
石巻専修大学の人間教育学科教授の新福(しんぷく)悦郎先生は、小学校や中学校・高等学校、幼稚園の先生、保育士を目指す学生たちに向けて防災教育を行っています。東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市にある石巻専修大学で、震災からの教訓をどのように伝えているのか。探究を進める高校生に対するアドバイスとともに、お話を伺いました。
将来教育に関わる学生が防災を学ぶ意味
もともとは鹿児島県で中学校の社会科の先生を28年間していました。研究をするのはもともと好きで、教員をしながら学会に所属をし、毎年のように研究発表もしていました。サッカー部の顧問でしたが、部活の試合の合間に研究論文を直しているような、そんな生活を送っていました。
より深く研究をしたいと思っていたのですが、当時鹿児島大学の教育学部にいらした先生との出会いがきっかけで研究者の道に進み、縁あって2014年からは石巻専修大学に勤めています。人間学部人間教育学科に籍を置き、小学校教員や中学校・高等学校教員、幼稚園の先生、保育士を目指す学生たちの指導をしています。
現在私が研究している分野の1つが防災教育です。2011年の東日本大震災による津波で石巻市は大きな被害を受けました。数多くの子どもたちが亡くなった大川小学校など、震災の教訓を伝える場所もたくさんあります。震災から15年が経ちました。現在教えている学生は震災を経験しているものの、幼少期の体験だったため当時の記憶があまり残っていないようです。震災から時間が経過した今、震災の教訓をどう伝えるかが課題だと考えています。
私が教えている学生たちは将来小学校や中学校・高校、幼稚園・保育所の先生となり、子供たちに防災を伝えていく立場になります。これから先生になる人に防災について考える機会をつくるということは、後世に震災の教訓を残すことにつながります。私のゼミでは、震災遺構となった小学校へのフィールドワークも行っています。石巻市の門脇小学校、宮城県山元町の中浜小学校、福島県浪江町の請戸小学校などを訪れ、実際に現地で見て感じた後、文献調査で防災について深めていきます。

客観的な事実をもとに防災を考える
私は防災について考える教材の1つとして裁判の判決文を使っています。石巻市の大川小学校では津波で児童と教職員あわせて84人が亡くなりました。ここでは子どもを亡くした遺族たちが起こした裁判があります(2019年に判決が確定しました)。この裁判の判決文から一部を抜き出して授業で利用します。なぜ「裁判の判決文」を題材にするかというと、裁判の判決文には、いつ、どこで、何があったという客観的な事実や裁判所の判断が書かれているからです。書き手の主観が入る手記や体験談のような読み物とは違う書き方です。客観的な事実から考えた方が、防災教育の上で効果的だと考え、題材としているのです。
次に判決文を読んだ学生たちにこう問いかけます。「もしあなたがこの時先生だったらどうしますか?」。学生たちに想像・シミュレーションしてもらうわけです。そこにあるのは客観的な事実だけですから、学生は「自分だったらどうするか」というシミュレーションがしやすくなります。そして学生同士でグループになり、議論の時間を取ります。この議論がとても大事です。自分だったらどんな風に、どう行動するかという考えを学生同士で共有します。
そして学生たちはこの「裁判の判決文」を読み、災害の背景を理解した上で大川小学校を訪問します。大川小学校は震災遺構として残されており、ここでフィールドワークを行い、津波で娘さんを亡くしたご遺族のお話を聞きます。中には心を打たれ涙ぐむ学生もいます。
この授業を受講した学生たちのアンケートからは、いのちの大切さを学び、子供たちの安全を守る教師の責任を痛感したこと、そして教師として震災の教訓を後世に伝えていくという決意を持つようになったことが読み取れました。この授業は2015年から10年以上、毎年続けています。震災の教訓を後世に伝えていくためには続けることが大切です。そして実際の場所、フィールドが近くにあることは、石巻の大学で防災を学ぶ価値だと考えています。

現在、教員を目指す学生は教職課程の授業で防災教育を含めた「学校安全」について学びます。教職課程の授業に学校安全が位置づけられたのは東日本大震災を受けて、2019年からです。教員養成における防災教育はまだ始まったばかりであり、私たちが研究している教材をそのような場面で活用できないかと考えています。
今後研究していきたいのは学校安全と裁判についてです。先ほど災害と学校に関連した裁判を取り上げましたが、いじめ問題や部活動における事故など、学校内の安全にかかわる分野でも裁判が起こっています。学校安全に関する課題に現場の先生がしっかりと対応できるようにしていきたいと考えています。
専門用語では「安全配慮義務」というのですが、この「安全配慮義務」に関する裁判で学校に関わることを調べています。現在から約25年前までの裁判、3000件の判決を1つ1つ見て、そこから学生向けの教材になりうるものを探しています。
もともと研究していたのは、学校におけるいじめや人権の問題でした。実は教員5年目に担任していたクラスでいじめの問題が起き、何も対応できなかった経験があります。そこから「いじめ問題に対応できる教員になろう」と志し、いじめ問題に関する訴訟の判決文を子供たち向けの教材にする研究を行っていました。そして石巻専修大学赴任のタイミングで、自然災害に関する訴訟の判決文を教材にする研究を始めました。

震災を後世に伝えていくために
先日、東京都の高校で講演する機会がありました。震災から15年経っていますので今の高校生は震災当時の記憶がありません。東日本大震災の被害、中でも石巻市の被害を説明し、大川小学校の出来事についても伝えました。
映像を交えて石巻のことを伝えたのですが高校生の皆さんはとても関心を持って聞いてくれて嬉しい限りでした。ぜひこういった機会を増やしていきたいと思います。
時間が経つにつれて、震災の経験を語れる人も少なくなってしまいます。80年前の戦争体験を語れる方が少なくなっているように、東日本大震災を実際に体験した人たちも今後少なくなっていきます。その中でいかにして震災の教訓を歌えていくかが課題になっていきます。
私が研究している裁判の判例もその1つで、大川小学校の裁判記録は「特別保存」に認定され、永久保存されることになりました。客観的で詳細な記録を後世に残すことができることは大きな意義があると感じています。
大川小学校では、遺族から学んだ大学生たちが、語り部として活動しています。若い世代にどのように引き継いでいくかという視点はとても大切です。震災の経験をどのように伝承していくのかについて、私も今後研究していきたいと考えています。
高校生への探究活動へのアドバイス:地歴・公民科の教科書を見てみよう
ぜひ「地歴・公民科の教科書」を見てみてください。教科書を見て気になったキーワードを膨らませて考えてみると探究のヒントになると思います。特に「公共」の教科書にはたくさんのヒントが書かれています。例えば「子どもの権利条約」、「こども基本法」のように、自分たちに関わるようなテーマもあります。最近は校則をテーマに探究を進めている高校生もいると聞いています。自分たちの権利という身近な問題からも探究のテーマが広がっていくと思います。
また、もともと社会科の教員をしていましたので、社会科教員を目指す学生さんに教える機会は石巻専修大学以外の大学でもあります。そこでは社会科は教科書の内容を伝えるのではなく、「世の中のことを伝える科目ですよ」と伝えています。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)
写真提供=新福先生
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