
宮城県名取市出身のフリーイラストレーターであるico.(イコ)さんは、イラストの仕事の傍ら防災教育に関わるとともに、オンラインチャリティーショップ、molico(モリコ)を運営し、オリジナルグッズの売上金の一部を団体に寄付する活動を行っています。イラストを通じ、自分なりにできることを探し続けているico.さんのストーリーをご覧ください。
2度の被災体験を経て、「防災」を伝える
私は「ico.」名義で活動している福島市在住のフリーイラストレーターです。企業広告や観光・イベントについての企業広告、商品パッケージなど、福島県内を中心に様々なイラストを提供しています。

加えて、力を入れているのが「防災」をテーマにした活動やイラスト作りです。私は宮城県名取市の出身で、会社務めを経て、2011年にフリーランスに転身しました。その後すぐに東日本大震災で被災し、自宅兼アトリエを津波に流されました。その後東京暮らしを経て、福島県福島市で暮らしていたのですが、ここでも2019年の東日本台風で、再び自宅が浸水するという経験をしました。

私は東日本大震災に関するイラストのお仕事もたくさんしてきました。2度の被災の経験や「あのときこうしておけばよかった」という後悔を、多くの人に伝えていきたいと思ったのです。これは、当事者のイラストレーターである私にしかできないことだと感じ、2022年5月に福島市で「腰抜かしてる場合じゃない イラストレーターico.企画展」という防災に関する企画展を開催しました。防災に興味がない人にも気軽にみてもらえたらいいな、という思いで企画し、私自身が2019年の東日本台風で被災した体験や、3.11で被災した女性の体験談を以前仕事で4コマ漫画にして描かせて頂いていたので、そちらを展示しました。

その企画展で、自分自身が被災体験を話す機会があったのですが、話す中で「自分が取った行動は本当に正しかったのかな」と疑うようになりました。自分の発信で誰かが行動する可能性があるなら、きちんと知識に基づいたことを伝えたい、そう思って、ちょうど2週間後に実施される予定だった防災士の試験を受けることを決め、2週間勉強して防災士の資格を取りました。
防災士の資格を取ったことで、災害時の基礎知識を語れたり、イラストに反映できるようになりました。自分のリアルな体験と知識を併せて、被災した時に何が必要になるのかなど、災害をより高い解像度で伝えられるよう意識しています。

防災に関する情報というのは世の中にたくさんありますし、みなさんもテレビで避難に関する情報などを目にしたことはあると思います。ただ防災に関する情報は少しわかりにくいところもあると感じていて、それをわかりやすくするのがイラストの役目だと考えています。また、イラストだからこそできる伝え方もあります。文字だけの説明だと難しく感じてしまうことでも、イラストにすることで、理解するハードルが少しだけ下がる。防災を自分ごとにするための入口をつくることが、自分の役割だと思っています。
「イラスト×防災」を仕事に
企画展の後は防災に関するお仕事をいただくことが増えました。2024年には福島県の防災アプリのチラシや、環境省委託事業の放射線防災ガイドブック、福島市の市政だよりに「被災シミュレーションもしもすごろく」というイラストを載せていただいたこともありました。これはもともと2022年の企画展のために制作したものです。災害が起こった時にどんな行動をするべきかをすごろく風にまとめたイラストで、「駅前のカフェでランチ中に大地震が起こったら」ということをテーマにしました。

2025年には「はなちゃんとひなんくんれん」という絵本を河北新報出版センターさんから出版しました。絵本を作りたかった理由は、私自身娘に読み聞かせをする機会が多く、絵本なら多くの方に防災を考えるきっかけを届けられると考えたからです。

娘が通う保育園でも避難訓練をしていたことが題材を考えるヒントにもなりました。この本は保育園や図書館に寄贈させてもらっています。今後は、台風や津波など具体的な災害の時の対処法に関する絵本も書いてみたいなと思っています。
またイラストに限らず、子どもたち向けのイベントや学生向けの講話を依頼されることも増えてきました。ここでは講話に加えて、ワークショップも行っています。普段から持ち歩ける防災ポーチの中身を一緒に考えたり、外出先で被災した場合をシミュレーションしたり。参加してくれた人が、自分の生活に引き寄せて考えられるような内容にするよう意識しています。自分にしかできない伝え方で、誰かの行動が少しでも変わるきっかけになったら嬉しいです。

チャリティーショップ「molico(モリコ)」の試み
これまでには、イラストの売上の一部を被災地支援や子どもたちの支援をしている団体に寄付するという活動も行ってきました。最初は地元・名取市で活動していた、「海岸林再生プロジェクト」への寄付がスタートでした。
これは東日本大震災で流失した宮城県名取市沿岸の海岸林を再生させるべく、地元の農業従事者と公益財団法人オイスカで立ち上げた植樹プロジェクトです。震災後に東京で暮らしていた時に活動を知り、いてもたってもいられず事務局に連絡して「何か手伝いたい!」と、頼み込みました。
実際に名取市の現場を訪れ自分がイラストレーターであることを告げると、「じゃあイラストのお仕事をお願いしようかな」と、依頼を頂けることになりました。それからはプロジェクトのパンフレットやチラシを作るようになって、東京で暮らしながら地元名取市の復興に関わることができました。
そこから「どうやってイラストで、地元の復興に貢献できるかな?」と私なりのやり方を考え、2018年にオンラインチャリティーショップ「molico(モリコ)」をオープン。ここでしか買えないオリジナルグッズやイラストを販売し、売り上げの一部を海岸林再生プロジェクトさんに寄付する活動をはじめました。商品の裏面や同封のチラシで寄付先の団体の活動を紹介することで、グッズを買ってくださった方に団体の活動を伝えています。

海岸林再生プロジェクトでは、2021年3月の震災10年を期に寄付金の受け入れが終了となったため、新しい寄付先を探すことになったのですが、既に福島市に転入していたので、福島市内の団体から選ぶことに。そして2021年3月からは、子どもや若者の支援団体である特定非営利法人ビーンズふくしま※ に寄付先を決定しました。
※ 特定非営利活動法人ビーンズふくしま:貧困、不登校や引きこもり、震災による避難などの状況にいる子どもと若者に、フリースクールや心の相談室、学習・就労支援などの支援活動をしている福島市の団体。
2021年12月に、ビーンズふくしまに初めて寄付金を贈呈したのですが、2022年3月の卒業・入学祝いに、子どもたちに定期入れや名刺入れをプレゼントしたとご報告をいただきました。自分の寄付がどんなものになったのか、どんな喜ばれ方をしたのかがはっきりとわかり、より子どもたちと直接関わりたい気持ちが強くなっています。
また、2024年1月の能登半島地震の時には、molicoでの売上の全額を寄付することで、復興支援に関わることができました。公募して1週間ほどで20万円以上の額が集まりました。いざという時に人々の、被災者を助けたいという思いが発揮される場所として成り立っていたこと。ここにはmolicoの大きな意義があると感じています。
心地よい居場所を探す
イラストレーターをやっていて強く思うのが、「短所は長所だ」ということ。あらゆるものには裏と表の側面や見方があります。私の場合は、物を売ったり、SNSで発信することは苦手だけど、イラストでメッセージを伝えることだけには自信があります。
デザイナーとして働いていた会社員時代は、組織に馴染めないことは短所だと思っていましたが、そのおかげでフリーランスに挑戦する勇気が出ました。
高校生の皆さんもぜひ、いろんな角度から自分を見つめてみてください。今の時代は、早く深く情報を探すことができます。ひとつの場所で居場所がなくても、環境を変えたり、人を頼ったりして、いろんな視点をもってください。
学校や家庭の中だけが世界の全てではありません。ぜひ、自分にとって心地よい居場所を探してみてください。
(本の情報:国立国会図書館サーチ)
写真提供=ico.さん

