海外に日本の地域の魅力を伝える

海外向けに日本の地方の魅力を発信するYoutuber、櫻井亮太郎さん。櫻井さんのYoutubeチャンネルには13万人もの方が登録しています。櫻井さんは仙台市のご出身。高校からアメリカの高校に通い、現在は日本の地方の魅力を海外に発信している櫻井さんの物語をお届けします。前編では、櫻井さんがなぜ高校から海外に行き、日本に戻ってきたのか、そのヒストリーに迫りました。

目次

高校からアメリカへ

私は仙台市出身で、中学卒業後に単身アメリカに渡り、高校から海外で過ごしてきました。そのきっかけになったのが、中学2年生の時、家の近くに住んでいたポーランド人の同い年の女の子と知り合ったことでした。その子と英語でお話をしていると、英語で話すことが楽しくなりました。

それから、アメリカの高校を舞台にした映画を見るとすごく「かっこいいな」と思えたんですよね。広いカフェテリア(食堂)があり、アメリカン・フットボールのチームがあり、高校対抗戦があり、チアリーダーがそれを応援しているという世界を華やかに感じました。

逆に日本の中学校に通いながらコンプレックスのようなものも抱えていました。中学生の当時、クラスの人気者はお兄さんやお姉さんがいた人。そういう人が音楽とかファッションとか、流行やトレンドのものを持ち込んで人気者になっていた。私は長男だったこともあり流行の情報も持っておらず、なかなかクラスの人気者にはなれませんでした。

当時、英語は好きでしたが、ものすごく話せるわけではなくて、「英語が得意」くらい。それでも何か「壁」を破りたくて、アメリカに行くことを決めて、1989年からアメリカの高校に通いました。最初は全くついていくことができませんでした。授業もわからないし、テストなんかは、問題の意味から全く分からない。でも逆に数学なんかは日本の教育の方がしっかりしていて自分の方ができたりもする。そうしていると、徐々に溶け込むことができました。

アメリカは16歳から車の運転が許されているので、高校の最後は自分で車を運転して学校に通っていました。こういう風になりたい、ということをあきらめず、「どうなればできるんだろう」と考えていたからこそできたことなのかもしれません。

日本に帰ることを決断

そこからイギリス・ロンドンの大学に行き、ドイツ、オーストラリアで仕事をしてきました。日本に帰ろうかなと思ったのは、オーストラリアにいた時。高校で日本を飛び出してから数えてちょうど10年になるタイミングでもありました。

そこで、     「あ、自分は日本人ではなくなっている」と気づいたんです。

当時、インターネットは今のように普及しておらず、海外にいた私は日本の情報がわからず、浦島太郎状態。日本の情報はシドニーに合った日本人向けのフリーペーパーくらいでしか手に入りませんでした。

逆に、海外の常識が当たり前になっていきました。例えば、LGBTQのようなジェンダーのこと、動物性の食品を使わないビーガン料理といった食文化のことは海外ではよく知られていたので、自分の中で当たり前になっていきました。

しかし、日本ではまだまだ一般的ではなく、たまに日本に帰ってそのことを日本人に話すと驚かれたのです。そういうところからも、徐々に私自身が海外の文化に寛容になり、欧米化していることに気づきました。そう気づいてしまうと、何か自分が「ニセモノの日本人」のように思えてしまいました。だからこそ自分自身が「日本人である」ということの確認をしたかったのです。そこで、日本に戻ることを決め、1999年に日本に戻って。東京の金融機関に勤めました。

故郷の仙台で起業

今の仕事につながるきっかけは、このころです。当時、東京に住んでいましたが、自分の車を地元の仙台に置いていて、1か月に1回くらい帰って、その車を運転して東北の各地を回ってみたのです。オープンカーだったので自然を感じながら、色々な場所を回りました。蔵王の樹氷、弘前の桜、福島・大内宿でねぎ一本で食べる「ねぎそば」…東北各地を旅しながら、東北の自然や食にものすごく可能性を感じました。私は海外33か国に行ったことがありますが、「世界と勝負できる」と確信したのです。

こんな素敵な地方に身を置きたい、と思い、2006年、32歳の時に故郷の仙台で起業して「株式会社ライフブリッジ」を立ち上げました。そして日本の良さ、特に東北地方のすばらしさを海外に伝えるために活動を続けてきました。

日本の地方の魅力を伝える

日本の地方には魅力があふれていると思います。自然の豊かさもそうですし、日本は各地域独自の食文化があります。例えば香川県ならうどん、宮城なら牛タン。でも海外の人は「寿司」や「天ぷら」はよく知っていますが、それ以外の食文化についてはなかなか知りません。ですので、我々がYoutubeで英語を使って発信することでどんどん地方の食の魅力を発信していきたいと思います。

例えば、「Sendai」とYoutubeで検索してみてください。すると一番上に来るのは、私たちがプロデュースした動画です。海外の人もYoutubeで情報を集めているので、私たちが作った動画がガイドブックになることを目指しています。この動画では仙台牛や牛タン、塩釜のマグロといった名物をご紹介。松島の寺院も「まるで京都のような庭園が楽しめる」と紹介しています。

(2022年3月20日のYoutube。櫻井さんがプロデュースする「Abroad in Japan」のチャンネルの動画がトップになっている)

自然の豊かさも、地方の素晴らしい魅力です。例えば、東北でいうと、青森は海外の方が好む観光資源がたくさんあると思います。青森県の十和田市にある「奥入瀬渓流」を紹介した動画には、森林の豊かさや川のせせらぎについて海外の方から「amazing!(素晴らしい!)」という反響がありました。十和田市には現代美術館もありますし、素敵な宿泊施設があるのもポイントですね。いい宿泊施設があれば、外国人の方が地域に滞在する時間を増やすことができます。

旅にはテーマが大切です。例えば、山形蔵王で「無音という音を楽しむ」という旅を企画しました。16時半ごろまではスキー場のリフトが動いているので、音がしています。しかし16時半を過ぎれば、リフトが止まり音が全く聞こえなくなります。本当に静かな雪原で、樹氷を楽しむことができるのです。

日本の文化を海外に伝えるコツ

日本の文化を海外に伝えるときのコツがあります。

それは、「海外にもある文化」なんだけど、海外と日本でスタイルが違うものがウケると思います。そういう文化を動画で取り上げると、「うちはこうなんだよ」という風に言いたくなる。
実際そういう動画はコメントが多いです。コメントはその人の心が動かないとコメントしない。私は視聴数よりも、見た人のうちどれくらいの人がコメントしてくれたか?を重視しています。例えば「日本の死生観」を取り上げた動画ですが海外の方からは「うちの国の文化とはここが似ている、ここが違うね」という反響がありました。

・日本の死生観について取り上げた動画「What DYING in Japan is Like | Japanese Funerals 101」(音声が出ます)

他にも「日本にも海外にもあるカルチャー」の動画の反響は大きいです。「選挙」のドキュメンタリーや「クリスマスに何を食べるか」などにもたくさんのコメントがつきました。

それから、2011年の東日本大震災も世界中だれもが知る出来事です。「What Happened In Japan After The Tsunami?」というタイトルで制作した東日本大震災後の被災地の様子を取り上げたドキュメンタリーについても海外からとても反響がありました。4年前の2018年に公開したのですが、今もコメントが次々に寄せられていますし、動画を見て被災地を訪れた方もいらっしゃいます。

「外国人」と言っても色々な国の方、年代の方がいらっしゃいます。なので、Youtubeを見ている相手のことは常に考えています。例えば、私のYoutubeチャンネルは、20代~30代、欧米で英語を話している男性がよく見ています。だから「20代~30代の英語を話す男性が見たいものって何だろうか」という視点は常に持っており、「誰に向けてその動画を作っているか?」は常に考えています。

「他にはないコンテンツ」を伝える

今は動画だけではなく、地域のツアー作りなども行っていて、例えば栃木県の「岩船山」という場所で「爆破体験」ができるツアーをやっています。特撮の戦隊ヒーローものの番組で見る、あの爆破です。↓の動画を見ればイメージが湧くと思います。

実はアメリカにも「パワーレンジャー」という戦隊ものの番組があり、アメリカ人の男性も戦隊ものや爆破が大好き。海外の方向けにツアーを作りましたが、先に日本国内で話題になりました。小さいころに戦隊ものを見ていた男性にはものすごくウケました。

これは栃木県栃木市というところでやっています。皆さんも行ったことはないと思います。そういうなかなか知られていないところにわざわざお金をかけて来たいと思える人を呼び込むためには、「他にはないコンテンツ」があることが必要。お弁当で例えると「「牛肉弁当」、「牛タン弁当」のように、「これを食べてみてね」という打ち出し方が大事だと考えています。幕の内弁当」みたいに「なんでもあり」ではうまく行かないと思います。

地域の魅力は探してみるとたくさん見つかります。例えば私は先日岩手県で「手紙でしか予約が取れない宿」というお宿にも出会いました。そう聞くと、行ってみたくなりますよね?高校生の皆さんも自分に住む地域を調べてみて、「これって他にないんじゃない?」という視点で魅力を探して、発信してみてください。

おすすめの本
落合信彦「狼たちへの伝言」(集英社)

櫻井さんが海外に行くきっかけとなった一冊。国際ジャーナリストとして世界を巡った落合さんが日本の若者に向けて綴った一冊。「海外に行こうと思うモチベーションになった」と櫻井さん。落合信彦さんはアーティスト・研究者として活躍する落合陽一さんの父。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

写真・動画提供:櫻井さん

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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