「ずっと好きだったお菓子づくりを仕事に」

岩手県奥州市出身で、東京の専門学校や和菓子屋さんでお菓子づくりを学んだ後、自宅に工房をつくり焼き菓子を製造・販売する「mum」を立ち上げた菊地千夏さん。幼い頃から好きだったお菓子づくりに対しての想いや好きなことを仕事にする上で意識していることなどを伺いました。

目次

欠かせないお菓子作りの存在

母が小さい頃からよくお菓子をつくってくれていたので、手作りのお菓子はすごく身近な存在でした。

その影響を私自身が強く受けて、中学生の頃から自分でお菓子をつくって友達に食べてもらうということをよくしていました。もともとはそれを仕事にすることは考えていなかったんですが、意識するようになったきっかけがありました。

それは親戚が営んでいた和菓子屋さんが閉店してしまったことです。すごく美味しいお菓子屋さんだったんですが、なくなってしまうのがもったいないなと感じたのとお店が残ってほしかったなという思いから、お店を継ぐことはできなかったけど、いつか同じようなお店ができるように、自分もお菓子をつくる仕事に就こうと考えるようになりました。

また、その頃はちょうどコンビニで買えるスイーツが増えてきた時期でもあって、大量生産で作られるお菓子もいいけど、やっぱり手作りの美味しさをたくさんの人に知ってほしいなと思って、お菓子づくりを仕事にすることを決めて、高校を卒業した後、和菓子科のある専門学校に進学しました。

学校は、地元を出たいという思いもあって、東京の専門学校に行きました。2年間、学校でお菓子づくりを学んだ後は、東京の和菓子屋さんに就職したんですが、和菓子の世界はすごく厳しかったのを覚えています。

体力が必要になる場面がすごく多くて、女性が働ける環境はすごく少ないんじゃないかなと思いました。なので、最初のお店で1年ちょっと働いた後は、仕事を辞めて、お菓子の仕事から離れることを考えていました。思っていた以上に、和菓子屋さんでの仕事に疲れてしまったんだと思います。

仕事を辞めた後は、地元に帰ってきたんですが、しばらくお菓子づくりから離れていたら、手を動かしたくなってしまって。改めて時間を置いてみると、自分のことを表現するために、お菓子づくりが欠かせないことを強く感じました。お菓子を作っていると、気持ちもすごく落ち着くんですよね。

そこで、地元の和菓子屋さんで働くようになって、お菓子の製造や店舗・カフェでの販売を4年間担当していました。

自分の工房を持って、お菓子を作るようになったのは、2022年4月から。和菓子屋さんで働きながら、自分のお店を持ちたいと考えるようになり、友人や知り合いの人に相談しながら、一歩踏み出してみようと決心がついて、工房を家につくり、独立して焼き菓子の製造や販売を行うようになりました。

「好き」を仕事に

「mum」という屋号で焼き菓子の製造、販売を行っています。洋菓子が中心で、自宅にある工房で作ったお菓子を県内の古道具屋さんやカフェ、アパレル店、レストランに卸して、販売しています。

今は、洋菓子が中心ですが、もともと和菓子を勉強してきたので、いずれは和菓子もつくりながら、日本の四季や情景を取り入れたお菓子づくりをしていきたいなと思っています。

お菓子づくりの仕事をひとりですべて行うのは、大変な部分もありますが、楽しさを一番に感じています。自分の好きなお菓子を作れるので、すごく夢中になれるんですよね。もともと縛られたくない性格だというのもあるので、今のように自分で仕事をする働き方が合っているのかもしれないです。

やっぱり自分が楽しいと思える環境をつくることは、仕事をする上ですごく大切なことだと思います。もちろんひとりで商売をするのは、楽しい事ばかりではないですが、好きなことをしていて精神的に追い詰められてしまうと苦しくなってしまうので、お菓子づくりを好きでい続けるだけの余裕を持つことを意識しながら、仕事をしています。

まだmumを始めてからの時間は浅いですが、これまでお菓子を食べてくれたお客さんからはありがたいお言葉をいただくことが多いです。販売はそれぞれのお店にお願いしているので、直接意見を聞くことは少ないんですが、SNSでメッセージをいただいたり、対面販売をするイベントの時に直接声をかけていただいたりしています。やっぱり反響があるというのはすごく嬉しいので、いずれは店舗を持ちたいなと考えるようになりました。

製造するお菓子だけで私が表現したいことをすべて伝える難しさも感じているので、店舗を持つともっと表現できることが広がっていくのかなと思っています。

また、いずれはオンラインショップでの販売もしていきたいなと考えています。岩手だけでなく、全国の人にmumのお菓子を届けていけるといいですね。

お菓子は基本的に嗜好品で、ご飯に比べると「食べなくてもいいもの」という考え方もあるかもしれません。ですが、お菓子だからこそ味わえる食の楽しみがあったり、おやつの時間が気分を明るくしたりするので、これからもたくさんの人にお菓子を食べてもらえるように、仕事を続けていきたいなと思っています。

気になることには何でも挑戦

とりあえず、気になることは何でもやってみるのがいいと思います。いろいろ挑戦する中で、「これだ」と思えるものに出会えるかもしれないので、やりたいことが見つからない人には少しでも気になることに意識を向けてみてほしいです。きっといろんなことを実践していく中で、たくさん経験を積むことができて、人との関わりも増えていくと思います。

やってみるのは、本当になんでもいいと思うんです。行ってみたいお店に行ってみるとか、気になる人がいたら会ってみるとか。今はSNSなどできれいに編集された写真や動画を目にする機会が多いと思うんですが、やっぱりお店や場所、人は直接対面してこそ感じられるものがあると思います。

そこで何かを自分で感じることがすごく大切だと思うので、「行ってみたい」「やってみたい」などの憧れで済まさずに、ぜひたくさんのことを経験してみてください。

◆おすすめの本
坂田 阿希子・皆川 明「おいしい景色」(スイッチ・パブリッシング)
この本には、洋食を中心にたくさんの料理やお菓子が載っています。それぞれの料理に合う器を使った盛り付けも紹介されていて、その雰囲気がすごくいいんです。活字があまり多くなく読みやすいのも好きなところで、みなさんにもこの料理や器のいい雰囲気を味わってもらえればと思って、おすすめさせていただきました。

(本の情報:国立国会図書館サーチ)


写真提供=菊地さん

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

1994年生まれ。岩手県奥州市出身。2019年4月から企画・執筆・編集を行うフリーランスとして活動。その他、Next Commons Lab遠野ディレクター、日本仕事百貨ローカルライター、インターネットメディア協会事務局などを務める。将来の夢は、奥田民生のように生きること。

目次