岩手県奥州市水沢にある南部鉄器の老舗・及源鋳造株式会社(以下、OIGEN)で働く、大瀬悠太郎さん。県外や海外に住んだ経験を持ちながら、地元である奥州市に戻ってきて仕事をする大瀬さんがOIGENで働くまでの経緯や今取り組んでいることをご紹介します。
身近なOIGENの存在
OIGENは小さい頃から身近にあった会社。叔母が社長を務めていることもあって、他の家族も働いていたので、会社に入ったのは僕も流れに身を任せたという感覚です。就職するまでは、海外や県外に住んでいたので、地元に戻ってきたいという思いもありました。
高校を卒業してからは、アメリカに1年留学していたんです。高校は進学校だったんですが、周りに合わせて行っていた大学受験に向けた勉強に途中で飽きてしまって。大学に行かないならどんなことをしようかと考えた時に、「これからいろんな人と話ができるように英語を覚えたい」と思い、アメリカに行くことを決めました。
アメリカから帰ってきた後は、英語を活かせる仕事に就けるように、神奈川県にある貿易と英語の専門学校に入りました。その後、自分の興味もあって、アイルランドに1年住み、帰ってきてからOIGENで働き始めました。
それまで勉強してきた英語や貿易の知識を生かしながら働く、という理由で就職をしたんですが、最初は製造の現場や南部鉄器の直売所「ファクトリーショップ」など様々な部署に配属しながら、一連の仕事の流れを経験しました。
変化をたのしむ南部鉄器
僕が働いているOIGENは創業170年になる、南部鉄器の老舗です。「愉しむをたのしむ」をコンセプトに、鉄瓶や鉄フライパン、鉄鍋などの製造や販売を通して、鉄器のある暮らしの愉しさ(たのしさ)を提案しています。
僕はその中で、ウェブサイトでの情報発信やイベントの出店対応、営業、海外からのお客さんの対応を担当しています。
OIGENに入って、南部鉄器に触れながら感じているのは、使っていくうちに変化していく道具への愛着やこだわり、楽しみです。抽象的な言葉ばかりになってしまって、イメージを伝えづらいんですが、南部鉄器は使えば使うほど、変化していく道具。使い込むことで生まれる変化こそ鉄器の魅力です。
僕は野球部だったので、学生時代に使っていたグローブやスパイクに似ているところがあるなと思っています。試合前や試合後にワックスを塗ったり、きれいに磨いたり。試合で使うことが目的の物だけど、その手入れにも楽しみがあります。
鉄器も同じで、一つひとつ使い終わったあとに、たわしで擦って、油ならしをして、手入れに気を遣う必要がある。でも、それが全然苦痛じゃなくて、むしろ楽しいんですよね。めんどくさい作業のように思えて、真剣にやると日常の中で新しいおもしろさを見出すことができるんです。
そしてその楽しさは話して伝わることというより、経験していく中で自分自身で見出していくものだと思っています。なのでお客さんに鉄器を紹介するときも、なるべく鉄器で料理しているところを目の前で見てもらったり、実際に使ってみてもらったりするようにしています。
情報発信する上でも、なるべく使い方や手入れの仕方のイメージができるように工夫しています。手入れする時に意識することをまとめた記事を作成したり、実際にキャンプに行ってそこで活躍する鉄器の様子を紹介したり。商品そのものだけでなく、日常の中でその道具がどう使われているかを見せることで、おもしろさを伝えられたらと思っています。鉄器自体がいいということだけじゃなくて、その道具を使っている時間や過程の楽しさを提案できるように意識していますね。
「おもしろい時間」を増やしていく
みなさんにお伝えしたいのは、「『ゆるキャン』を見て、自分のお気に入りの道具をみつけ、ぜひキャンプをしてみてください!」です(笑)。昨今はスマートフォンひとつで見ることができる面白いコンテンツがたくさんありますよね。僕はそういったコンテンツの楽しみ方は大きくふたつのパターンがあると思っています。
1つは、動画や画像を見たりとコンテンツ情報を受け取って楽しむこと。もう1つは情報を受け取るだけで終わらずに、そこで知ったことを実践して自分なりの楽しみを見つけることです。おすすめしたいのは後者を実践して自分なりの楽しみ方を見つける方です。例えば『ゆるキャン』というキャンプがテーマのアニメをただ見て楽しむのではなく、実際に湖畔で読書をしてみたり、外で何か料理をつくって食べてみたりしてほしいなと思っています。
僕が学生の時は、まだスマートフォンが世の中に普及され始めたばかりの時期だったので、画面に向かう時間よりも、休日に友達と釣りに行ったり、外でスポーツをしたり身体を動かす時間が多くありました。でも、いざ今の自分を思い返してみると、最近は気づいたらネットで動画を見て、知らないうちに時間が経っていることが多いんですよね。
スマートフォンを見ているときは楽しいのですが、後になって振り返ってみるとその時間の過ごし方を後悔することもあります。一方で、身体を動かして、実際に何かを体験した時間は後で思い出しても、楽しくていい思い出だったなと思えることが多いです。自分で何か実践したことで、おもしろいと感じられる時間を増やしていくのはとても大切だなと思っています。それは何か特別に努力しなければいけないことではなく、自然と興味を抱けることがあれば、その気持ちのまま実践する機会を増やしてみてほしいです。
受け取る情報が多くなりがちな現代社会の中で、自分が実践して得た経験はとても貴重なものだと思います。そして、その経験がきっと将来どんな仕事をするか選ぶときにも役に立つはずです。ぜひ『ゆるキャン』を見て、実際に自分でキャンプをしてみてください。その中でもし鉄の道具に興味を持ったらいつでも僕に連絡ください。使い方などいろいろ詳しくお伝えしますね。
(本の情報:国立国会図書館サーチ)
写真提供:大瀬さん