町がこうなってほしいな、将来はこのような企業で働いてみたいなとイメージしてくれる子もいます。カードゲームは子どもたちの創造性を伸ばすツールともいえそうです。現実の世界でも気候変動の影響が危機として迫っている状況もあり最近は、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の実施依頼が増えています

――さまざまなカードゲームのファシリテーター資格をお持ちと伺いました。

カードゲームは資格がないと実施できません。ファシリテーターになるには、まず体験会に参加することが必要です。次に各カードゲーム事務局が運営するファシリテーター養成講座(有料です)に参加して、認定証を取得すれば、ゲーム開催の資格を得られます。

経歴

 ――これまでの経歴は?

山形で生まれ育ち、高校卒業後は地元の企業に就職しました。半導体の製造に携わりましたが、当時は自分が作る製品が何に使われ、どのように役に立つのかまったく分からないままはたらいていました。そのうち自分は今後どのように社会で生きていくべきか考えるようになり、営業の仕事をやりたいと考えるようになりました。

ちょうど本社が仙台に営業所を立ち上げるタイミングだったため、そこでの営業職を希望し仙台に赴任しました。東北6県の営業をするのですが、当時から先進的な企業がサスティナビリティの動きを進めていることを知りました。それらの活動を見るうち、今後あるべき社会の姿を勉強したいと思うようになりました。その後工場に戻り、幸いにして環境管理の仕事に就くことができました。当時、工場の環境管理ではISO14000規格が主流でした。そこでその一歩先、社会の要請に応えていく経営CSR*にたどり着き、第1回CSR検定を受験しました。その後東京と山形を行き来していたのですが、最終的には山形で自分の思いを実現するために起業し、現在に至ります。  *CSR(corporate social responsibility) 企業の社会的責任。収益を上げ法令を遵守するだけでなく、人権に配慮した適正な雇用・労働条件、消費者への適切な対応、環境問題への配慮、地域社会への貢献を行うなど、企業が市民として果たすべき責任のこと。

今後取り組みたいこと

――今後取り組みたいことについてお尋ねします

地方では今後人口も減少し、中小企業の経営も大変になります。中小企業の取引先となる上場企業からSDGsなどサスティナビリティに関する要求が当然のように向けられてきます。カーボンニュートラル、ビジネスと人権、生物多様性などです。中小企業もこうしたサプライチェーンの要求に組み込まれるのは必然です。東北の中小企業経営者のみなさんも、SDGsってわからないとは言っていられない状況がすぐそこまで来ています。もはや脱炭素やカーボンニュートラルは、環境問題ではなく経済問題です。

これらの問題にしっかり取り組んでいない自治体は、大企業から相手にされなくなっていくでしょう。工場誘致も進まなくなるということです。もう一つは情報開示です。せっかくSDGsにしっかり取り組み、よりよいまちづくりに努めていても、情報を適切に伝えていかないと、高い評価は得られません。この点についてもお手伝いしたいです。


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この記事を書いた人

探究百科GATEWAYの編集部です。高校生の「探究」に役立つ情報や探究分野の解説、探究の方法について発信します。

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