出産前後の母親と子どもをサポート

出産前後の母親をサポートする「株式会社キューテスト」の中原絵梨香さん。ご自身の出産や子育ての経験をもとに現状を変えたいと自ら会社を立ち上げ活動されています。赤ちゃんへのサポートや母親の「産後ケア」に興味がある皆さん必見の内容です。

目次

自身の経験を通して

自分が出産前後の母親のサポートに取り組もうと思ったきっかけは、自分自身が出産した前後の経験です。出産前は「つわり」や頭痛がひどく、ご飯をほとんど食べられない状態でした。出産の時も大量の出血があり、10時間ほどかかりました。体力には自信がある方でしたが感じたことがない疲労感を感じていました。

出産後はおむつ替えや授乳を朝も夜も関係なく行わないといけず、まとまった睡眠時間が取れない日々が1年くらいは続きました。

出産後子育てをしたのが、宮城県の中でも人口が少ないところで、出産後にサポートをしてもらえる場所がなかったのです。

夫の会社は男性が育児休暇を取得する制度がありましたが、実際に取得した例は少なく、結局育児休暇は取得しませんでした。家事や育児はほとんど私が一人で担っていました。

出産は交通事故で全治数か月のけがを負うのと同じダメージと言われています。出血もありますし、子宮が元の状態に戻るまで3週間くらいかかります。傷はないのですが、目に見えない傷を負っているような状態です。また、ホルモンバランスが崩れ、心理的にも不安定な状態が続くと言われています。「産後うつ」を発症する人は、コロナ禍で母親の4人に1人という研究もあり深刻な課題だと考えています。

また、子どもを保育所・幼稚園に入れることができれば、園のサポートを受けることができますが、産んでから保育所・幼稚園に入れる前の母親へのサポートはほとんどなく、夫婦の両親などに頼むしかないのが現状です。私も夫のご両親のサポートがあって産後を過ごすことができました。

このように、心身ともに疲れている出産前後の母親なのに、サポートがなかなかないのが現状です。この現状は変える必要がある、と思い、自分で解決に向けて行動してみようと思いました。

地方への移住のために

まずは保育やお料理に関連する資格を取得しました。通信教育や本を読んで、科学的な根拠のある正しい子育ての知識や食の知識を学びました。何となく、「私が産後に一番困ったことは子育ての仕方がわからないのに気軽に相談できる環境がなかったのと、家事の負担が大きかったことだな」と思っていたので、その課題を解決するために勉強を始めました。

次に友人が出産するたびに家に訪問して、お料理を作らせてもらいました。学んだ知識を活かして、産後の体の回復に良い野菜中心の和食料理を振る舞いました。また、子育ての悩みにも積極的に寄り添い、お母さんがどんなことに困っているかを調べました。ベビーシッタのーサイトに登録し、少しずつお仕事としても依頼を受けるようになりました。

その後2021年に当時勤めていた会社を退職して、自分で「株式会社キューテスト」という会社を立ち上げました。妊娠中から小学校に入学するまでのママと子供をサポートしています。

私は、生後0か月の赤ちゃんを育てるママもサポートしています。ご自宅に訪問して料理を作ったり、赤ちゃんの遊び相手をしたり、家事の手伝いをしています。実際母親からは「コロナ禍で出歩けなかったので、家に誰かが来てしゃべれるのが楽しい」というお声を頂いています。

生まれたばかりの赤ちゃんは保育所や幼稚園では預かってもらえないので、実は生後0か月~4か月の赤ちゃんを持つ母親へのサポートは非常に重要だと考えています。

実は、地方への「移住」を考えるときにも出産前後のサポートがとても大切だと考えています。例えば地方で出産しようとする場合、都会と比較すると近くに産婦人科などの病院はありません。そうなると、妊婦さんや将来子どもを産みたいと思っている方は移住に前向きになれないかもしれない。

さらに逆に言えば、出産前後のサポートが充実している地域があれば、そこで子どもを産みたい、子育てをしたいと思う方も増えていくと思います。これはその地域に住んでいる方も一緒で、出産前後のサポートがあれば、その地域から別の地域に人口が流出しなくなる可能性もあります。

家庭を支えるツールを作る

自分が住んでいる宮城県は1人の女性が一生に産む子供の数を示す「合計特殊出生率」が都道府県別に比較した時に2年連続で全国ワースト2位。子育ての環境は今後もどんどん改善していかないといけないと思っています。

今後は、母親の体と心の状態がわかるようなアプリを作っていきたいと思っており、大学との共同で開発を進めています。例えば心拍数や心電図が取れるバンドを開発して、ストレス状態を測定することを考えています。出産後の女性がバンドをつければ、「産後うつ」の早期発見ができる仕組みです。これを誰でも使える状態にすれば、うつや虐待の赤信号を発見できるのではないかと考えています。

例えば父親・母親両方が疲れているとなれば、家事代行を頼んでみようか、この商品をネットで買ってみようか、などの行動を選択できるようになってもいいと思っています。アプリをきっかけに、家庭の課題について一緒に考えられたり、夫婦でコミュニケーションが取れたりするようなツールにできないかなと考えています。

みなさんにとっても、「子育て」ということは身近に考えられることだと思っています。おそらく、お父さん、お母さんは大変な思いをしてみなさんを育てたと思っています。ぜひお父さん、お母さんに自分を育てた時の思いを聞いてみてください。

おすすめの本
川口加奈「14歳で“おっちゃん”」と出会ってから、15年考え続けてやっと見つけた「働く意味」(ダイヤモンド社)

14歳でホームレス問題に出会い、生活困窮者の方の支援を15年間継続してきた筆者の体験談。「高校生にとっても読みやすい文章で、社会の課題と向き合うことがどういうことかわかる」と中原さん。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真提供=中原さん

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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