「演劇」で地域のストーリーを掘り起こす

仙台市太白区を中心に、地域を題材にした演劇を制作してきた石垣政裕さん。50年以上演劇に携わり地域の面白い題材を演劇にして多くの市民の方に届けてきました。演劇以外でも父親のネットワークづくりなど人と人とのつながりを作り続けてきた石垣さん。その原動力にある思いを伺いました。

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演劇の魅力

私は高校生から演劇を始めました。今年70歳を迎えるので、50年以上演劇に携わっていることになります。始めた時は特にこれといったきっかけはなく、高校時代は運動部に所属しながら演劇部のお手伝い。その後、手伝ってくれと言われて姉がやっていた市民劇団に入ってみた、という感じです。「演劇」の魅力は「総合芸術」であることだと思います。演技だけでなく衣装や照明、装置と舞台空間をどう劇的に作るかが学べます。

演劇では、演じる側と観客側で一つの空間を一緒に共有することができます。そして、どんな演出をしても、沢山の方が見れば、それぞれ受け取り方が変わっていきます。観客とのコミュニケーションの仕方などを学ぶうちに、演劇にのめり込んでいきました。そして、5年ほど演者をした後に、演劇を演じるよりも、作る方が面白くなり、脚本や演出をするようになりました。特に、「地域」にある面白い題材、例えば地域の歴史やその地域の人物をテーマにした演劇を作ってきました。もう50本くらいは戯曲(演劇のための脚本や物語)を書いてきました。

地域劇を作る

例えば、仙台市の太白区の「長町」という地域にあった「長町青物市場」という市場を題材にした物語を2013年に作りました。長町青物市場が閉場したのが1963年なのでそこから50年を記念してつくった物語です。もともと地元の団体が地域の物語を素材にした紙芝居を作っていて、私もその活動を4年ほど支援していました。これを演劇にしてみようということで市民参画・参加型の演劇を作りました。私たちがつくった演劇を60人を超える市民の方に演じて頂くのです。子どもたちから高齢者の方までが演者として演劇に関わり、当時、長町にあった東日本大震災で被災した方向けの仮設住宅に住んでいた方にも加わって頂きました。

演劇の物語づくりは、まず地域住民の方にお話を伺いながら、市場の歴史をしっかりと調べていくところから始まります。長町青物市場については、地元の団体が紙芝居にしていたこともあってすでに昔を知る人とのつながりがあり、例えば、「昔を語って聞かせてください」という目的で人を集めると、合計60人もの方にお集まりいただきました。また、昔の古い着物や小道具、今では珍しくなった「運搬車」と呼ばれた自転車も提供してくれました。このように、演劇を作り、地域の多くの方を巻き込んでいくことで、市民の方々の気持ちを盛り上げることができました。準備に丸3年、8か月の稽古を経て完成した演劇。2日間の公演には3ステージとも満員の1500人の方が集まってくださいました。

他にも、太白区を舞台に色々な地域劇を市民の方と作ってきました。地域にはたくさん面白いストーリーがあります。例えば、「ベーブルースがやってきた」。これは八木山にあった球場で、アメリカのメジャーリーグのヒーローだったベーブルースがホームランを打ったという歴史をもとにしました。ここに架空のフィクションのストーリーを入れて、八木山でかつて野球をしていた住民が高齢ながら野球団を結成する…のようなストーリーにしました。

また、明治時代に生出村という村を「全国三大模範村」にした初代村長・長尾四郎右衛門や秋保温泉にお客を運ぶ木道軌道馬車のお話など地域のストーリーを次々に演劇にしてきました。

おとうさんのネットワークを作る

 演劇以外にも、父親のネットワークづくりにも取り組んできました。子供が小学校に入学したとき、PTA役員を担当しました。しかし、PTAの役員さんには母親の方が多く、授業参観でも父親で参観しているのは私くらいでした。父親が気軽に学校の活動に参加できる仕組みを作りたいと考えていました。

例えば小学校にテントを張って泊まれる企画や、電車を活用した「ミステリー・トレイン」、学校で「お母さんにゴマをする会」と称して、母親にイタリアン料理をふるまう「お父さんのいた飯屋」を企画しました。これはもちろん大好評でした。もちろん、演劇の要素も取り入れました。

その後、小・中学区や町内会単位で「おやじの会」など父親のネットワークがどんどん作られていきました。その「おやじの会」のネットワークづくりに取り組んでいて、これも25年くらいやっています。25年前は4団体くらいしかなかったものが現段階では100を超えています。

人と人とのつながりを作ると、人と会える嬉しさや生きていく楽しさにつながります。

ネットワークづくりに取り組む理由

本業は、大学の研究者でした。特に工学が専門で、インターネットの初期から、インターネットを通したネットワークの研究をしていきました。バーチャルのネットワークの研究をしていた反面、つながりはこれだけではない、という気持ちがありました。そこで、リアルでの人と人がつながる仕組みをずっと作ってきました。

私が作っていきたいのが、「やわらかいつながり」。「ゆるいつながり」という言葉がありますが、「ゆるい」とほどけてしまいます。「やわらかい」であれば、形を変えながらもつながりは切れないですし、どんな隙間にも入っていけるのです。

自分だけの価値を見つける

今年70歳になりますが、人と一緒に何かをやるたびに心が動かされ、これが自分の活力になります。これだけネットワークを作ってしまうと、なかなかやめられないということもありますが、みんなで何かをやる楽しさは格別です。

地域を題材にした演劇もまだまだ作り続けていきたいと考えています。2021年に100周年を迎えた岩手県遠野市の幼稚園を舞台に、尚絅学院創立130周年記念創作劇の台本を執筆しました。その幼稚園は尚絅学院大学の初代校長だったブゼル先生が設立しました。この主人公が、どんな風に地域の人達と関わり、どうやって幼稚園を作ったのか。それを深掘りするために実際に遠野に足を運びました。地元の蕎麦屋さんと仲良くなり、地元の方と一緒に朝のラジオ体操に参加したりして交流を深めてきました。そうやって現地に足を運んで作り上げた公演は、大盛況のうちに終わりました。

今も、高校のハンドボール部のコーチも務めています。みなさんへ伝えたいこととしては、地域にとって、高校生が果たす役割は大きいということです。演劇でも、「お父さんのネットワーク」でも多くの高校生が活躍しています。みなさんがいるだけで、地域は元気になります。ぜひ自分だけの価値を見つけてください。

おすすめの本
ウルフ・スタルク「ガイコツになりたかったぼく」(小峰書店)

心がゆり動かされる、読みやすい短編二編。『ガイコツになりたかったぼく』では、空想が私たちにとってとても大切なことだと教えてくれるし、『スカートの短いお姉さん』では、本というのは「いちばん純粋な心の血でもって書かれているものなのよ」と教えてくれる。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)

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この記事を書いた人

東京大学教育学部卒業後、全国紙の新聞記者として広島総局・姫路支局に勤務し事件事故、高校野球、教育、選挙など幅広い分野を取材。民間企業を経て、2021年に株式会社オーナーを起業し、本教材「探究百科GATEWAY」を開発し編集長を務める。

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