守り、繋がる、酒造り。

福島県郡山市で300年以上続く老舗酒蔵「仁井田本家」女将の仁井田真樹さん。「日本の田んぼを守る酒蔵になる」という使命を掲げる「仁井田本家」では、一体どのような取り組みをされているのでしょうか。また、女将として酒蔵を支え続ける仁井田さんの想いも合わせてぜひお読みください。

目次

女将として酒蔵を支える

 私は郡山市出身で、東京にある大学を卒業後に地元郡山へ戻ってきました。そこで主人と出会い、主人の実家が経営する「仁井田本家」に嫁ぐことになりました。元々お酒は好きな方ではありましたが、日本酒を飲む機会や知識はそれほど多くなかったため、女将として酒蔵に携わるのは少し不安でした。毎日新しい体験や学びを積み重ねていくうちに、徐々に酒蔵や日本酒についての知識がついていき、現在は胸を張って女将の仕事を全うすることができています。

◆酒造りで「日本の田んぼを守る」

 「仁井田本家」は福島県郡山市田村町というところにある酒蔵です。1711年の創業から300年以上お酒を造り続け、現在は主人が18代目の当主を継いでいます。そもそも「酒蔵」とは、日本酒を造っている製造所のことを指します。日本酒は米、米麹、水を原料にしてアルコール発酵させたものです。原料がシンプルである故に、日本酒の味を追求するためには原料の質にとことんこだわる必要があるのです。

 私たち「仁井田本家」は、製造している日本酒全てに農薬・化学肥料を使用していない米を使用し、完全オーガニックを強みとしています。全国各地に1,000軒以上ある酒蔵のなかに、製造する全種類の中で数種類のみオーガニック仕様で販売している酒蔵は多少ありますが、私たちのように全種類オーガニックにこだわって製造している酒蔵は全国に数件程度です。私たちは自社で保有・栽培する田んぼのほかに県内に8つ、県外に2つの合計10グループの農家さんと契約栽培も行っており、全て無肥料の自然栽培にこだわって米を育てています。

 また、私たちがオーガニックにこだわっているのは米だけでなく、水も全て天然水のみを使用しています。自社の田んぼ近くの井戸から得られる硬水と自社が保有する山から湧き出る軟水を使用していますが、これらは酒の原料として使用する以外に、洗米やタンクの洗浄にも利用しています。米にも水にも完全オーガニックを徹底し、「自然派ブランド」として味にこだわり続けています。

 私たちがここまでオーガニックに強いこだわりを持っているのは「味」の追求のためだけではありません。私たちは田んぼと水を守り抜きたいのです。現在の日本国内では、「いかに酒を大量に造るか」を考えて製造している酒蔵が多いように感じます。大量に酒を造るためには、大量の米が必要になります。大量の米を育てようとすると、農薬や化学肥料が必要になってしまいます。農薬や化学肥料を使用した栽培を続けていると、土壌の環境は汚染され続け、いつか米を栽培することができない状態になってしまうかもしれません。また、使用する天然水も周りの自然環境が汚染されてしまえば、口にすることができなくなってしまう可能性だってあります。

 このような社会課題を踏まえたうえで、300年以上続く「仁井田本家」の現当主・女将として意識するべきことは、いかに良い環境で次の世代に繋いでいくかということだと思っています。私たちが今、安心安全で美味しい酒を造れているのは、今までの当主たちが必死で環境を守り続けてきてくれたからなのです。この環境を当たり前だと思わず、感謝の気持ちを忘れずに、私たちも次の代へ繋げる使命があると感じています。そして、次の代に引き継いだ後もずっと環境を守り続けながら「仁井田本家」の看板を背負って、美味しい酒を造り続けていってほしい。心からそう願っています。

 また、私は若者の日本酒離れが課題だと考えています。日本酒に関わらず、そもそもお酒を飲まないという若者が増えてきているうえ、日本酒に対して「飲みにくい」「お酒の味が強い」というようにマイナスな印象を持たれることが多いと感じています。そうした現状を変えるためにも若い方々にはぜひ私たちの造った日本酒を飲んで頂き、「日本酒って実はこんなに美味しいんだ」ということを知ってほしいです。日本酒を造り続ける私たちだからこそ、日本酒に対する人気を守り続ける使命も感じています。

 そして、若者に私たちの日本酒を手に取ってもらうために、おしゃれなラベルデザインにもこだわっています。10年ほど前までは、毛筆で商品名が描かれたお堅いイメージのラベルデザインでしたが、2011年の東日本大震災で売上が低迷して以降「このままではいけない」と思い大きく方向転換することにしました。現在は、シンプルで洗練された、おしゃれなデザインで販売をしています。高校生の皆さんが大人になってお酒を飲めるようになったら、ぜひ私たちの日本酒を飲んでみてほしいと思います。

酒造り以外の取り組み

 私たちは、造った酒を販売すること以外にも様々な取り組みを行っています。その中でも特に力を入れているのがイベントの実施。「田んぼのがっこう」、「スイーツデイ」などを実施しています。「田んぼのがっこう」は、酒に使用する米の田植えから稲刈りまでを体験してもらい、季節の巡りを楽しむとともに酒造りや自然について学んでもらうイベントです。小さいお子さんから70代の方まで幅広い年齢層の方にお越しいただいています。みんなで育てた田んぼで、みんなのお酒を造る、楽しいイベントです。

 また、私たちの蔵に地元のパン屋さんやコーヒー屋さんなど、5~6店舗の飲食店を集結させてマルシェを開く「スイーツデイ」というイベントも実施しています。地元の飲食店の商品のほかに、実は私たちが製造しているスイーツも販売しているのです。「酒蔵」と「スイーツ」は一見交わることがない分野のように思えますが、私たちは酒造りで使用できない「形が整っていない米」を麹にして、チョコやラスクなど様々なスイーツも製造しています。味は変わらないのに、形が整っていないだけで廃棄してしまうのは勿体ないという考えから生まれた商品です。酒蔵は、飲酒可能な大人しか楽しめないと思われがちですが、「仁井田本家」は小さいお子さんからご年配の方々まで、老若男女問わず楽しんで頂ける環境を目指しています!

 また、私たちがイベントを実施するのは県内だけではなく、県外で実施することもあります。県外でのイベントを行う際には、酒蔵に残って管理・製造をする必要もあるため、基本は私が1人で県外に出向きます。その際にイベント運営をボランティアでお手伝いして下さる「サポーター」の方々には本当に助けられています。サポーターの方々の多くは「仁井田本家」のリピーターで、県外でイベントを実施する際には率先して足を運んでくださり、お手伝いもしてくださっています。

 このように、私たち「仁井田本家」は地域やサポーターとの繋がりを何より大切にしています。沢山の方々から応援して頂き、支えて頂いているからこそ、「仁井田本家」は300年以上酒を造り続けてくることができています。酒蔵は酒を造ることだけが目的ではありません。私たちの造った酒を通じて、地域や人が繋がる「きっかけ」が生まれることを願い、今後も酒造りに励んでいきたいと思います。

悩んだ先に楽しいことがある

 皆さんは沢山悩むことがあると思います。ただ、悩んだ分だけその先に楽しいことが必ずあるということを覚えておいてください。今は苦しくても、乗り越えた先には必ず明るい未来が待っています。

 そして、選択を急ぎ過ぎずに、一度立ち止まって自分自身を俯瞰してみてください。どうして悩んでいるのか、将来どうなりたいのか、ゆっくり自問自答をし続けた先に、今どうするべきか「答え」が見つかるはずです。皆さんがこれからの人生で、ますますご活躍されることを心から応援しております。頑張ってください!

◆おすすめの本
音楽関連の本
私は幼少期から音楽が好きだったため、現在でも音楽に触れられる機会を大切にしています。音楽に限らず、皆さんの好きな分野の本を読んで、ぜひより多くの魅力に触れてみてほしいと思います。

写真提供=仁井田さん

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この記事を書いた人

地域で挑戦する人や企業を豊かにすることを目的とした福島創業のチーム。 ライターやデザイナー、映像クリエイター、エンジニア等といったプロが集まり、 各々の専門スキルや個性を活かしながら、関わるお客様や地域の資本を豊かにするため活動している。

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